新産業が創出される地域、衰退する地域の違いとは?
新産業は、真空状態から生まれるわけではなく、旧産業で使われた技術やそこに従事した人材が重要な役割を果たす。また、近年、地域の個性ある商品が見直されているが、それを考えるうえでは、消費者と生産者との地理的関係に関する4分類が有用となる。
文・吉川智教 早稲田大学大学院・ビジネススクール元教授
「ドイツ連邦政府が調査した最近のドイツ12都市の新産業創出」と「商品の消費者と生産者との地理的関係に関する4分類と新しい21世紀の現象」の2つのテーマについて、清成忠男先生の最近のご研究と調査の一端のお話を伺った。本稿は、その聞き取り内容と解説である。
ドイツ連邦政府が調査した
最近の同国12都市の新産業創出
ドイツでは、情報化社会に対して、連邦政府がイノベーションの強化や新産業創出に力を入れている。その一端を読み取れるのが、図1のドイツの12都市のデジタルハブの見取り図である。
図1 ドイツ12都市のデジタルハブ
さらに図1に基づき、12都市の旧産業と新産業を表1に対比させた。例えばハンブルクは、港と造船業で有名であるが、そこからインターネットと結びついた新しい物流産業が生まれつつある。カールスルーエは、原子力発電で有名な地域であり、そこには多数の科学者やエンジニアがいるので、AI産業が生まれつつある。
一方で、旧産業のままの地域であれば、米国のRust Belt(製造業・重工業地帯)に代表されるように、地域経済は疲弊する。
さらに、図1は、この12都市それぞれの技術がハブ化して各都市がネットワークでつながり、ハブそのものがオープンとなって、既に相互依存関係があることを示している。地域間産業の相互依存関係はドイツ経済をさらに強くする源泉であり、特に重要である。
日本でも、このような新旧産業の比較表をつくり、地域の経済政策を考える必要がある。
表1 ドイツ12都市の旧産業と新産業の比較
この対比表1と図1から、重要な結論が導き出される。新産業は真空状態から生まれるわけではなく、実は、旧産業で使われた技術やそこに従事した人材が重要な役割を果たしている。これらの現象は、技術や人材に関する『Path Dependency(経路依存)』と呼ばれ、よく知られた現象である。ドイツの12都市だけでなく、米国のシリコンバレーでも新産業が創出される時には、しばしば見られる。
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