2017年9月号

2020キャッシュレスイノベーション

インバウンド戦略、成功のキーファクター 「消費額」に着目

インバウンド・地方創生研究会

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訪日外国人旅行者というと、「人数」に注目が集まり、「消費額」は見落としがちだ。消費額拡大のためには、キャッシュレス整備は重要であり、訪日客だけでなく地域住民の利便性向上にもつながる。2020年に向けた各地のキャッシュレス整備促進策を探る。
聞き手:岸波宗洋(事業構想研究所 所長)

 

政府が2020年に訪日外国人旅行者4,000万人により、消費額で8 兆円規模の市場を生み出すという目標を打ち出す中、多くの自治体がDMO (地域と協同して観光地域づくりを実施する法人)を立ち上げ、観光地経営に取り組んでいる。このような中、インバウンド消費の拡大やキャッシュレス環境整備について検討する「インバウンド・地方創生研究会」が開かれた。

井上 正幸(秩父地域おもてなし観光公社 事務局長)

秩父・観光公社 井上事務局長
DMOに求められる「稼ぐ力」

研究会ではまず、秩父地域おもてなし観光公社 事務局長の井上正幸氏が講演した。秩父市と隣接4町が連携し、半官半民で観光を推進している公社では、東京オリンピックが迫る中、今年を外国人観光客誘致に注力する「インバウンド元年」と位置付けている。

現在は地元の観光産業で重要な位置を占める西武鉄道とも連携し、月1回の「インバウンド政策コア会議」を開催している。会議では若手職員や関連企業の約60人が集い、インバウンド対応に関する意見を出し合う。その対応策はこれまでのところ、受け入れ態勢整備が中心だ。しかし、国策として、各地の「稼ぐ力」を引き出すことが求められている中、井上氏は「今後は消費拡大に向けた、キャッシュレス環境整備も進めていきたい」と意欲を見せる。

大内 賢一郎(札幌市 経済観光局 観光・MICE推進部 観光・MICE推進課事業調整担当係長)

札幌市経済観光局 大内係長
おもてなし強化へ民間と連携

続いて、札幌市経済観光局観光・MICE推進部観光・MICE推進課事業調整担当係長の大内賢一郎氏が講演を行った。札幌市の観光客数については、気候が温暖な夏場に増加し、冬場は落ち込むという特徴がある。

他方で、近年増加傾向にある外国人宿泊者数は夏場だけでなく、冬場も増えている点でこれとは異なる。このため札幌市では冬場の「閑散期対策」という点からも、インバウンド向け事業の展開に力を入れている。

役所にはないノウハウやネットワークを持つ民間企業の協力にも期待しており、「さっぽろ雪まつり」を機にVisaとの連携事業も進めてきた。大内氏は「民間企業の協力を得つつ、キャッシュレス環境の整備も進め、『おもてなしのうねり』を生み出したい」と語った。

松田 典久(ビザ・ワールドワイド・ジャパン 取締役 次席代表)

Visa 松田取締役次席代表
キャッシュレスの現状を解説

インバウンド旅行者の日本での支払いに関する調査(出典:ビザ委託調査ブラックボックス/外国人旅行者に関する調査(2016年7月)では、旅行中にカードを主に支払いに使用した人の平均消費額は、現金主体で支払った人の平均消費額と比べて約30%多いという結果が出ている。

ビザ・ワールドワイド・ジャパン取締役次席代表の松田典久氏による講演では、キャッシュレス環境整備効果を解説すると共に、国内における整備の遅れや課題の指摘がなされた。

特に、キャッシュレス化が進んでいない地方では、カード手数料負担が、キャッシュレス環境整備の途上で話題となることがある。

また、日本の個人消費支出におけるカード支払いの比率は今だ17%にとどまっており、韓国や豪州(約70%)など他の主要国と比べて極めて低く(2014年時点、出典:Euromonitor2014 card Volumes)日常的にカード決済に慣れ親しんでいる外国人旅行客から見ると日本のキャッシュレス環境は未整備で、まさに発展途上の様相を呈している。

松田氏は、政府の「日本再興戦略」(今年度は「未来投資戦略2017」に名称変更)では、この比率を10年後に倍増の40%程度に引き上げる目標が掲げられていることを挙げ、「今後は政府KPI達成に向けて、都市部だけでなく、地方創生の観点から地方銀行や地銀系カード会社を含め、キャッシュレス化への取り組みを広げていく必要がある」と述べた。中でも五輪開催は、これまで世界各地の開催国でキャッシュレス環境整備の契機となっており、閉会後もレガシーとして自国民のキャッシュレス制度として定着している。五輪スポンサーでもあるVisaでは、2020年の東京五輪に向けて、その整備での大きな貢献を目指している。

谷本 龍哉(事業構想研究所 客員教授)

キャッシュレスは貨幣の通訳

講演に続くディスカッションでは、事業構想研究所・所長の岸波宗洋氏による進行の下、インバウンド施策やキャッシュレス化に関する課題について議論がなされた。

岸波氏がキャッシュレス環境の整備では、「マネーリテラシーの変革には時間がかかる。オリンピック契機をとらえるならば、テスト地域を選定し、カードリーダーや端末の大規模導入を促し、店舗単位ではなく、地域の小売消費を確実に30%引き上げる努力が必要。それによって、エリアマーケットの拡大とインバウンドへの準備を同時にとらえられる」と述べたのに対し、井上氏は「外国人旅行者のためだけでなく、地域の商店街活性化のためといった目的も掲げて推進していく必要があるだろう」と指摘した。

また、松田氏は「インバウンドに関する日本の課題としては、言葉の問題も大きい」としたうえで、「キャッシュレスはいわゆる『貨幣の通訳』の役割を担っており、国民全員が英語を話せるようになるよりも、はるかに簡単に実現できることだ。カード加盟店として取り扱いブランドを店頭表示するだけで、ショッピングや食事、観光を楽しみたい外国人のニーズに対応でき、支払いに関する不安を解消することが可能となり、消費を喚起する」と、そのメリットを挙げた。

キャッシュレス化は多岐の分野にわたる課題となっているが、2020年までに、特に大都市圏や政令都市などでの環境整備が望まれる。まずは首都圏で整備を進め、その後に地方へ広げていくことが考えられる。この点についてディスカッションでは、都市部と地方の促進策では異なった手法が求められること、加盟店手数料負担に関する正しい理解、個々の地域に合った方法の検討も重要であることが指摘された。

さらに、事業構想研究所の谷本龍哉氏は、「キャッシュレス化では、国や地方自治体が政策的に行うことと、民間で努力することの2つが必要」としたうえで、「2020年の東京五輪は1つの大きな契機となるが、大都市圏と地方には違いがあり、それぞれの状況に応じて、キャッシュレス化を推進していく必要がある。また、インバウンドや観光客を対象とした対策と、住民を含めた一般生活における対策の2本立てで考えていく必要があるだろう」と総括した。

 

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