NYで強まる「リアル店舗」への回帰、「体験」の再評価

近年、Eコマース企業によるリアル店舗への進出が相次いでおり、その動きは、Amazonなどの大手、グーグル、フェイスブックをはじめとするIT企業にも広がっている。なぜ、リアル店舗が注目されているのか? それを紐解く鍵が、ニューヨークにある。

2015年、ニューヨークに登場した小売大手『ターゲット』の実験的ポップアップ店。
体験型アトラクションに商品展示を組み合わせており、「未来の小売業」とも評された

実店舗で高まる「体験」の価値

電子商取引(Eコマース)が拡大を続けるアメリカの小売業界で、今、歴史的なターニング・ポイントとなる変化が起こっている。インターネット上のバーチャル空間で成長を遂げたEコマース企業がリアル店舗をオープンする事例が増え、注目のトレンドになっているのだ。

注目されるのも当然だ。インターネット上のバーチャル空間なら、店舗を維持するための家賃、電気代、人件費などのコストは一切かからない。集客も、インターネット上なら世界中からお客がやってくるが、実際の店舗となると訪れることが可能なのは、物理的にその店舗の近くに住む者だけに限られる。すでにEコマースで成功した企業にとって、リアル店舗は費用対効果が著しく悪いように感じられるだろう。

それにも関わらず、なぜEコマース企業がわざわざリアル店舗を出すのか? 不思議に思う方も少なくないだろう。この一見奇妙な現象を理解する鍵は、世界の流行・トレンド発信地であるニューヨークにある。

(1)ポップアップ店
 ~エッツィなど

2010年前後頃からニューヨークでは、異例のケースとしてリアル店舗を出すEコマース企業が、各種メディアで話題になるようになった。

ニューヨークのSOHO地区に期間限定のポップアップ店を出した2012年の『エッツィ』(Etsy)や2014年の『ブーフー』(Boohoo)が、その先駆けとなる事例だろう。

『エッツィ』は、インターネット上の最大手ハンドメイド・マーケットとして米国内ではとても有名だ。同社の期間限定のポップアップ店は、『エッツィ』の人気クリエイターがハンドメイド製品を作る製作過程を実演するなどして、IT関連、DIY関連ほか各種メディアの注目を集めた。

また、英大手ファスト・ファッション小売サイト『ブーフー』のポップアップ店は、Eコマースで取り扱っている商品の一部をサンプル的に展示しただけで、店内で商品を販売したり、受け渡すなどはしていなかった。

一見すると、普通のブランド・ショップのようだが、試着しかできない。しかし、欲しい人はインターネット上でいつでも買えるため、これでまったく問題ないのだ。その代わり店内ではもっぱらパーティやファッション関連のイベントを開催し、洋服を売るというより、まるでイベント・スペースのような話題の豊富なポップアップ店であった。

つまり、いずれもリアル店舗を出す主な目的は、プロモーションの一環だ。そのため、より話題になりやすいように世界的なトレンド発信地であるニューヨークのSOHO地区が出店地に選ばれたのだろう。この地では、ごくありふれたお馴染みの単発の広告キャンペーンに徹していたとも言える。

英大手ファスト・ファッション小売サイト『ブーフー』のポップアップ店は、商品をその場では売らず、オーダーは、インターネットに接続されたタッチスクリーン式モニターで行う

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