「医療×デザイン」の融合拠点、ものづくりの力を引き出す

2014年8月、名古屋市立大学病院内に設置された「医療デザイン研究センター」。産官学融合の拠点であり、先進技術の活用が進む。センター長・國本桂史氏に話を聞いた。

使いやすく人体を傷つけない新型喉頭鏡。ブレード部を透明化し、光源は高輝度LEDを使用して光量・拡散角を広げ、術者の視野を向上させている

―「医工連携」の施策が、全国各地で進められています。従来の「医工連携」の課題を、どう見ていますか。

國本:医師と企業が顔を合わせて連携を模索する取り組みは、以前からありました。しかし、たくさんの候補がいる中でパートナーを探す方式は、成果につなげるのが難しいのが実状です。企業にとっては、同じ場に競争相手がいるわけですから、どこで情報が漏れるかわからず、具体的な話を進めづらい。だから、いつまで経っても物事が進まないのです。

ではどうするか。そこで考えたのが「連携」ではなく「統合」です。核となる機関を設けて、その下で一体になれば、柔軟に連携して医療機器の開発を加速できる。

その提案を、名古屋市立大学、経済産業省のいずれもが前向きに考えてくださり、2014年、名古屋市立大学病院に医療デザイン研究センターが開設されました。

―病院内に医療機器の開発拠点を設けるというユニークな取り組みになります。

國本:医療デザイン研究センターの役割は、日本そして中部地区における医療機器開発の「一丁目一番地」になることです。中部地区には、自動車、航空宇宙などの分野で活躍している企業がたくさんあります。そうした企業の技術をヘルスケア領域で活かすために、産官学が融合する窓口、真のコーディネーターになるのが医療デザイン研究センターです。

医療を熟知した医師の知があり、ものづくりに精通したエンジニアの知がある。しかし、医師は自らの医療行為を「奉仕活動」と捉える面があり、それは「営利活動」を基本とする企業の姿勢とは相反する傾向にあります。これをつなぐことができるのは、誰も見たことのない未来を視覚化できる知を持ったデザイナーなのです。

日本では「デザイナー」と聞くと、スタイリッシュな造形をする人がイメージされますが、それは本来「スタイリスト」であり、デザイナーはゴールへの道を描き、そのために必要な技術を考えて進行させるという水先案内人の役割を果たすべき存在です。

「立体造形機」のインパクト

―医療デザイン研究センターでは、3Dプリンタの活用が進められています。

國本:今、「3Dプリンタ」と呼ばれるものは、さまざまな造形方式の機械が含まれており、「3Dプリンタ」という言葉では、その本質を正しく表現できないと考えています。私は「立体造形機」、または「ラピッド・プロトタイピング・システム」と呼ぶようにしています。

この「ラピッド~」という名称からもわかるように、立体造形機のメリットの一つは、プロトタイプを素早くカタチにできること。一例として、私が構想からデザイン設計までを担った喉頭鏡(こうとうきょう)「OPUS ONE KUNIMOTO」は、企画のスタートから約7ヵ月半で完成しました。以前なら、10年かかってもおかしくないと考える人もいるでしょう。

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