「今、売れているもの」を追わず 世界が認めた「独創の糸」
世界の一流ブランドが買い付ける佐藤繊維の「糸」。同社は、自社ブランドのニットも展開し、成果をあげている。4代目が改革を牽引し、海外への発信力を高めてきた。
2009年1月に行われたオバマ米大統領の就任式。そのとき、ミシェル夫人が着ていた黄色いカーディガンは、山形でつくられた糸によって編まれていた。世界の一流ブランドにも認められる独自の糸づくりに成功したのは、山形県寒河江市に本社を置く佐藤繊維だ。社長の佐藤正樹氏は、こう語る。
「歴代の大統領夫人は、オーダーメイドの服を着るのが慣例でしたが、ミシェル夫人は、一般の人たちと同じく市販の既製服を着ていました。そんなミシェル夫人が、一番の晴れ舞台である就任式で何を着るのか注目されていましたが、そこに、それまでは正装とみなされていなかったカーディガンを着て現れた。それは、ある意味でファッションの常識を変える歴史的な出来事でした。山形の小さな工場が、歴史的な場面をつくり出したんです」
あえてトレンドは追わない
佐藤繊維の創業は、1932年。佐藤社長の曾祖父が立ち上げ、周辺農家とともに羊を飼い、その羊毛で糸を紡ぐ紡績業として始まった。現在は糸づくりだけでなく、ニット製品の製造も行う。佐藤社長は4代目だ。
「最初は、家業を継ぎたいとは思っていませんでした。モノづくりよりも、デザインなど東京で華やかな仕事をしたいと思っていたんです」
しかし結婚を機に、92年に山形に戻り、佐藤繊維に入社した。当時、日本の繊維産業の出荷額はピークにあった。同じことを続けていれば、売上げが伸びていた時代。それが終わりつつあるのを、佐藤社長は早くから感じていた。
「繊維産業は労働集約型で、製造コストに占める人件費の比率が高い。90年代前半、中国の人件費は日本の20分の1。価格競争には、絶対に勝てません。繊維産業の中でも、一番、人件費比率が高いのはセーター。真っ先に無くなるのは、自分たちの会社だと危機感を覚えていました」
佐藤繊維が生き残るには、どうすればいいのか。ヒントになったのは、97年に見学したイタリアの糸の工場だった。
「西洋」の「洋」は、さんずいに羊と書くように、羊毛文化の本場はヨーロッパにある。一流ブランドのデザイナーも、糸はつくれない。イタリアの糸の職人たちは、自分たちが新しいファッションをつくり、トレンドを発信しているという自負にあふれていた。
「一方で、日本の繊維産業はトレンドを追いかけてばかり。今、売れているモノはマーケットにあふれているので、日本でつくっても勝ち目がない。自分たちで考え、新しい文化をつくらなければと考えました」
逆転の発想で「古い機械」に注目
トレンドを追わず、自分たちにしかできない糸づくりを追求する。「どのような糸をつくればいいのか」を発想するにあたり、自分たちで最終製品であるニットを製造していたことも役に立った。
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