台湾の日本旅行は「甲子園」!? 地方中心のインバウンド戦略
今年1月に日本政府観光局は、昨年の訪日外国人は1973万7千人と発表。政府が2020年を目標としていた2000万人を、5年前倒しでほぼ達成した。日本経済の重要な柱であるインバウンド観光は、地域活性化のカギとなり得るのか。
訪日外国人の数は2012年と比べ、3年で約1100万人の伸びを見せている。観光庁の試算では、昨年、インバウンドが及ぼした日本経済への効果は約3兆4771億円。これは、日本の電子産業の輸出額に相当する。
日本航空に32年勤め、台湾に約8年駐在、現在ジェイアール東日本企画・ソーシャルビジネス開発局でインバウンド関連の仕事に携わる鈴木尊喜局長は、「観光庁の試算に入っていない航空券代を含めれば、実際に落とされているお金は4兆円近くになるでしょう。インバウンド観光は、非常に大きな産業に成長していると言えます」と話す。
政府では、新たな目標値として、訪日外国人数3000万人を掲げている。
「3000万人に突入すれば、これはもう、観光大国と言ってもいいでしょう」
事業としてのインバウンド観光を考える時、注目したいのが訪日外国人の内訳だ。昨年約2000万人のうち、中国、韓国、台湾、香港の東アジアが72%を占めている。
「日本は東アジアの大きな結節点になっていると感じます」
欧米からの訪日外国人も増えているが、日本を取り巻く東アジアの旅行客をメインカスタマーに据えて事業構想、戦略を立てることがポイントとなりそうだ。
インバウンドはプラス要素
観光庁の宿泊旅行統計調査(平成27年度11月)を見ると、訪日外国人のうち71%が、東京都・大阪府・京都府・沖縄県・北海道・千葉県・福岡県・神奈川県の上位8都道府県に宿泊している。中国、四国、東北地方を訪れる外国人は、それぞれわずか1~2%だ。
人口の東京一極集中、中山間地域などの過疎化は日本全体が抱える社会課題だ。インバウンドについても、特定地域に集中する外国人をどう分散化していくかが大きな課題となっている。
「交流人口を増やすことは、地方の活性化につながりますが、日本国内でやったのでは必ずゼロサムゲームになります」
ある地域に人が動けば、ある地域には人がいなくなる。日本人の国民一人当たりの国内宿泊観光回数は1.3回でここ10年来減少し続けている。つまり、日本人の旅行は増えていないのだ。日本人の宿泊が増えない限り、人口減少の進む国内だけで地方分散化をはかっても、効果は薄い。その点、インバウンドはプラス要素だ。
「インバウンドの地方分散化は、地方創生への有効な手段の一つと言えます」
インサイト(心の憧憬)に注目
インバウンド観光のビジネスモデルを構築する際、どうしても宿泊動向や消費行動調査などの観光統計資料に頼りがちだ。しかし、鈴木氏は「外国人が日本旅行に“望むこと”と、実際の旅行における“行動”とは、必ずしも一致しない」と話す。
鈴木氏が注目するのは、そうした行動実績よりも、外国人が日本に何を求めているのかというインサイト(心の憧憬)だ。
2年前、台湾に日本旅行ブームが起きた。きっかけは、日本統治時代に日本人監督により甲子園に出場した台湾の野球チームを描いた映画『KANO』だ。それまで観光ルートに成り得なかった甲子園球場に、台湾旅行者がこぞって訪れた。
成熟社会の日本では、似たようなサービスやモノが溢れている。
「外国人観光客が、何で旅行先を選ぶのかといえば、その土地にあるストーリーや歴史、文化です」
モノではなく、いかに魅力的なストーリーを作り上げていくか。これが、インバウンド観光の大きなカギだ。そして、そうした固有の文化、伝統、ストーリーは地方にこそ、眠っていると言える。
地方分散化の可能性
調査で見る訪日外国人の「意識」と「行動」の差(例:台湾)
入門編は台湾市場
インバウンドの地方分散化では「ゴールデンルートを周る団体旅行ではなく、個人旅行者が増えれば地方を訪れるのではないか」とよく言われる。しかし「個人旅行者が増えれば、人はますます東京や都会へ集中する」というのが、鈴木氏の見解だ。
地方の大きな課題は二次交通にある。個人で移動するには、日本語をよほど巧みに話せなければ難しい。つまり、バス利用の団体旅行客に地域オリジナルの新たな周遊ルートを提案していくことが、インバウンドにおける地方分散化の早道と言える。
インバウンド観光を考える時、台湾市場を見るのが、最も入りやすい入門編と言える。日本に近い割に意外と知られていないのが台湾市場。台湾の訪日旅行推移は、1979年から2014年まで順調に増え続け、2004年以降は11年の東日本大震災時を除き、常に100万人を超えている。
「台湾は、どんな時でも必ず日本に来てくれる、お得意様市場。インバウンド観光でビジネスを考えるのなら、まずはここを、しっかり押さえるのが重要です。さらに、中国大陸を睨んだテストマーケティングとしても、大きな役割を果たすでしょう」
インバウンド観光は時間をかけて海外との人脈とパイプを作り上げていく息の長い事業だ。
「何ごとも走りながら考えていくスピード感と柔軟性、そして、何よりも長く継続していくことが重要です」
- 鈴木 尊喜(すずき・たかよし)
- ジェイアール東日本企画ソーシャルビジネス開発局 担当局長
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