ファーマーズマーケットで地域を繋ぐ JAの農×地方創生

農業は地域の核となる産業である。このポテンシャルを活かし、JAグループは近年、さまざまな地域活性化事業を推進。中でもJAおうみ冨士(滋賀県守山市)では、JAファーマーズマーケット(農産物直売所)を起点に自治体と連携し、観光振興や雇用創出に寄与している。

JAおうみ冨士のファーマーズマーケット「おうみんち」は、地域活性のハブ拠点として機能している

JAグループは、「食と農を基軸として地域に根ざした協同組合」として、「農業者の所得増大」「農業生産の拡大」を最重要課題に掲げて農業振興を進めている。また、「地域活性化」をキーワードに、6次産業化、コミュニティ形成、教育、雇用創出など幅広い分野で地域振興にも取り組んでいる。

「地域活性化」を進める上では、多様な事業体、とくに自治体との連携が欠かせない。モデルケースと言えるのがJAおうみ冨士だ。

JAおうみ冨士が拠点を置く滋賀県南東部は、近江米の産地として古くから稲作農業が盛んである一方、都市近郊型農業地域としての顔も併せ持っている。近年は京都、大阪のベッドタウンとして人口が増加し、急速に都市化が進んでいるエリアでもある。ファーマーズマーケット「おうみんち」は守山市・野洲市に3店舗展開し各行政とは積極的に連携を図っており、守山市が「地方創生」の取り組みとして2015年10月にまとめた「まち・ひと・しごと創生総合戦略」では、仕事づくりやそのための人材育成、また観光交流推進の施策において、「おうみんち」の果たす役割の重要性に触れられている。

「6次産業化」をきっかけに地元自治体と連携

「おうみんち」のオープンは2008年5月。農産物直売所に加え、地域食材を使ったバイキングレストラン、交流施設など合わせ総敷地面積は約9100㎡に及ぶ。その開設をきっかけに行政との接点が強くなり、11年12月には守山市に設置された「6次産業活性化連絡会」へ参加。12年4月にJAおうみ冨士と守山市が主体となって「なばなコミュニティプロジェクト」がスタートし、現在は「もりやま食のまちづくりプロジェクト」として展開している。

地域の特産である「菜の花(なばな)」に着目し、通常食べる柔らかい葉やつぼみだけでなく、花芽を天ぷらやちらし寿司、佃煮にしてレストランのメニューで提供している。また、花芽や茎を乾燥粉末にし、まんじゅうやおはぎ、ジェラートに混ぜて商品化し人気を集めている。この乾燥工程は福祉施設に委託しており、地域の雇用創出にも貢献している。

「ノーと言わない」姿勢からアイデアが生まれる

JAおうみ冨士のこうしたフットワークの軽さは、「おうみんち」が開設以来掲げてきた「ノーと言わない店づくり」の賜物だ。「たとえばお客さんから端境期の野菜や生産していない野菜を求められたときに、それを『応えられなかったリスト』にまとめ、営農担当者を通じて生産者にフィードバックしています」と食育園芸部長の川端均氏は語る。

川端 均 JAおうみ富士 食育園芸部部長

そうして生まれたのが「冬メロン」だ。名産のメロンは通常夏場に出荷されるが、暖房を使わない無加温による栽培に成功。2015年12月から限定1千個で出荷したところ1週間も経たないうちに完売した。

「ノーと言わない」姿勢は滋賀県や守山市・野洲市との連携においても貫かれている。「担当者から年度ごとに施策のキーワードをいただき、そのテーマを踏まえ、私たちがどのようなことで貢献できるのかを考えます」

例えば「食育」のキーワードから生まれたのが「キッズファーマーズ」。学校側の考える食育プランを後押しするために必要な機会や道具を提供し、畑作りをサポートする。学校で収穫された米や野菜は「おうみんち」で使用することもある。

1日農業者体験プログラムには地元の大学生も参加。農業の担い手育成にも貢献している

農業から派生する「立体的」なまちづくり

「青空フィットネスクラブ」は、消費者でもある地域住民・近隣都市住民との交流を目的に誕生した1日農業者体験プログラムだ。会員は、種まきから草抜き、施肥、収穫までの野菜作りを体験し、収穫した野菜を使った料理教室や郷土料理の試食会など年間20回開かれるイベントに参加できる。「農業者の高齢化が進み、作付面積がどんどん減ってしまっています。こうした体験に来て頂くことが、持続可能な農業にもつながっていきます」と川端氏。会員は現在320人にまで増えている。

体験プログラムは近隣のホテルの宿泊者向けのオプションツアーとしても受け入れている。日本人観光客だけでなくインバウンドも増えつつあり、農業体験のほか、菜の花を使った草木染などのプログラムも喜ばれている。

地域との連携でさまざまなプロジェクトを動かしてきた川端氏は、毎日野菜を直売する580人の出荷登録農家、1200人~1500人の1日の来店客、それにスタッフを合わせた約2000人を「家族」と呼ぶ。

おうみんちを支えている「家族」は、着実に増えている。「なばなコミュニティプロジェクト」から派生した「なばな生産部会」は栽培面積が当初の10倍(5ha)へ。冬メロンの好調な作付けで農事組合法人が雇用を計画しており、地域の農産物を活用したバイキングレストランでは、5人のコアメンバーが今では26人の農村女性雇用を生んだ。おうみんち開設による地域雇用者は64名にまで膨らみ、行政との連携と農家+消費者+スタッフの立体的な取り組みにより経済効果は10億円を超えている。

川端氏は、地域のインフラとして広がりを持つ「農業」の可能性に、大きな手応えを感じている。「1次産業である農業にイノベーションを興すと、おのずと人づくり、まちづくりへと立体的につながっていきます。そのためにもまずは子ども、消費者、旅行者など農に携わる人を増やしてきたい」。地域にまた一人「家族」を増やすために今日も頭をひねる。

地域特産の「なばな」を使った惣菜など、「おうみんち」では6次産業化の成果を多数販売

お問い合わせ

  1. 全国農業協同組合中央会(JA全中)
  2. TEL:03-6665-6011
  3. E-mail:t-kouho.s@zenchu-ja.or.jp
  4. URL:http://www.ja-kizuna.jp/

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