革新型リーダーの感性と知性の磨き方 「夢中力」を鍛える

日本の可処分所得は21世紀に入って60万円近く下がった。海外市場も日々変化し、中国の驚異的な経済成長も鈍化を見せ、「どの市場で、誰に、何を売るのか」が課題である。クレディセゾンの林野宏社長が、激動の時代に生きるリーダーが備えるべき資質を語る。

「日本企業はモデルチェンジのときを迎えている」。独立系クレジットカード国内シェア第1位のクレディセゾン代表取締役社長の林野宏氏はそう断言する。

林野 宏(クレディセゾン代表取締役社長)

変革すべき最大の理由は消費マーケットの変化だ。その要因は可処分所得の下落であり、2000年の515万円に対して、2014年は458万円である。しかも、景気浮揚で賃金が上がっても、所得税や社会保険料の負担が重く、消費活動に回るお金が増やせない。家計消費支出を10年前と比較すると、外食・レジャー・文化や外食・宿泊など多くの項目で支出が減少している。

「成長市場で勝負すれば楽ですが、非成長かつ消費縮小のマーケットで事業をするのは大変なこと。自分たちがどのマーケットで、どのような仕事をしているのかをよく考えるべきです」

消費構造も変化している。たとえばPB(プライベートブランド)は当初、NB(ナショナルブランド)の焼き直し商品だったが、今では品質にもこだわったアッパーゾーンで勝負するようになった。無印良品やニトリなどに代表されるSPA(製造小売業)も現代消費を象徴するキーワードである。

さらに20世紀に成功した組織やそれを動かしてきた人材がリタイヤし、多くの日本の企業は将来像を描けずにいる。企業はイノベーションにチャレンジすべきであり、海外進出を恐れず「未知の国」「未知の顧客」と共同事業をなすべき時が来ているという。

イノベーションの源泉
成功するための法則

こうした市場変化を受けて、多種多様な企業が中国市場に参入しているが、林野社長は「海外戦略はASEANをメインターゲットにすべきだ」と語る。中国は規制やルールが都合よく改定され、反日運動が突如起こるなど、安定したビジネスが難しい側面を持つ。これに対してASEANは親日傾向で、日本ブランドに対する評価は高く、信頼もしている。

「過去の日本式経営では立ち行かない時代です。自らをイノベートしていけない企業は取り残されて負けていきます。毎日、毎日イノベートすることが重要なのです」

一般に企業やビジネスモデルの寿命は30年間と言われる。事実、クレディセゾンは約30年ごとに変革を迎えてきた。1951年に月賦百貨店「緑屋」として誕生し、1982年にクレジットカード会社へと転身した。そして今、更なるビジネスモデルチェンジに挑戦している。経営戦略の前提は「グローバル」「インターネット」「イノベーション」であり、競争相手は銀行系カード会社よりも楽天カードやイオンファイナンシャルサービスに変化したという。また、将来収益基盤を構築するために、戦略的にベンチャー投資を行うなど、新規事業にも果敢に挑んでいる。

「成功するために、いくつかの大切な法則があります。そもそも成功するとはどういうことか。私は夢中になれるものを見つけて仕事にするか、与えられた仕事に夢中になるかしかないと思っています。多くの人は組織で働くわけですから、自分に与えられた仕事を面白がること、夢中になれることが大事。そこから何かを学ぶわけです」

成功如何や仕事の出来不出来を能力という視点で語ることがある。林野社長によれば「能力とは目標に向かって努力する情熱の持続力」のこと。仕事に夢中になれば、努力も苦ではないし、情熱を注げる。これを持続できずして成功はあり得ないというわけだ。

消費構造の変化 ~PBコンセプトの変化とSPAの躍進~

出典:林野宏氏講演資料より作成

答えのない問いを考え続ける知性と感性の磨き方

仕事に夢中になる力は読書や音楽など、何かしらの遊びに夢中になることで鍛えられるという。傍から見ると遊んでいるだけに思えても、遊びを通して夢中になるとはどういうことかを体感として理解できれば、夢中力が鍛えられる。獲得した夢中力は仕事や勉強にも生かせる。

もちろん、それだけで成功できるほどビジネスの世界は甘くない。林野社長は「現代のビジネスパーソンにとって重要なことは『知性』を磨くこと」だと説く。

「『知性』とは答えのない問いに対して問い続ける能力のことです。先日開催された野球のU-18(18歳以下)ワールドカップで、日本は準優勝でしたね。1点差で敗れるのは実力差のせいではありません。それなのになぜ日本は優勝ではなく準優勝だったのか。こういう答えのない問いを考え続けてください」

ビジネスは唯一無二の答えが存在しない世界である。課題の解決策を考え、絶えずイノベーションをし続けなければならない。人とは違うアイデアを生み出すには「知の泉」が必要だ。それはビジネス書ではなく、世界観を広げる読書の積み重ねで形成できる。壮大なストーリーや描写に感動することは感性を磨くことにもつながる。自分自身を磨くための読書や遊びの時間を生み出すことは革新型リーダーのひとつの条件と言えるだろう。

林野 宏(りんの・ひろし)
クレディセゾン 代表取締役社長
 

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