2015年7月号
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事業構想家の哲学

史上最強の社内ベンチャーの旗手「国産技術の確立者」小平浪平

池内治彦(ノンフィクションライター)

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「日立精神」は、数々の“失敗”のなかからうまれた。一貫して模倣を嫌い、“オリジナリティー”にこだわった「創業精神」。丸太小屋を「世界の日立」にまで築き上げた哲学とは。

今日のように、先のまったく読めない時代であって、またそういう時代だからこそ、企業トップは夢を語ることが大事なのではないだろうか。トップが夢を語れないと、企業は目先の利益にばかり追われてしまうことになりかねない。

できれば夢は大きいほうがいいであろうし、そこから新しい技術や組織、人づくりだってうまれてくる。そして最も大切なことは、夢を実現させたかったら「ひとまね」ではいけないということだ。企業は自分たちでうみだす「オリジナリティー」をもっと大切にしていかなければならない。ところが最近の日本の「モノづくり」はというと、すでにある製品に何かを足してみたり、引いてみたりしたものばかりが矢鱈と目につく。

日本人ほど「ひとまね」が巧みな国民もいない。それはそれですごい能力ではあろう。が、ときに「オリジナリティー」に欠けると揶揄されることがある。日本全体が西洋列強の「模倣」に血眼になっていた明治期に、「国産技術」という夢にこだわり、果敢に挑戦し続けたひとりの青年技師がいた。1908年(明治41年)、ようやく日本にも「重工業」が芽生えかけてきた時代。かれは、当時寒村だった茨城県の人里離れた鉱山の草深い谷間に、杉皮ぶきの粗末な丸太小屋を建てた。冬ともなれば壁のない小屋は寒さが身にしみた。しかし丸太小屋の主である青年技師の心は燃えていた。その青年技師の名は小平浪平(1874-1951)といった。

国産技術を確立した日立製作所創業者・小平浪平 写真提供:日立製作所

日立製作所の創業者である。じつは「世界の日立」は、この通称“日立製作所創業小屋”から始まったのである。「日立」にまつわる経済人といえば、“鉱山王”久原房之助(1869-1965)や久原から事業を引き継いだ日産コンチェルン総帥・鮎川義介(1880-1967)の名がおもい浮ぶが、日産コンツェルン傘下の日立製作所を、技術一筋でゼロから築き上げ、今日の「日立グループ」の中心的存在にした小平浪平という人物も忘れてはならない。

ここでは、「模倣」というものを徹底して嫌い、あくまでも「国産技術」にこだわり、数々の“失敗”をバネに自らの夢を実現したひとりの事業構想家の生きざまに迫ってみたい。

“日立精神”は国産技術の確立から始まる

「日立にはこれといった資本の背景がない。となれば、そのハンディを補うのは、なんとしても国産技術を確立するという初心だ。これこそが“日立精神”であり、それなくして日立はありえない」。

浪平の固い信念だった。

「やせても枯れても自分が使うものは自分でつくる」「作れないのではなく作らないだけだ」。

それが浪平の「モノづくり」における首尾一貫した信念だった。浪平は徹底して「ひとまね」を嫌った。かれの定義によれば、「モノづくり」とはそれまでにつくられたことがないものを自分たちの手でつくることにほかならなかった。浪平の工業人としての特徴は、この「国産技術」という「オリジナリティー」にこだわった点であろう。

そしてつねにその“創業精神”に立ち返ることを忘れなかった。当時のほとんどの企業がアメリカのGEやドイツのシーメンスなど欧米の大企業を模倣し、外国技術や技術指導員の支援を受けていたなか、日立製作所だけが独立独歩、自力で開発を進めていった。国内の先発同業者と同じように外国企業と技術提携するほうがよほど近道である。

「しかしこのままでは日本の電気機械工業界は外国企業に乗っ取られてしまう」。

浪平は強い危機感を感じていた。むろん「独立独歩」には手痛い失敗がつきもの。創業後しばらくは筆舌に尽くせぬ辛酸をなめた。1921年(大正10年)、鉄道省は「東海道線電化計画」なるものを発表した。が、当時日本での「大型電気機関車」の製造は不可能であるとされていた。しかし日立製作所は、1924年(大正13年)に大宮工場においてこの試作に見事に成功したのである。安易な手段によらず、人から教わらず苦しんだ経験は、やがて世界に冠たる将来の新幹線の製造へとつながる国産初の大型電気機関車の成功に導き、「世界の日立」へと発展していくのである。時は少しさかのぼる。それは初夏の雨の夜であった。

「日本の工業を発展させるためには、それに用いる機械も外国から輸入するのではなく、自主技術、国産技術によって製作するようにしなくてはならない。それこそが日本が発展していく唯一の道だ」。

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