2015年1月号

MPDサロンスピーチ

アフリカからリバース革命を 途上国の保健システムを変える

杉下 智彦(独立行政法人国際協力機構(JICA))

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アフリカでは病院の数が少なく、7割が自宅で自然分娩をしている現状だ。安全に自然分娩できる新しい保健システムを構築し、現地の人々が運営できるクリニックを設立する構想を、サロンスピーチにて話した。

独立行政法人国際協力機構(JICA)国際協力専門員(保健医療) 人間開発部課題アドバイザー杉下智彦氏

現実に矛盾を感じ医師としてアフリカへ

「20年前、青年海外協力隊としてアフリカのマラウイへ、外科医師として行ったことがすべてのはじまりです。私はアフリカから世界を変えたいと思っています」JICAに所属する杉下智彦氏がアフリカに興味を持ったのは中学生のときだ。BBCを通じて第一次エチオピア飢饉の様子がテレビに映し出された。たまたまそれを見た杉下氏は大きな衝撃を受けたという。

「自分は元気で普通の生活をしているのに、エチオピアにいる同じ年くらいの子たちはなぜ飢餓で死んでしまわなくてはならないのか。自分が住んでいる世界とのギャップに大きな矛盾を感じた。そのときに医者になろうと決意しました」

さらにアフリカ渡航へのトリガーとなったのは、フォトグラファーのケビン・カーターがスーダンで写した「ハゲワシと少女」という一枚の写真だった。アフリカの悲惨な状況を雄弁に語り掛ける画に心を突き動かされ、すぐに勤めていた大学病院に電話を掛けアフリカへ行くことを告げたのだった。

「この写真は1994年にピューリッツァー賞を受賞しましたが、その1カ月後にケビン・カーターは自殺しています。ニューヨーク・タイムズに掲載されるや、『写真を写している場合じゃない、なぜうずくまる少女を助けなかったのか』と抗議が殺到したのです。抗議をした人たちは実際にアフリカへ行こうともせず、現場にいる写真家のことを非難している。このことに大きな矛盾を感じました。このような一連の出来事が、私がアフリカから発信を行う一番の原動力になっています」

出産を通して世界を変えたい

20年前に初めて訪れたアフリカの地はマラウイだった。そこは驚くべきことに、200万人の人口に対して一人しか外科医がいない世界だった。当時はHIV感染者が成人の30%を越え、実に3年間で3000例を越える手術を行ったという。

「なかでも初日の出来事が一番心に残っています。表敬をしに行ったら、患者がいるからすぐに診てほしいと言われました。診察室にはショック状態で横たわる妊婦さんがいまして、病状は日本では経験したことのない子宮破裂でした。緊急手術で妊婦さんは一命を取り留めましたが、赤ちゃんは亡くなりました。『病院に来る前にやることがたくさんある』と強く感じました。そして医療体制の基板となる社会の構築、保健システムそのものを変えなくては、と心に決めました」

一夫多妻制のアフリカは経済的な所有権を男性が握っているため、女性は簡単に医療サービスを受けられないという現実がある。出産に関して言えば、都市部で進めている帝王切開を受けられるのは一部の富裕層に限られ、多くの人は政府系の質の悪い病院に行くしかない。政府系の病院も無料といいつつ賄賂を要求されるため、70%近くの人は自宅での自然分娩を選択している。

「私には小さな娘がいまして、妻は現在妊娠中です。マラウイでの出来事もあり、私の中には出産を通して世界を変えたいという思いがありました。しかしこうあってほしい、と思っているだけでは変わりません。自分が動かないと世界は変わらないのです。私はアフリカで子どもを安心して産み、そして育てられるようなクリニックを作るため、事業化に向けて動いています」

杉下氏は、アフリカで100万人が安心して出産できるクリニック「SU*TE*KI」の設立を構想する

事業を日本へリバースしたい

事業の名称は「SU*TE*KI アフリカで100万人が安心して出産できるクリニック」。Health・Wellness・Beautyをテーマに安全な自然分娩ができるようにアドバイスをするとともに、産んでからも女性が綺麗でいられるよう、生涯を通じたトータルケアを行っていく考えだ。

形態はソーシャルフランチャイズ手法をとり、手始めとしてタンザニアとケニアで現地のパートナーが事業化に向けて動き始めている。ライセンスという仕組みを作り、質の高い人材育成を行った後は、アフリカの人たち自身の手による運営が杉下氏の望みだ。現場でやる気のある人たちが、自分たち自身でどんどん伸ばしていけるよう継続性を確保していきたいと、軌道に乗ったその先を見据えている。

「こういう話をするとアフリカは酷いところだといった考えが強まるかもしれません。そうではなく、実は日本が彼らから学ぶべきことはたくさんあります。先日アフリカで飛行機に乗った際、子どもが泣き止まなくて困りました。しかしすぐに周りにいた、見ず知らずのアフリカ人たちが交互に子どもを抱いてあやしてくれたのです。アフリカでは、子供は社会の共有財産、みんなで大切に育てていくという意識があります」

かたや日本では子どもに問題があると、親や学校へ責任を転嫁し、社会全体はその責任を放棄したように見える。

「子どもを安心して産んで、育てていける社会をまずはアフリカで実現し、将来的には日本へ取り入れ、『命を慈しむ社会』というリバース革命を起こしたい。さらにこの考えが世界中に広がっていけば、私は戦争がなくなると信じています」

確かな語り口から繰り広げられた数々の熱意ある言葉に、聴衆からは大きな拍手が巻き起こった。

杉下氏から「『社会』を図で表現する」という題目が出され、参加した各々が考えを描き、教授や院生は互いの考えに意見を出し合った。教授と院生のディスカッションも見られた


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