2014年3月号

MPDサロンスピーチ

ニーズを満たす新商品提供の仕組み

松井忠三(良品計画 代表取締役会長)

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赤字状態の組織を“風土”から改革し、業績のV字回復を成し遂げた松井。新商品開発、在庫管理、人材育成などあらゆる仕事を仕組み化した、抜本的な経営改革について、事業構想大学院大学にて講演を行った。

松井忠三 良品計画 代表取締役会長

無印良品は1980年、西友のPB(プライベートブランド)として生まれました。NB(ナショナルブランド)の持つ装飾や無駄を排し、良品を安価で提供するコンセプトは消費者に受け入れられ、一気に広がりました。

無印良品というブランドが生まれて20年。独立して10年ほど経った頃のことでした。38億円の赤字。

1989年には西友から独立して良品計画を設立し、99年には売上高1066億円、経常利益は133億円。順調に業績を伸ばし、「無印神話」とさえ呼ばれていました。しかし2000年に業績が急落し、初めての減益に。 当時の社長は責任を取って辞任し、世間からも「無印良品の時代は終わった」とささやかれる声が聞こえます。そのどん底だった2001年に私は社長に就任しました。

通常、赤字を出した企業がまず手掛けるのは、リストラや早期退職による人件費削減、不採算部門からの撤退、資産売却などでしょう。しかしそれでは根本的な解決になりません。

無印良品に潜む、根本的な原因とは何か。ブランドの“革新的な部分”がお客様のニーズに遅れていることが一番の原因だと思い至りました。“わけあって、安い”というコンセプトの希薄化によりブランド力は下がり、大企業や成長企業にありがちな慢心や危機感の喪失。さらに、セゾングループの体質を受け継ぎ、経験や勘を重視した“経験至上主義”がはびこっていました。

個人の経験を企業ノウハウへ

社長に就任してすぐに、私は全国の107店舗(当時)を巡回しました。「現場」を知らなければ経営の改革はできません。業績悪化で静まり返った本部とは異なり、お客さんと常に接している店舗のスタッフはモチベーションが高く、勇気づけられました。このような前線の販売員が抜けてしまうことが会社にとって最も大きなリスクになるので、今いる人材を生かせる改革が必要だと感じました。

店舗を回り、気付いたことは店頭の「汚さ」です。もちろん清掃は行き届いています。しかし商品の陳列を見ると、今季の最新商品が並ぶ一方で、昨年、一昨年の商品も置かれ、特売のPOPが乱立していました。時期を逃した衣料品の在庫が店舗の「汚らしさ」の原因となっていました。

さらに、新潟県見附にある在庫センターには、天井まで山積みにされた衣料品の在庫がありました。簿価38億円、売価で100億円です。この在庫を焼却場に運び、全て焼却しました。二度とこのようなことが起こらないように、ショック療法ではありますが社員の意識を変えるためにはこれしかないと、決断をしました。焼却現場には私とともに商品開発責任者も立ち会わせました。

しかし、半年後にまた在庫が溜まりました。根本が解決できていない。在庫が溜まる原因は、仕入れ管理に問題がありました。仕入れ責任者の経験と勘を頼りに、“独自で作成した帳簿”を使っているため、上司のチェック機能が働かないことです。ここで、“仕組みづくり” “見える化”の重要性に気付かされました。

これまでの個人の作成した帳簿を全て没収し、会社が作成した統一のフォーマットに切り替えました。

2000年度末に55億円あった衣料・雑貨の在庫は、2003年には17億円にまで削減でき、好転したキャッシュフローは良品計画復活のための基礎体力となりました。

不変のコンセプトと発想力で企業の本質を磨く

仕組み、マニュアルというと無機質な印象がありますが、無印良品の仕組みはむしろ生き生きとし、成果に結びつく最強の“ツール”です。

マニュアルは2つあり、約2000ページに及ぶMUJIGRAM(無印良品の店舗で使っているマニュアル)、そして業務基準書(店舗開発部や企画室など、本部の業務のマニュアル)です。このマニュアルには、経営から商品開発、売り場のディスプレイや接客まで全ての仕事のノウハウが書かれており、定期的にリニューアルします。

これほどの膨大なマニュアルをつくったのは、「個人の経験や勘に頼っていた業務を“仕組み化”し、ノウハウとして蓄積させる」ためです。それはチームの実行力を高めることにつながります。

まず行ったのは、コンセプトの進化です。設立当初からの“わけあって、安い”というコンセプトの軸をぶらさずに、内容を時代に合わせて変化させていくことが必要です。「『これがいい』ではなく『これでいい』」をベースに、ハイクオリティー・ベーシック、リーズナブルプライス(賢い低価格、豊かな低コスト)を目指しました。

商品開発も仕組み化の対象です。衣服雑貨のデザイン業務をヨウジ・ヤマモト社と提携し、生活雑貨のデザイナーはデザインをしない商品企画専門のデザイナーとして、「企画デザイン室」に配置しました。企画デザイン室が中心となり、素材や機能性に焦点を置いたこだわり商品の開発を進行しています。

世界のプロダクトデザイナーとのコラボレーションをしたWorldMUJIや、世界のよいものを見出したFound MUJIを展開。さらにお客様の声を聞いた商品開発では、「体にフィットするソファ」や「足なり直角靴下」など大ヒット商品も出ています。これらの商品開発は仕組み化されているので、部署の異動があってもぶれない開発が持続できます。

同様に、新規出店の場所選択から店舗作り、発注システムも全て仕組み化し、作業効率を上げ、確実な成果につなげています。

結果として、2002年度には増益に転じ、2005年度には売上高1401億円、経常利益186億円と過去最高益にすることができました。

実行95%、計画5%やりきることが最も重要

さらに実行力を上げるには、業務の「見える化」が重要です。特に業務のデッドラインの共有を強化し、全社員が共有できるサーバー上のシステムと、ホワイトボードを使った「部門ボード」で管理をしています。社員一人ひとりが仕事の本質をとらえ、業務の無駄を省くことができます。

人材マネジメントも見える化をするため、社内に委員会をつくり、年に2回評価をします。トップが代わっても一本芯の通った育成を可能にし、人事はその時の上司だけでなく、全社視点で育成をしていく仕組みになっています。

社員の意識改革は難しいことです。そこで私が考えた解決策が社内に「仕組み」をつくることでした。社員一人ひとりのモチベーションを上げ、能力を最大限に引き出し、組織を強くするのは、劇的な改革ではありません。必要なのは、地道な仕事の習慣を根付かせることです。仕組みをつくれば、どんな時代でも勝てる組織をつくりあげることができます。

松井忠三(まつい・ただみつ)
良品計画 代表取締役会長
1949年、静岡県生まれ。73年西友ストアー(現・西友)入社。92年良品計画へ。総務人事部長、無印良品事業部長を経て、2001年社長に就任。08年より現職に就き、組織の「仕組みづくり」を継続している。
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