「行列」のできるお店の仕掛け トレンド作るプロデュース

ブームを起こし、トレンドを作り、ライフスタイルに定着させる。この一連のプロデュースを行い、パンケーキのレストラン「bills」、かき氷店「ICE MONSTER」など、次々と人が集まるお店を作り続けるのが中村貞裕氏だ。そのプロデュースの戦略とは。

この夏話題を呼んだ、かき氷店の「ICE MONSTER」。

一過性のブームではなく、継続する「トレンド」を作るには、時代の潮流に乗った事業の種を探し、事業を戦略的に展開することが必要だ。

2008年頃からトレンドになった、「パンケーキ」。トレンドを牽引したのは、“世界一の朝食”と評されるレストラン「bills(ビルズ)」だと言われる。そのオペレーションを手掛ける会社がトランジットジェネラルオフィスである。2001年の会社設立後、飲食等のオペレーションを中心に、イベント、ホテル、商業施設のプロデュースや不動産など事業は多岐にわたっている。

代表取締役社長の中村貞裕氏は「トランジットはファッション、建築、音楽、デザイン、アート、飲食をコンテンツに“遊び場”を創造する企業」と語る。カフェに新機軸を打ち出した事業としては、アパレルブランドや車ブランドのカフェの運営である。非飲食企業の店舗にカフェを設けるという新しいモデルを生み出した。さらに飲食店舗だけでなく、大阪の「堂島ホテル」のリニューアルや、JR東日本のレストラン列車「TOHOKU EMOTION」などのプロデュースも手掛けている。

中村 貞裕(トランジットジェネラルオフィス 代表取締役社長)

夜のカフェでトレンドの兆しを見つける

伊勢丹に務めていた中村氏が、起業のアイデアを見つけた場所は、駒沢大学近くのカフェだった。流行に敏感な若者が夜な夜なカフェに集まっている様子を見て、カフェにブームの兆しを感じた。カフェ開業のアイデアを練り始め、伊勢丹を退職。その後会社を立ち上げ、2001年に初店舗のカフェ「OFFICE」をオープン。東京・外苑前で、夜景を楽しむこともできる立地、「カフェで仕事をする」をコンセプトにした店舗だ。

「世間ではカフェブームの火付け役と言われていますが、実は私が一番手ではありません。いかに人気があっても1店舗ではブームにならない。方々で店舗が増えて話題になってこそのブームであり、最初の数店舗に入ることが重要です」

中村氏が作ったトレンドのひとつが、冒頭の「パンケーキ」である。2008年にオーストラリアのレストラン「bills」の日本第一号店を七里ヶ浜で開いた。“世界一の朝食”というキャッチフレーズも目を引き、マスコミで多数取り上げられ、瞬く間に行列必至の人気店となった。その後、次々とパンケーキ屋が登場し、飲食業界の中で大きなトレンドを作ったのだ。

起業後初店舗「OFFICE」は夜景も楽しめるカフェとしてオープンした。

リスクのある事業もプロデュース次第

中小企業が海外企業の店舗を出店するのはリスクを伴うが、中村氏の事業展開には戦略がある。同社のプロデュース方法は、直営店舗、運営受託店舗、合弁会社店舗の3つがあり、状況によって使い分けているのだ。

「海外とのライセンス契約は資金が5億円から10億円必要で、出店数などにも縛りがあるのが一般的。それでは当社の企業規模やスピード感に合わないので、billsは大手PR会社と合弁会社を設立し、当社が運営を受託しています」

同様の手法で展開するのが、この夏に話題となったかき氷店の「ICE MONSTER」だ。本拠地は台湾で、海外メディアで「世界のベストスイーツTOP10」に選ばれている。日本での店舗のコンセプトは“世界一のかき氷”。

中村氏はブランディングプロデュースの条件を「ネーミングの分かりやすさと、コンセプトがきちっと決まること」と話す。そして、コンセプトを決めた後は、事業アイデアを具現化するために最適な人員を集めてチームを結成し、事業化を進める。

「トレンドを作る事業アイデアを見出すために、日々のインプットを大切にしています。たとえば“趣味は立ち読み”と言っていますが、書店で様々なジャンルの雑誌を一気に立ち読みする習慣があります。多くの情報を一定時間に目を通すと、トレンドになりそうなキーワードが見えてきます。そして、その後アウトプットとして、社員や周りの人に話すことも重要です」

SNSで美味しいお店を紹介する人に新しいお店情報が集まるのと同じように、意識した情報発信は鮮度の高い情報を引き寄せる仕掛けになっているという。

一過性のブームで終わらせない

「何より大切なことは、事業に対する『情熱』です。たとえば海外で良いレストランや美味しい料理を見つけると『絶対に流行る、みんなに紹介したい!』と強く思います。だからこそ、熱い思いを持って事業を進めていけるのです」

さらに、一過性のブームで終わらせないための戦略を2つあげた。(1)ライフスタイルの大波を作る、(2)ライフスタイルを発信することだ。

「はじめは小さなさざ波でも、それが重なれば大波になります。マスコミが取り上げ、人々の口の端に上って拡散するようにマーケティングとブランディングを徹底することで、大波を作っています」

ブームからトレンドに、そして人々のライフスタイルとして定着させていく、そのプロデュース力に今後も期待が高まる。

中村 貞裕(なかむら・さだひろ)
トランジットジェネラルオフィス 代表取締役社長
 


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