バックキャスティング経営で40年先の市場をつくる

生活の木がハーブ・アロマテラピー関連商品販売を始めた70年代は経済成長期だった。「自然・健康・楽しさ」というコンセプトは時代に逆行したものであったが、バックキャスティング経営により文化を創造し、市場を作っていった。

現状分析や過去の統計、実績、経験などから未来を予測する「フォアキャスティング」に対して、将来のあるべき姿、あってほしいビジョンを想定し、そこから逆算して現在の施策を決める手法が「バックキャスティング」。バックキャスティング経営で、日本でハーブやアロマテラピー関連の市場を創造してきたのが、この分野のトップランナーである「生活の木」だ。

生活の木は、自然の植物を原材料にハーブ・アロマテラピー関連の製品を開発・製造・販売している。事業を開始したのは、経済成長が著しい1970年代のこと。「もっと便利に、速く、楽に」という時代の風潮に逆行して、同社では「自然・健康・楽しさ」の3つをコンセプトに生活者の暮らしをより快適にすることを目的とし、事業を展開してきた。「今では当たり前のコンセプトですが、当時はほんの一握りの人しか価値を理解してもらえませんでした」と生活の木・代表取締役社長の重永忠氏は話す。

重永氏は2代目社長だ。創業者で父親である先代社長は、洋食器の製造販売を行っていた。創業社長がアメリカを訪れ、ヒッピーに出会ったことが新規事業のきっかけとなった。ヒッピーの豊かな生活の中にある「ハーブ」の存在を知り、帰国後に新規事業としてハーブ販売を開始した。

重永 忠 生活の木 代表取締役 社長 CEO

新産業を浸透させるため“文化”を創る

販売を開始した1970年代、80年代には、世間でのハーブの認知度は低く、決して順風満帆ではなかった。まずはハーブを使う「文化」を創ることに専念した。1977年~1986年の間は「創成記」として、ハーブの認知度を上げるための種を蒔くことが主活動となった。最初にブームが起こったのは、少女向けコミック誌「なかよし」との企画だった。ポプリ作りをする少女を漫画の主人公に設定し、手作りレシピも掲載したところ、女の子を中心にポプリ作りが大ブームとなった。生活の木が監修でポプリ作りコンテストを実施し、世の中にハーブの存在が知られるようになった。

さらに竹下登内閣が主導した「ふるさと創生事業」が後押しになった。ハーブガーデンが全国で企画され、そのプロデュースに乗り出した。ハーブを使った文化そのものが「認知期」「普及期」へと変遷していったのである。その中で生活の木は、「ハーブがあらゆるところで使われる、ハーバルライフが訪れる」という理想像を持ち、全国にハーブ販売店舗の展開や、ハーブの活用方法を教えるスクールを展開していった。

「企画となる種を蒔き、芽が出たものを少しずつ膨らませていきました。私たちが事業を展開する上で重要視しているのは『文化、コト、場、モノ、ココロ』の5つの開発の循環です。どのような新規事業でも、最初は消費の土壌がないので、まずは『文化』を創ることが必要でしょう」

2007年から「社会貢献期」として、「企業の発展」「従業員の幸せ」「社会への貢献」の3つを掲げている。重永氏は「顧客満足度の前に、社員満足度を上げることを心がけている」と話す。3年に一度、全社員対象の満足度調査を実施。事業・経営・環境・待遇など全方位的な項目から会社に対しての評価を社員が行う。また具体的なアクションとしては、経常利益の3分の1を賞与として還元しているのも特徴的だ。後の3分の1は内部留保に、3分の1をオンリーワンであり続けるため先行投資の原資へ当てている。

「会社が発展すればするほど社員も幸せになり、そして先行投資によって社会への貢献も果たすことができます。会社と社員と社会が一体となって、プラスになる『三方よし』の実現を目指しています」

ハーブ、アロマテラピー、メディカルハーブの商品販売、アーユルヴェーダサロンでは本格的な施術も行っている

「オール自前主義」でオンリーワン企業を目指す

現在、活動領域はハーブ、アロマテラピー、メディカルハーブ、アーユルヴェーダと広がり、直営店が120店、提携店が100店、スクールが18校。世界52カ国より300種類のハーブと170種類の植物精油を調達し、開発した商品は2500アイテムに達する。さらに1995年には、アーユルヴェーダの聖地であるスリランカに、「Tree of Life」というNature Resortホテルを建て、アーユルヴェーダ体験と異文化に触れる旅行業も開始した。それらの事業を全て「オール自前主義」で行なっていることも特徴的だ。

「この理念は、先代の洋食器の製造販売の時から続いています。企画、素材の仕入れ、商品の製造、店舗での販売は全て自社の社員、スタッフが行っています。理想の事業や企画を実現するには、自社で考えて動くことが一番の近道だと思っています」

現在は、植物の自然の香りで空間を演出する「環境芳香」をオフィスや病院、商業施設に設置したり、また「メンタルアロマテラピー」としてスポーツや介護の現場で活用するなど、多様な場での事業展開を模索している。香りの新たな可能性を広げる企業の挑戦は続いていく。

重永 忠(しげなが・ただし)
生活の木 代表取締役 社長 CEO
 

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