サウジアラビアの王子が語るeスポーツのビジョンと東京の魅力とは

(※本記事は東京都が運営するオンラインマガジン「TOKYO UPDATES」に2024年8月16日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

サウジアラビア王国のフェサール・ビン・バンダル・ビン・スルタン・アール・サウード王子(サウジeスポーツ連盟会長)が5月、eスポーツビジネスにおける日本とのパートナーシップを強化するために東京を訪れた。サウジアラビアは、賞金総額6000万ドルの大会を今年開催するなど、eスポーツに力を入れている。フェサール王子は、サウジが日本と並びeスポーツ界の世界的な拠点となることに意欲を示した。また、これまで何度も訪日している王子は、東京を「第二の故郷」だとして、その魅力について語った。

フェサール王子の写真
インタビューに答えるフェサール王子

ーー今回の来日の目的を教えてください。

業界のパートナーに会うためです。われわれが良い関係を築き、彼らのニーズを私たちが理解していること、そしてすべてがスムーズに進んでいることを確認するためです。対話が成功のカギといえます。

また、私たちは現在、中東の役割についても協議しています。中東を個別の市場として見据えるために、日本のパートナーとどのように協力できるのか。多くのゲーム会社は、私たちをEMEA(ヨーロッパ、中東、アフリカ)として見ています。私たちはEMEAとしてではなく、独自の地域拠点、すなわち中東の事務所を持つことができる規模にまでに成長しています。これは一朝一夕にできることではありません。話し合いを重ねれば重ねるほど、サウジに本部を設立したり、現地に赴きスタッフを訓練したりできるのです。私たちがここで行っていることの多くは、将来に実を結ぶ協力関係を築くことです。

ーーサウジアラビアにおけるeスポーツ発展についてのビジョンは?

サウジアラビアは、ゲームとeスポーツの世界的なハブになることを目指しています。現在、東京やソウル、ロサンゼルス、モントリオールなどが世界的な拠点と言えます。eスポーツといえばそれらの都市を思い浮かべるでしょう。私たちは世界中のパートナーと協力して、サウジアラビアもそれらの都市と肩を並べることができればと思っています。そのためには多くを学び、共に働き、そして謙虚になるしかありません。これからもたくさんの人が待ち望んでいる未来を切り開けるよう、日本の皆さんと共に働けることを楽しみにしています。

ーーeスポーツの魅力について聞かせてください。

人類は長年の間、ゲームを楽しんできました。ゲームはコミュニケーションを学び、コミュニティを築くための手段。電子ゲームは、国境を越えた新しいジャンルです。私がサウジeスポーツ連盟に籍を置いた最初の年、ジャカルタで開催されたアジア競技大会での出来事は今でも忘れられません。そこで開催されたeスポーツの参加者は皆、何千マイルも離れた場所からやって来ていました。彼らは他の選手と話し始め、互いのプレーヤーネームを聞いた時、皆旧知の人たちだと気づきました。「サーバーにいたのは君だったんだ!あなたがあれをやったの?ああ、君が私とプレーしていたんだ?」皆、あっという間に友人になりました。ゲームは人々を結びつける言葉であり、そのきっかけなのです。

eスポーツ会場で談笑するフェサール王子の様子
eスポーツ会場で談笑するフェサール王子 Photo: courtesy of the Saudi Esports Federation

ーーeスポーツの未来について、どのようなビジョンをお持ちですか?

eスポーツ界は、文字通り日々変化しています。新しいゲームが登場し、古いゲームが消えていく。しかし、変わらないものもあります。それはコミュニティです。私たちはゲーム業界やeスポーツを支える人々、そしてプレーヤーに目を向けなければなりません。コミュニティはその一部です。そうすることで、時代を先取りすることができ、何が起きているのかを常に把握し、時代に取り残されることなく業界の最前線にいることができるのです。コミュニティは最も重要な要素です。

これからの世代には、私たちがしてきたことを更に積み重ねてもらいたい。どの世代も、前の時代より少しずつ改善してきました。だから、私は次の世代にそれを期待しています。そして彼らは意気込みを示すだけでなく、すでに行動しているのです。

ーーeスポーツ界をリードする日本への期待はありますか?

もちろんです。eスポーツやゲームの世界において日本を抜きにしてその歴史を語ることはできません。日本はゲーム業界にとって不可欠な存在であり、まさに生みの親なのです。この業界では誰もがリーダーになれる可能性があります。しかし、東京が果たしてきた役割は軽視できません。東京がこの業界に関わることで、世界はより良い場所になります。

ーーこれから日本でやりたいことはありますか?

前回訪日した際、小島秀夫氏(*)に会いました。私は彼の大ファンです。若い頃から彼のゲームが出るたびにプレーしています。小島氏だけでなく、日本にいるクリエーターの人たちにサウジアラビアを題材にした作品を作ってもらえたらと思っています。サウジアラビアにはたくさんの物語があり、多くの出来事があります。過去を振り返ってみると、日本と同じように騎士や戦の歴史があります。もし私たちが彼のような天才的な才能を持つクリエーターと協力し、サウジの人たちが物語を作り上げるための理解をサポートできれば、私にとって大きな喜びであり、名誉なことです。それは買収ではなく純粋なコラボレーション。もしそれが可能ならとても素晴らしいことです。

*小島秀夫(こじま・ひでお):ゲームクリエーター。株式会社コジマプロダクション代表。代表作は「メタルギア」シリーズや「デス・ストランディング」など。

インタビューに答えるフェサール王子の様子
インタビューに答えるフェサール王子

ーー東京の印象について聞かせてください。

実は、東京は私がもっとも好きな場所の一つなのです。何度も訪れています。これほど居心地がいい街は他に見当たりません。リラックスして楽しめる場所なのです。

散策したり、電車に乗ったりすることがとても好きです。(交通系IC)乗車カードも持っています。私の場合、お店を選ぶのではなく、場所をまず決めます。例えば「今日はこの駅に行く」と決めて、そこへ行ってみる。路地や裏通りに良いお店があるのです。「いい匂いがする。ここ行ってみよう」とか「たくさんの客がいる。よし、ここに決めた」。そんなふうに過ごすことが好きなのです。行ってみて発見する。そして常に新しいものに出会います。

新宿三丁目駅を出てすぐのところに、お気に入りのしゃぶしゃぶ・すき焼きの店があります。セルフスタイルのとても気軽なお店です。また、昨日は素晴らしい焼肉店に行きました。炉端焼きなんかも大好きです。

ーー東京で一番好きな場所はどこですか?

私の母国はサウジアラビアですが、ここはいわば第二の故郷。どの旅先よりも、東京で過ごすことがとても楽しい。自由を感じるのです。夕暮れに皇居あたりを散歩するのがお気に入りです。私はゲーマーなので秋葉原は外せない場所です。新宿は人を見ていて飽きない。新宿ほど人間観察をするのに適した場所はないでしょう。銀座ではリラックスできます。駅へのアクセスもいいし、歩きやすい。

私は発見が大好き。だから、東京のお気に入りの場所はこれからも探し続けます。東京には年に1、2回来ますが、まだまだ足りません。歩き回ること、人を見ること、人と会うこと、そして友達になること。ここにはたくさんの物語があり、たくさんの思い出があります。だから東京は第二の故郷なのです。

ーー東京の長所は何でしょうか?

私にとって、それは文化です。東京の人々や街、そして文化には、他のどこにもない独特なものがあります。例えば銀座。すべてが整理整頓され、清潔です。本当に驚かされます。道に空き缶がないなんて、そんな場所は他にありません。そういったことが人を惹きつけ、また来たいと思わせるのです。そして、東京の人たちはわれわれを温かく迎え入れてくれます。礼儀正しくとても親切です。英語が通じない場所でも、拒否されたことは一度もありません。無礼な人もいない。東京をこんなにも素晴らしい場所、居心地の良い場所にしているのは、その文化とそこに暮らす人々のおかげだと思います。

取材・文/伊藤真悟
写真/穐吉洋子

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