【リーダーの構想】「人が地を這う時代終わらせたい」 SkyDrive・福澤知浩CEOが描く空飛ぶクルマの事業構想

株式会社SkyDrive代表取締役CEOの福澤知浩氏は、東京大学工学部を卒業後、新卒でトヨタ自動車に入社した。会社員時代に趣味の一つとして仲間と始めた空飛ぶクルマの開発が、現在の事業の出発点となっている。同社は「日本スタートアップ大賞2026」で国土交通大臣賞(国土交通スタートアップ賞)を受賞した。福澤氏に、各地でのデモフライトで得た手応えと、2028年の商用化に向けた構想、そして空飛ぶクルマに懸ける思いを聞いた。

300回超の安全なフライトで得た手応え

福澤氏はまず、大阪・関西万博をはじめとするデモフライトで得た手応えを語った。同社はこれまで5か所以上で飛行を重ね、1年以上にわたって300回以上の安全なフライトを実現してきた。夏から冬まで、さまざまな環境で飛べることも確かめている。細かな改善や工夫は当然あるものの、現在の機体の設計できちんと事業ができると明確になったという。

具体的には、機体の形状が風を受けたときの挙動や、電池を消費し、充電してまた飛ぶという運用を繰り返して時間どおりに運航できるかといった点を確かめられた。

もう一つの手応えは、多くの人に実際の飛行を見てもらえたことだ。革新的な新しい航空機で、静かで環境にも優しいことから、見た人からは「楽しみだ」という声が多く寄せられた。飛ぶ姿を見て怖いと感じる人は、ほとんどいなかったという。

製造はスズキ、開発と認証は自社が担う

現在飛行している機体は、スズキグループの工場で製造している。スズキからも人材に来てもらい、製造を中心に、設計も含めて一体となって取り組んでいるという。役割分担はおおまかに、製造をスズキが、開発や飛行、認証などを同社が担う。製造の現場にも同社のメンバーがおり、完全に切り分けているわけではない。

今後も基本的にこの分担を続けながら、製造面での連携をさらに深める考えだ。量産によって機体の台数が増えれば、製造の重要性が増していく。量産の段階でも、スズキと一緒に取り組んでいくという。福澤氏は、グローバルナンバーワンを目指したいと意気込む。

商用化の鍵を握る「型式証明」

2028年に向けて、福澤氏が最初の事業として想定するのは、遊覧、もしくは景色を楽しみながら移動する「遊覧移動」だ。山や海の美しい景色を見ながら移動できる体験は付加価値が高く、前向きに受け止められると考えている。

実現に向けて同社が力を注ぐのが、型式証明と呼ばれる認証の取得である。航空機の商用化には認証が必要で、その仕組みは国際的に定められている。主に米国や欧州の航空当局が、世界中で飛ぶ商用の航空機の安全性を一つひとつ認可している。

この関門を越えるには、当局と認証の計画を合意し、計画どおりに完遂しなければならない。確認する項目は、故障の発生が一定の範囲に収まっているか、故障しても墜落につながる事故にならないかといった、安全性に関わるものだ。1億時間飛んでも墜落につながる事象が1回も起きない水準や、過去に世界中の航空機で起きた事故と同じ原因がないことも求められる。

飛行高度は、場所にもよるがおおむね200〜300メートルを想定する。都市部で高いビルがある場合は、さらに上を飛ぶ。

同社の型式証明の申請は、2021年に国土交通省航空局が、2024年に米国FAAが受理している。認証は2028年ごろの完了を目指している。確認項目は数千から数万に及び、ほぼ毎日何らかの作業を進めている。項目によって1〜2か月で終わるものもあれば、2〜3か月かかるものもあるという。

自治体の主導が地域への定着を後押し

地域への定着に向けては、デモフライトを行ったり、事業性や運航が可能かを現地で確かめたり、ヘリコプターで検証したりしながら、実現の可能性を高めている。福澤氏は、自治体が主導すれば、さまざまな企業も参加しやすくなると話す。初期コストが高いため、自治体が国とともに負担してくれると事業を始めやすい。観光客が増え、地域のGDPが高まるといった形で、成果は地域に還元されるという。

関心自体はほぼどの自治体も持っているものの、どこまで具体的に検討を進めるかは自治体によって異なる。自治体からは、とにかく商業化を実現し、地域に雇用を生んでお金を落としてほしいという期待が寄せられている。企業は新規事業の観点から関わるケースが多い。市場が大きくなるなら参画して事業を広げたい、新しいことに挑むことで社内のエンゲージメントも高めたい、といった思いがあるという。

積極的な自治体として福澤氏が挙げたのは、大阪、東京、大分の順だ。一方で、特に動きのない自治体も多い。違いを生むのは、リスクのあるものにどこまで予算を使うかという首長の判断だという。まだ世にないものには、計画の遅れや変更、中止といったリスクが必ず伴い、受け止め方は首長によって異なる。福澤氏は、リスクを取りたくない相手と無理に進めても前には進まないとして、感覚の合う自治体と取り組む方がよいと考えている。事業が進むにつれてリスクは減っていくため、その段階で加わる自治体が増えることに期待を寄せる。

大阪、東京、大分とはすでに取り組みを進めており、観光や防災、産業振興まで幅広い活用を見込む。国内では鉄道会社との連携が多い。東日本旅客鉄道(JR東日本)とは東京で、大阪市高速電気軌道(Osaka Metro)とは大阪で飛ばす取り組みを進めているほか、九州旅客鉄道(JR九州)とも連携している。海外では、インドネシアのヘリコプター運航会社と空港から市街地への飛行を目指す。インドでは、航空会社のAir Indiaなどと、緊急の医療物資の輸送に取り組んでいる。

趣味の一つから始まった挑戦

空飛ぶクルマに本気で取り組むようになったきっかけを尋ねると、福澤氏は「最初は趣味がいくつかあって、そのうちの一つだった」と振り返った。新卒でトヨタ自動車に入社した後、趣味の一つとして、空飛ぶクルマを作って東京オリンピックの時期に飛ばそうという活動に加わった。活動が次第に活発になるなかで、より多くの力を注ごうと考えるようになったという。

活動が始まったのは、社会人になってからだ。自動車業界の若手が飲み会で集まり、自分たちで何かを作ろうとアイデアを出し合ったのが始まりだった。当時の趣味は空飛ぶクルマづくりだけではなく、音楽フェスの開催や製造業の社外イベントの運営、旅行など多岐にわたった。

東京大学工学部の在学中は、ロボットなどのものづくりのサークルには所属していなかった。モビリティが好きで、ドライブなどを楽しんでいたという。漫画や映画からの影響は、無意識のうちにあるかもしれないと話す。空飛ぶクルマは、「ドラえもん」や「鉄腕アトム」、「スター・ウォーズ」など多くの作品に登場する。乗り物のイノベーションという観点では、空飛ぶクルマが最もわかりやすいと考えたという。

3次元の空間を、日常の移動に

空飛ぶクルマで実現したいことを問うと、福澤氏は「地を這いつくばる時代は、そろそろ終わりでいい」と語った。3次元の空間を、ようやく安全かつ快適に使えるようになる。テクノロジーの進化でさまざまな無駄な時間が減っているのに、移動だけは無駄が残ったままだ。移動時間そのものを減らし、快適にしたいという思いもある。

旅行先で空飛ぶクルマを思い描いたことは、あまりないという。ただ、振り返れば観光とのつながりは深い。上空から見る景色は、どこでもきれいだ。良い景色は観光や暮らしに良い刺激をもたらすものの一つであり、福澤氏はその点を大切にしている。

日本のスタートアップ環境への思いもある。日本は人材の流動性が低く、ディープテック系のスタートアップが少ない。成功事例がなければ増えないため、同社がその一つになれれば貢献できると考える。イノベーティブな企業が日本から次々と生まれ、みんなが日常的にワクワクしながら新しいものを作ろうと思える世界になってほしいと話す。

あらゆる産業が「空」に関わる時代へ

国土交通大臣賞の受賞について、福澤氏は、安全と認証を担う国土交通省とタッグを組んで取り組んできたなかで、ここから引き続き頑張ってほしいという期待が込められていると受け止めている。高市早苗内閣総理大臣にも同社のフライトシミュレーターで操縦を体験してもらい、激励を受けたという。

新たなモビリティの活用を検討する自治体や経営者に向けて、福澤氏は、あらゆる産業で電動化と自動化が進み、地上に縛られる場面は徐々に減っていくと語る。移動が空へ広がるのは間違いなく、すべての産業に関わる変化になるとして、一緒に取り組めたらうれしいと呼びかけた。

会社員時代の趣味の一つから始まった空飛ぶクルマの開発は、300回を超える安全なフライトを重ね、2028年の商用化を見据える段階に入った。型式証明という高いハードルに日々向き合いながら、自治体や企業との連携を各地で広げる同社が、空の移動を日常に変えられるか注目される。

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プロフィール:福澤知浩(ふくざわ ともひろ)

東京大学工学部卒業後、トヨタ自動車でグローバル調達に従事。2018年にSkyDriveを創業し、代表取締役に就任。経済産業省と国土交通省が設置する「空の移動革命に向けた官民協議会」の構成員として、「空飛ぶクルマ」の実用化に向けて政府と新ルール作りにも取り組む。