埼玉県よろず支援拠点が導く赤字脱却 補助線で経営改善を実現

(※本記事は「関東経済産業局 公式note」に2026年2月24日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

地域への熱い想いを持って奮闘するキーパーソンに、その情熱のルーツや取組などを伺う「地域HOTパーソン」。今回の地域HOTパーソンは、埼玉県よろず支援拠点(実施機関:公益財団法人埼玉県産業振興公社)でコーディネーターとしてご活躍される安部 慶彦(あべ よしひこ)さんです。

埼玉県よろず支援拠点で中小企業の経営課題に寄り添い、解決への道筋を示す安部さん。相談者との対話と現場を見ることを重視し、相談者が抱える本質的な課題に対して、自らの気づきを促す支援スタイルで、企業の成長を後押ししています。

安部 慶彦(あべ よしひこ)さん

中小企業の幅広い経営課題に挑む

ーよろず支援拠点のコーディネーターとなった経緯を教えてください。

弁護士として独立する際、埼玉県への地域貢献についても考えていたことから、よろず支援拠点のコーディネーターに応募しました。出身地である埼玉県において、中小企業の経営環境を改善し、ひいては地域経済の活性化に貢献したいと考えています。

安部 慶彦(あべ よしひこ)さん

ー安部さんは弁護士に加えて、税理士と中小企業診断士の資格もお持ちとのことですが、よろず支援拠点では弁護士としての相談が多いのですか。

法律に関するご相談だけではなく、様々な相談に応じたいという想いをもっており、よろず支援拠点ではマーケティング、資金繰り、現場改善など様々なご相談をお受けしています。

よろず支援拠点の多くのコーディネーターは特定の分野で長年活動してきた方が多く、その専門性を生かした支援をしています。しかし、私の場合はそのような経験がない分、あらゆる業種の様々な経営課題に対応できることが強みだと思っています。実際、マーケティングの相談が実は法務上の論点を含んでいたりするので、経営に関するご相談であれ、法務に関するご相談であれ、なんでもお受けしたいという気持ちを持っています。

傾聴が信頼を生む

ー支援は相談者のお話を聞くことから始まると思いますが、相談者とのコミュニケーションにおいて大切にしている点を教えてください。

相談者とお話する際には「ご相談者の方の事業内容に興味を持つこと」を大切にしています。自社の事業に誇りや思いを持っていない経営者はいません。だからこそ、課題を導き出すためにも、まずは事業内容を始め、いろいろお話してもらいます。

その上でこちらから興味を持って質問を重ねることがポイントです。事業内容を正確に理解していないと適切なアドバイスもできませんので、具体的な事業内容が分かるまで、しつこいくらい何度も質問します。

相談にのっている安部コーディネーター
相談にのっている安部コーディネーター

ーそうなんですね!では、具体的な内容の理解のために、実際にどのように質問されるのでしょうか。

例えば「金属加工業やっています」と言われた場合、材料や加工法の他に、鉄道向けなのか、自動車向けなのかといった用途など、気になることがたくさんあります。そこで、「使う金属は何ですか」、「それってどういう部分に使われているのですか」などと具体的な質問を重ねていきます。

「自動車に使われています」といった回答があった場合には、さらに深掘りして、「具体的に自動車のどの部分ですか」と質問します。私は製造業、とりわけ自動車製造業が好きなので、「サスペンションのここです」「ロアアームに使われている部品です」といった回答まで引き出せればと考えています。そのように会話をしていると相談者に「この人なら、きちんと理解したうえで相談に乗ってもらえるな」と思って頂けますし、詳細にお話を伺い寄り添うことで相談者からの信頼にもつながっていくと思っています。

支援のポイント~「対話と傾聴」と現場力~

ー相談者に対して実際に支援を行う際に大事にしているポイントを教えてください。

経営課題をこちらから一方的に伝えても納得感は生まれません。相談者自身が課題を自覚し、納得して初めて課題解決に取り組むことができます。そのため、相談者からの話を良く聞き、「対話と傾聴」を通じて潜在的な課題を経営者自らが気づけるよう工夫しています。私の場合、特に「傾聴」を重視していますが、現場を見た上での支援も大切にしています。時間が限られているため限界もありますが、やはり実際に現場を見ると、経営状況や経営課題に対してより具体的なイメージが湧き、実態に即したアドバイスができるようになります。

ーなるほど。具体的にはどのような点に留意して現場をご覧になっているのでしょうか。

現場を見ると、机上では絶対に分からない改善点が見えてきます。例えば飲食店の相談では、実際に店舗に行ってみたらテーブルの上がまっさらで何もない。それはもったいないと思って「ここにQRコード置いてアンケートやりましょう」と提案したら、150件も回答が集まりました。さらにお客様が「もう一品欲しい」と思った時にその場で追加注文できるQRコードを設置し、客単価向上を図ることも提案しました。

このようなアイデアは現場を見なければ絶対に出てきません。現場を見に行ったその店舗もガラス張りの外観だっため、「店内から外に向けて宣伝文言を貼れる」という点に気づくことができました。現場に即したアドバイスこそ本質的な課題解決につながります。

「補助線」を引くことで浮かび上がる経営課題

ー相談者が課題を自覚するために意識していることはありますか。

相談者が課題を自覚するための工夫として「補助線を引く」ことを意識しています。具体的には、ある社長から「見積書を簡単に出す方法が知りたい」という相談がありました。社長は見積りを出すのが大変だから、簡単な出し方を知りたいと相談に来ているのですが、同社の課題は、適正な価格を導き出すための「原価計算」ができていないことだと認識しました。でも、すぐに原価計算の話をしても「見積書の話をしているのになぜ原価計算の話なのか」と戸惑わせてしまい、課題解決は遠のいてしまいます。そこで、「見積り作成でどこが大変ですか?」「過去の見積りに縛られていませんか?」「見積りにあたってどのような計算方法をしていますか?」「その計算式の根拠を改めて考えてみませんか?」と私なりの疑問を投げかけていきます。そうした対話を繰り返すうちに、相談者自身が実際の課題に気づくことが多いと感じます。

中高生の数学の問題でも一本の「補助線」により解法が見つかることがあります。「補助線を引く」とは、それまでは相談者に見えていなかった条件や課題を炙り出すことだと考えています。何度か相談を重ねるうちに、相談者は目の前の見積り作成ではなく、原価計算が課題であることに気づき、実際には赤字で製品を売っていたことまで明らかになりました。

ー原価計算の重要性に気づいた結果、相談者はどのような行動をとったのですか。

相談者自身で原価計算を行い、「どれくらいの原材料を使っているのか」など、独自の観点で分析を始めました。その過程で原材料費だけでなく、作業にかかる人件費も原価に大きく影響することに相談者自身が気づいたのです。そこからは顧客との価格交渉の話にも広がり、具体的な交渉方法についてもアドバイスしました。

このように補助線を引きながら相談者に本質的な課題に気づいてもらうことを大切にしています。その会社は「見積書の作成」が当初の相談内容だったにもかかわらず、結果として大幅に赤字を解消し、黒字化を達成することができました。

赤字から黒字に転換するイメージ図
赤字から黒字に転換するイメージ図

相談することが成長への第一歩

ー最後に中小企業・小規模事業者の方々へメッセージをお願いします。

よろず支援拠点は、経営の悩みを無料で何度でも相談できる場所です。経営者一人で抱え込まず、専門家と一緒に考えることで新しい視点や解決策が見つかります。よろず支援拠点は皆様の税金で運営されている公的な支援機関ですので、ご遠慮なく積極的にご活用いただければと思います。我々もどのような相談でも受けられるような体制を整備し、今後もより多くの事業者様に質の高い支援を提供できるよう努めてまいりたいと考えております。ぜひこの機会に、よろず支援拠点を活用し、企業の成長につなげてください!

埼玉県よろず支援拠点の頼れるメンバー
埼玉県よろず支援拠点の頼れるメンバー

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関東経済産業局 公式note