脱炭素のカギを握る水素 GX政策で現場を強力サポート
(※本記事は経済産業省が運営するウェブメディア「METI Journal オンライン」に2025年1月16日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)
政府は2023年12月、GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向け、投資促進策を具体化する「分野別投資戦略」をとりまとめた。脱炭素を進めるための革新的な研究開発や社会実装を後押しし、今後10年間に150兆円超の官民GX投資の実現を目指している。
対象は「エネルギー転換部門」、「産業部門」、「くらし部門」、「業務部門」など幅広い領域にまたがる16の重点分野。その一つが、脱炭素の実現に向けて鍵を握ると言われる「水素等」のクリーンエネルギーだ。鉄鋼・化学等の産業や、モビリティ、発電といった、脱炭素化が難しい分野においてGXを推進するためのエネルギー・原材料として、水素等の活用を促進することが不可欠であり、世界的な需要拡大も見込まれている。
水素製造技術の今を探った。
独自技術で世界市場で存在感
ごみやほこりを防ぐ「無塵着」に着替えると、「AIR SHOWER(エアーシャワー)」で無塵着に付着している小さなほこりを吹き飛ばす。そして、温度や湿度が一定に保たれ、ごみやほこりのない「クリーンルーム」へ――。
経済産業省の2024年度「GXサプライチェーン構築支援事業」に採択され、GXに向けて新規事業として水素関連事業に取り組む半導体装置大手「SCREENホールディングス」(本社・京都市)。滋賀県彦根市にある事業所のクリーンルームでは、世界シェア首位を誇る半導体洗浄装置とともに、水を電気分解して水素をつくる「水電解システム」の重要な部材となる「触媒層付き電解質膜」(CCM=Catalyst Coated Membrane)も製造されている。
CCMは水電解システムにおいて鍵となる重要な部材で、固体高分子の樹脂でできている膜の両面を、イリジウムなど貴金属とアルコールなどをまぜた触媒インクで塗工して製造される。SCREENの強みは「直接塗工とロール to ロール方式」による生産性の高さ。既存の塗工技術は無駄が多かったりコストがかかったりしていたが、ロール状に巻いた膜を連続的に直接塗工することで量産が可能となり、製造コストも下がった。
表面だけではなく裏面も塗るという高度な技術を保有している上、元々印刷業として創業したことからインク調合の技術も生かされている。


再生エネルギーに適したシステム確立。増産へ大型化目指す
水電解システムは現在、アルカリ性溶液を用い比較的低コストの「アルカリ形」が主流となっている。ただ、太陽光など発電量の変動が大きい電源には不向きとされる。これに対してSCREENが取り組んでいるのは、「PEM(プロトン交換膜)形」。電圧が変動しても瞬時にシステムが追従して水素を製造するため、太陽光や風力といった再生可能エネルギーを活用した水素の製造に適しているとされる。
水素関連事業室の高木善則室長は「PEM形は変動電源に強く、太陽光など再生エネルギーを活用するのに最も適しています。脱炭素という観点に一番資すると考えられます」と話す。
SCREENが水素関連事業に進出したのは2013年。国立研究開発法人「新エネルギー・産業技術総合開発機構」(NEDO)の助成も受け、当初は燃料電池向けCCMの製造装置を手がけた。その後、CCMの量産製造技術を確立。燃料電池向け部材ビジネスに力を入れてきた。
2021年からは東京ガス(本社・東京都)と共同で水電解向けCCMの低コスト高速生産技術の開発に取り組んでいる。水素製造コストを低減するには1枚1枚のCCMを大きくした方が良く、大サイズ化を目指す流れになっている。現在は、電極面積1,000㎠であるが、2025年以降は約5,000㎠とさらなる大型化を計画している。

近く新棟が稼働。GX重点分野の水素関連事業を新たな成長の柱に
SCREENホールディングスは現在、彦根事業所内に延べ床面積約1万7,000㎡、鉄骨造り3階建ての新棟を、総工費約110億円をかけて建設中で、近く稼働する予定。水素関連事業を新たな成長の柱に育てたい考えで、新棟は水素関連事業の装置・部材の生産スペースを備えている。
このように自社単独でも水素関連事業への投資を進める中、さらなる設備投資を計画していたところ、経産省の「GXサプライチェーン構築支援事業」に採択され、事業費約30億円に対して最大約8億2,600万円の補助金が交付される。具体的には、この補助金を活用して、大サイズ化へ向けた設備や装置を新棟内に構築していく方針だ。
SCREENホールディングス水素関連事業室営業課の下袴田泰弘課長は「補助金を活用して設備を構築し、大サイズ化に新棟で対応していこうと考えています。大サイズ化ができるメーカーは少ないので、強みを生かして販促、拡販を狙っていきたい」と話す。高木室長も「国が掲げた目標をビジネスの機会と捉え、その達成に向け企業が海外市場の獲得も見据え野心的に事業に取り組んでいくなど、国と企業が二人三脚で歩んでいくことが、先行きの不透明な水素市場の開拓には重要。2024年度は開発のフェーズだが、新棟が完成するので、2025年度から製造を始め、2026年度には製品を本格出荷していく計画です。2030年にはPEM形水電解向けだけで100億相当の売上を目指したい」と将来像を語る。

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