朝日ラバー ゴムの弾性が持つ無限の可能性で、未来をつくる

「ASA COLOR LED」に代表される自動車向け製品を筆頭に、光学、医療・ライフサイエンス、機能、通信の4領域で事業を展開するゴム製品メーカーの朝日ラバー。創業以来、ゴムならではの弾性が持つ無限の可能性を生かし、事業領域を開拓してきた。代表の渡邉氏に、現在の事業戦略や今後の構想を聞いた。

渡邉 陽一郎(株式会社朝日ラバー 代表取締役社長)

事業発展の礎を築いた
自動車用の「アサカラー」

車のメーターやスイッチなどの文字や目盛の背後にはLED(発光ダイオード)が内蔵されており、昼間の明るい環境でもくっきりと高い視認性で目に入ってくる。そうした文字や目盛の微妙な色の違いを表現しているのが、朝日ラバーが開発したシリコーンゴムキャップ「ASA COLOR LED」だ。シリコーンゴムにさまざまな蛍光体を混ぜ合わせることで多様な色を作り分け、キャップ状にしてLEDにかぶせることで、求められる色を自在に演出する。これまで自動車メーカー計19社(日本9社、欧州7社、北米3社)、150車種以上に採用されてきた。

「朝日ラバーは1970年に創業しました。当初はテレビのブラウン管などに使われるゴム部品を製造していましたが、自動車メーカーからカーオーディオ用に白熱灯用のゴム製カラーキャップの開発依頼を受け、1976年にシリコーンゴム製の『アサカラー』を開発しました。この成功が、当社の事業発展の礎となりました」と社長の渡邉陽一郎氏は語る。

「当社のスローガンは、創業者がゴムの持つ特性を踏まえて掲げた、『弾性無限への挑戦』です。ゴムが貢献できる領域は無限にあります。ゴムだからこそできることを創造し、提案することで、社会に必要とされるゴムメーカーを目指してきました」

同社は1987年に、社内の研究開発部門を独立させ、創業者の出身地である福島県の工場内にファインラバー研究所(現、朝日FR研究所)を設立。「アサカラー」に続く新製品の開発に取り組み、医療用ゴム製品やスポーツ用品といった領域へ事業を拡げてきた。

先述の「ASA COLOR LED」は、光源が白熱電球からLEDに変わっていくなかで、それまで白熱灯で培った色と光の制御技術をLEDに応用し、開発したものだ。同社は2002年からは日亜化学工業とライセンス契約をし、供給を受けた青色LEDを光源に用いて生産し、LEDの世界で技術力を磨いてきた。

4つの事業領域で
新たな価値創造に挑戦

朝日ラバーは、2030年を見据えたビジョン「AR-2030VISION」において、「弾性無限の創造で持続的な価値向上がつながる社会に貢献する企業へと成長し続ける」を掲げた。OEMだけでなく、ODMの体制を構築して社会に貢献することを目標に、現在、4つの事業領域で研究開発と製品化に取り組んでいる。

1つ目は「光学事業」で、「ASA COLOR LED」に代表される光学分野向けを主体とした事業領域だ。EVや自動運転の普及を見据え、多様化するニーズに応えていくとともに、自動車事業で培った技術、ノウハウを自動車以外の領域にも拡げようとしている。

「私たちは色と光の感性技術と呼んでいますが、例えば疲れにくい光や安らぐ光、勉強が捗る光など、私たちが空間の中で求められる光はそのシチュエーションごとに変わるので、それに合った製品を開発しています。そうして開発した1つが、埼玉大学と共同開発した、勉強用光源/睡眠導入光源の『ASACOLOR LED-EMMO』です。他にも、例えば農作物の生育を促す光や、殺菌灯に適した光など、さまざまな分野に拡げていこうとしています」

シリコーンゴムキャップ「ASA COLOR LED」

2つ目は、「医療・ライフサイエンス事業」だ。この分野では30年前から製品を供給しており、ゴムと薬品が触れても互いに変質することのない強みを生かし、予め薬剤が充墳された注射器に使用されるガスケット(キャップ)をはじめ、液漏れなどの医療事故の防止などにもつながる特殊ゴムを開発している。現在注力しているのは、理化学機器分野だ。

「例えば、樹脂やガラスでできているシャーレをゴムに置き換えることで酸素を透過し、細胞の培養効率を上げることができます。他にも、ゴムで人肌・血管・筋肉の感触を出し、模擬血液を循環させることで内蔵を模擬的に再現した、手術のための手技トレーニング製品も開発しました。医師のトレーニング時のデータを生かし、AIを活用してロボットを動かす技術にもつなげていきたいです」

医療機器の回路や、ライフサイエンス関連機器などに組み込まれ、液体・気体の逆流を防止する「ARチェックバルブ」 

3つ目は「機能事業」で、変形、伸び縮みするゴムの特性を生かした事業領域だ。現在開発に取り組んでいる製品の1つが、通電により温めたり冷やしたりできる熱電モジュール「F-TEM」。ペルチェ素子をゴムで覆うことによって容易に曲げることができ、身体や衣服につけやすくなることで用途が拡がるという。

「F-TEMは、温度差をつけることで電気を生み出すことができることも特長で、これによってエナジーハーベスティングにも貢献できると考えています。機能分野ではこの他に、海外製の風力発電機を日本の風土に合わせて使えるよう、保護材としてのゴム製品の開発も進めています」

熱電モジュール「F-TEM」 

そして4つ目が「通信事業」で、実装基板やセンサを保護するための製品を供給している。

「エナジーハーベスティングと組み合わせながら、今後は通信デバイスの領域にも事業を拡げていきたいと考えています」

目の前にあるものを
ゴムにしたらどうなるか?

あらゆる領域への進出に挑戦を続ける同社だが、その過程では、「何度もあきらめようと思ったこともある」と語る渡邉氏。

「しかし、取り組み続けることで、時代がそれを呼ぶ時が必ずあると信じて開発を行っています。2030年ビジョンも、2050年の社会を描いた上で、そこからバックキャスティングして考えており、目の前のことに一喜一憂せず、やるべきことに取り組んでいきたいです」

「弾性無限」という創業者が掲げたスローガンは、渡邉氏が会社を経営していく上で、常に立ち返る言葉になっているという。

「目の前にあるものをゴムにしたらどうなるかを、常に考える癖が抜けませんね」

笑顔をたたえながら語るその探求心こそが、同社の事業の原動力になっている。

白河工場(福島県白河市)で働く従業員

 

渡邉 陽一郎(わたなべ よういちろう)
株式会社朝日ラバー 代表取締役社長