訪日客へ高付加価値なツアーを提供 観光を手段に地域経済を潤す

訪日客向け高単価ツアーを成功させてきたDMO、インアンドアウトバウンド仙台・松島。その設計・販売の秘訣や人材育成、コロナ後の準備と地域経済を回す手段としての観光について語った。

インアウトバウンド仙台・松島は、2018年、インバウンド事業に特化した株式会社として設立された。⾃⾝もガイドとして訪⽇外国人観光客のアテンドを⾏っている同社代表取締役の西谷雷佐氏は、「東北・北海道は世界に通用する魅力的なディスティネーションと考えています。観光地域づくり法人の認定も取得しました。株式会社の形を選んだのは、経営判断のスピードを重視したためです」と説明する。

DMOで仙台地域に訪日客を呼ぶ

 同社は仙台を中心とした6市3町のDMOだが、このエリアをコアに東北全体に訪日外国人観光客を呼び込むことを目指している。観光を起点に地域の経済を活性化すること、また優れた現地ガイドの育成も目標の1つだ。

「DMOのなすべきことは多岐にわたりますが、私たちは良質なツアーを販売することで、地域の経済に貢献したい。子どもたちが自分の地域のガイドになりたいと思うような、将来につながる仕事をしたい」と西谷氏は話す。

 自身が英語で海外からの観光客を案内してきたガイドである西谷氏は、現地ガイドの重要性はスマートフォンで簡単に情報が取れるようになった現代でも変わらないとみている。ただし、果たすべき役割は以前よりも大きくなった。地元の情報を持ち、それを提供するだけでなく、観光客と地元をつなぐハブとなり、観光消費を活性化することが期待されている。西谷氏は、優れたプロのツアーガイドが今後の高付加価値な旅行体験には欠かせないと考えている。そこで研修を充実したり、有償での旅客運送が可能になる第二種運転免許をガイドに取得させたりと、人材のレベルアップにも取り組む。

台湾のDMOと姉妹協定を締結

コロナ禍で訪日旅客がストップしている時期も、同社ではコロナ後に向けた準備を進めてきた。例えば、2021年9月には、台湾のDMOである雲嘉南浜観光圏と姉妹協定を締結した。コロナ前、直行便が就航していた仙台空港を起点とする東北旅行は台湾の人に人気だった。姉妹協定により、お互いの知見をそれぞれの地域振興に生かそうという狙いがある。

また、東北の観光地を巡るオンラインとリアルを組み合わせた観光ツアーの提供も開始した。オンラインツアーで訪問先の知識を深めた後にリアルのバスツアーを実施するというもので、国内に在住する外国人を主なターゲットにしている。秘境の温泉地を安全に訪問するための準備に役立てたり、ガイドと旅行者の距離をいち早く縮める効果が出ているという。

さらに西谷氏は、高付加価値化に成功した取組の事例として、手ぶらでできる花見のツアーに言及した。弘前公園の花見から東北各地に展開したもので、訪日客に地元の食材とうつわを使った弁当と、お囃子など伝統的な音楽などを提供する。これを1人当たり1日3万円で販売し、海外からの旅行者に高く評価された。

このような経験から、西谷氏は「まず、観光は経済効果を作るための手段だと自覚することが大切です。経済を回すためには観光客に地域の物品・サービスが売れなければならないので、ツアーで提供するものの『地域内調達率』はDMOにとって重要な指標です」と指摘した。

そして、観光の高付加価値化のためには、観光客入込数だけでなく、キャッシュポイントを明確にし「旅行商品」を作る重要性を説いた。仙台・松島地域の場合には、そもそも東北が日本のどこにあるかの説明をはじめ、東京からの移動時間・手段や、周辺ホテルの選択肢などをきちんと発信している。旅行コンテンツを作る際にも、地域の人々の暮らしや、昔生きた人の痕跡を生かしてその場所ならではのストーリーを作る。観光資源は商品に仕立てて初めて経済の活性化につながる、と同氏は指摘し、「DMOとしては本質を捉えたうえで、地域と観光に創造性と想像力をもたらしたい」と講演を締めくくった。