4つの柱から見えてくる 持続可能な観光地域の要件

「観光」と「まちづくり」、どちらもごく一般的な言葉だが、「観光まちづくり」といわれるとイメージが湧かない読者もいるかもしれない。

本書の編著者らいわく、「観光まちづくり」とは、地域社会の現状と課題を理解し、地域を主体とした「観光と交流」を軸にしながら、活力あふれる地域の実現を目指す活動のことだ。

本書によれば、この言葉が使われるようになってまもなく25年が経つ。そもそもは、高度経済成長下で都市部への人口流出が進み、いち早く過疎化に直面した中山間地などで、地域住民が足元の資源を見つめ直し、それを守りながら観光に活かそうとする試行錯誤が始まったことに端を発するのだという。

そうした四半世紀の蓄積を踏まえ、昨今の「観光まちづくり」を多角的に論じたのが本書だ。コロナ禍で危機に瀕したインバウンド需要が回復し、さらなる期待が高まる一方、地域によってはオーバーツーリズムが顕在化したり、観光産業を支える人手不足にあえいだりするなど、喜ばしい状況ばかりではない。まちづくりの起爆剤として観光に大きな期待を寄せるのはよいが、経済的利益ばかりに目を奪われ、環境を悪化させたり地域社会と対立したりしては本末転倒だ。

そこで本書は、地域環境、地域社会、地域経済、人材と仕組みづくりの4つの柱を軸に、観光まちづくりのあるべき姿を素描する。

アカデミックな論考に加え、具体的な事例も豊富だ。例えば新潟県南魚沼市の古民家ホテル「ryugon」では、さまざまな体験交流型の商品を企画・提供し、「龍言時間」と称して地域での過ごし方の提案に力を入れる。こうした体験型商品の販売にはクラウドサービスをフル活用している。多言語での情報提供が容易になることで、インバウンド市場の開拓にも効果的だ。デジタルでつながりを深める観光まちづくりの好例といえる。

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