医療機器専門商社の八神製作所 予防・医療・介護で人の一生に寄り添う
創業154年の歴史を誇る医療機器専門商社・八神製作所は、コロナ禍を契機に自社の存在意義を再定義。予防・医療・介護の領域を軸に「Human Care Company」への進化を目指し、DXとオープンイノベーションを活用した新規事業開発に挑んでいる。地域連携によるヘルスケアエコシステムの構築を目指す。

荒木 篤志
(八神製作所 代表取締役社長)
コロナ禍の苦難から
自社の存在価値を見直す
創業当初は投薬ビンを製造し、その後、医療機器専門商社として長い歴史を紡いできた八神製作所。時代の変化に合わせ、事業領域を広げてきた。グループ会社には医療機器の保守・点検・修理を行うメンテナンス会社や物流会社も有し、スピード感を持ったサービス提供の実現に努めている。

医療機器の専門商社として、あらゆる取引メーカーの商品を幅広く取り扱い、顧客ニーズに最適な商品・サービスを提供
2020年に発生したコロナ禍は、同社の存在意義を改めて見直す、大きなターニングポイントとなった。
「外出禁止で、思うようにお客様に商品を届けられない中、自分たちは何のために仕事をしているのかを、いま一度全社員で共有しようと『八神製作所の約束』と題して、当社の理念体系を見直しました。そこで改めて認識したのは『今日もどこかで誰かを支えている』ということです。以降、私たちの仕事の尊さを象徴する誇りの言葉となりました」と八神製作所社長の荒木篤志氏は振り返る。
そこから生まれたのが、予防・医療・介護を通じて、人が生まれてから天寿を全うするまでを支える会社になる、というビジョンだ。医療機器卸を脱皮し、「Human Care Company」を目指して2021年に中期経営計画「Human Care Companyプラン」を策定した。
予防・医療・介護を軸に、ヘルスケアの領域を従来より広く捉え、既存事業の進化(深化)と新規事業の探索に挑み、新たな企業価値の創出を目指す。
ビジネスモデル変革へ向け、社員の意識を変えるべく、自発的に改善を考える「ひとヒネリ活動」や、社内アイデアコンテストのYAGAMIチャレンジカップなども開催した。ひとヒネリ活動は年間2000件を超える改善成果が提出され、また、チャレンジカップは3年間で延べ90名程の社員が参加し、120件のアイデアが集まっている。
「会社運営に関わる大きな変革から、日常の小さな改善まで、常にアイデアを出し挑戦することで、時代に合わせ、自分たちも会社も変わっていかなければならないという覚悟を共有できればと思っています」。
並行して、技術革新の進展に合わせ、独自の八神流DX(YDX)も推進する。
「変えるべきことを変え、守るべきものを守る。八神流DXは、デジタル化や効率化の推進というより、人材育成だと考えています」。
物事を変えるには、深く考える、知恵を出す、発想力を養うの3要素が重要だと荒木氏はいう。
「この3つの要素を養うことが第一義であり、その結果として、デジタル化や効率化がアウトプットとして実現される。その意味で、私たちのDXの取り組みは、人材育成を最優先にしています」。
高齢化に直面するヘルスケア制度
オープンイノベーションが不可欠
創業から154年、「共利共生(互いに助け合いともに生きる)」「生衛(いのちを衛る)・保健(健康を保つ)」を、変わらぬ理念としてきた八神製作所。
「真面目で物事を一生懸命やる、誠実で優しい社員が多いのが当社の強みです。転職は当たり前、人が辞めれば即戦力を入れるという時代になりつつありますが、先輩から受け継いできた理念・文化を入社時から浸透させ、長く働いてもらえるように努めたいと思っています」。
2025年1月には、「70歳まで自分らしく働ける環境を実現する」というコンセプトのもと、定年後のキャリアを尊重したシニア人事制度も新たに導入。
「社員を大切にすることが、会社の未来を拓くことにつながります」。
Human Care Companyを目指す同社では、地域社会との連携や外部企業との協業を積極的に進める「YAGAMIオープンイノベーション戦略」を定めている。2021年には、予防・医療・介護分野におけるイノベーション創出を目的としたアクセラレータープログラム「YAGAMI Human Care Pitch」を開催。併せて、総額10億円のYAGAMI Healthcare Fundを設立し、ヘルスケア領域での事業拡大を推進している。
「ヘルスケアをもう少し幅広く考え、今までの公的保険内でのビジネスから事業領域を拡大していくというのが、この取り組みの狙いです。当社では、独り勝ちしないという共利共生の理念が社員に浸透していますので、オープンイノベーションの考え方は戦略として馴染むと思っています」。
予防・医療・介護の領域は、物価が上がり予算が減ったからと言って、何かを減らすわけにはいかない。少ない予算で今まで通り、安全・安心で安定的に医療機器や医療材料、サービスを提供していくことが求められる。
「物流企業やECプラットフォーム事業者、さらには在宅ケアを見据えた警備会社のインフラまで、これまで関わってこなかった事業者との連携、スタートアップの新しい技術を活用した効率化。限られた予算でサービスの質を落とさず人の一生に寄り添うには、オープンイノベーションは欠かせない重要な要素です」。
健康経営で地域連携に注力
未来型ヘルスケアエコシステムを
愛知県名古屋市に本社を構える八神製作所。地域との連携においては、2022年2月に、愛知県豊橋市と「健康経営の普及促進及び健康増進に関する連携協定」を締結。豊橋市内企業の健康経営の普及を通じて豊橋市民、市内企業の従業員の健康増進を図る。
具体的には、八神製作所で開発した「YAGAMIおとなの体力測定」やヨガプログラムを豊橋市内の企業へ提供している。
予防関連事業では、実技と座学を組み合わせた健康セミナーやヨガプログラムを提供
また、愛知県が主催するオープンイノベーションによる新規事業創出プログラム「Aichi Matching 2024」にも参加。このプログラムは、愛知県内の企業と全国のスタートアップとのオープンイノベーションを促進し、県内における新規事業創出を目指すものだ。
八神製作所では、「人に寄り添う、未来型ヘルスケアエコシステムの構築」をテーマに同プログラムに参加。スタートアップの持つ独自アイデアや技術と同社のリソースを掛け合わせ、より効率的で効果的な質の高いケアを受けられる社会の実現を目指していく。
今後の目標は「人の一生を支える、Human Care Companyの実現に尽きる」と荒木氏は話す。
「人生100年時代を豊かに明るく前向きに過ごせる社会の実現に貢献したい。地域や多様な企業と連携し、この地域の住民で良かったと感じられるようなまちづくりの一翼を担えればと考えています」。

- 荒木 篤志 (あらき・あつし)
- 八神製作所 代表取締役社長
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