横浜市 山中竹春市長インタビュー 「選ばれる都市」の魅せ方

横浜市は、民間の住みたい街ランキングで継続的にトップを維持するなど高い人気を誇り、注目を集め続けている。未来に向け、「子育てしたいまち 次世代を共に育むまち」を掲げ、日々の暮らしを支えながら魅力を高める活動に力を入れる山中市長に、そのビジョンと政策を聞いた。

(聞き手:事業構想大学院大学学長・田中里沙)

横浜市は国内有数の港湾・産業都市であり、377万人の人口を抱える

情報発信とコミュニケーションの強化

── 2022年度には、政策局、市民局、文化観光局の関連部門の再編によりシティプロモーション推進室が設置されました。設置に至る経緯や背景、期待される役割についてお聞かせください。

山中 竹春 横浜市長

市長に就任して以来、「市民目線」の大切さを繰り返し職員に伝えています。特に、市民の皆様に「伝える」ではなく「伝わっている」かどうか。そうした視点を大事にしています。

市民の皆様に理解していただくためには、市役所からの情報発信は分かりやすく、伝わるものでなければなりません。就任当初から、横浜市は良い取組をしているのに、それが市民の皆様にしっかりと伝わっておらず、もったいないと感じることが多くありました。

これまで、市民向けの広報、報道、対外的なシティプロモーションの仕事を別々の部署で行っていました。そこで、市全体の発信力をさらに高めるため、それらの部署を統合し、令和4年度に「シティプロモーション推進室」を新設しました。

横浜は、美しいウォーターフロントの景観、歴史や文化を感じさせる街並み、賑わいと活気をもたらすスポーツ、身近な自然環境など、魅力的な資源にあふれています。こうした資源をまちづくりと連動させることで、横浜の魅力は飛躍的に高まると確信しています。都市ブランド力を磨き上げ、国内外に横浜をどう魅せていくか。そうしたシティプロモーションはとても重要だと考えています。

田中 里沙 事業構想大学院大学 学長

── ブランドは情報によって形成される部分が大きいです。送り手側の意思がまとまり、市民の方々と向き合う体制が整ったことは有効なことと感じます。

街の魅力の発信はもちろん、市民の皆様に、横浜市の施策・取組についてもしっかりとお届けします。行政サービスの質を高め、皆様に利用していただくことで、「暮らしやすい、住んでいて良かった」と思っていただけるような横浜にしていきます。

── シティプロモーション推進室ではどのようなことに取り組まれていますか?

田中学長にも多くのアドバイスをいただき、「シティプロモーション基本方針」を策定しました。この方針のもと、全ての職員が横浜の目指す姿を共有し、「伝わる」ことの重要性を理解して実践する。そして、職員の発信力を高めるための「インターナルブランディング」を進めています。都市ブランド力やシビックプライドを高めるためには、職員一人ひとりの発信が重要と考えています。

また、プロモーションのPDCAを回すため、効果測定できるマーケティングツールを導入しています。今後も、効果の高いプロモーション方法を常に模索しながら、戦略的なシティプロモーションを展開していきます。

── 職員の方々は様々な分野、部門で業務を担われていて、市民の方々との接点も多様です。施策の背景や目指すものが理解され、より良い関係性やつながりが広がっていくことを目指し、各人がプロモーションの担い手であるという意識を高めてもらえると良いと願っています。

子育て支援で好循環を創り出す

── 横浜市中期計画2022〜2025は、横浜市民の皆様からのパブリックコメントも取り入れながら策定されています。中期計画の達成に向けて具体的にどのような取組を進めますか。

横浜市の人口は、令和3年から2年連続で自然減が社会増を上回り、減少となりました。基礎自治体にとって、人口はすべての政策の基礎であり、今後人口減少に伴う市税収入の減少や担い手不足など、多くの課題に直面することになります。

その中で、最優先で力を注ぐべき課題は「子育て支援」だと考えています。今回の中期計画でも、すべての政策を貫く基本戦略を「子育てしたいまち 次世代を共に育むまち ヨコハマ」としました。中学3年生までの小児医療費の無料化や、中学校での全員給食の開始に向けた準備など、様々な子育て支援策をはじめ、中期計画で掲げた政策を、スピード感を持って進めます。

子育て世代の皆様に横浜を選んでいただくことで、生産年齢人口が増え、担い手の確保や税収増、地域経済の活性化につながる。それがさらに、あらゆる世代の皆様へのサービス向上につながっていく。こうした好循環を創り出し、「住みたい・住み続けたい」と思えるまちを実現したいと考えています。

── SNSのフォロワー数の増加や、市民の方からのお声を伺うと、一定の成果が出ていると感じます。具体的に、横浜市が「住みたい・住み続けたい」「選ばれる」都市となるために注力しているプロモーション施策をお聞かせください。

現在、継続的な定住と人口流入を促すための居住促進プロモーションに着手しており、「住みたい・住み続けたい」「子育てしやすい」街だと思っていただけるためのプロモーションを、多面的に進めています。昨年は、子育て世代の転入・転出理由や、住んでいて魅力に感じている要素などを詳細に調査しました。この調査で得られた、横浜での居住に関するニーズ・シーズを、今年の夏に開設予定の「居住促進ウェブサイト」の設計をはじめ、多様なプロモーションに活用し、「横浜での充実した暮らし」というイメージを広げたいと考えています。

また、ポケモン・ウィズ・ユー財団様と連携し、ICT教育、防災意識向上、環境教育など次世代育成につながる取組も進めています。今後も、企業をはじめ、様々な主体の皆様と連携することで、子どもたちの明るい未来につながる新たな取組を創り出していきます。

次世代育成につながる取組ではポケモン・ウィズ・ユー財団と連携した

── エビデンスに基づく具体的な企画と実行によって、関わる方のモチベーションが向上しますし、市民の皆様も声を出しやすくなると想像します。横浜市は日本を代表するクリエイティブな都市の一つですから、市民や企業の皆様も当事者としてプロモーション活動に参加をしてくれるような流れができるといいですよね。

横浜には、美しい景観や歴史・文化を感じさせる街並み、自然豊かな郊外部など、多様な魅力があります。それをさらに「選ばれる都市」として国内外に横浜をどう魅せていくかという視点も重要です。他ではできない創造的なチャレンジができる街。そして、様々なヒト・モノ・コトから刺激を受け、感性が磨かれる街。多くの皆様にそう感じてもらえるシティプロモーションを展開していきたいと考えています。

── 横浜市のさらなる魅力の向上に向けた市長の想いを伺えますか。

昨年12月に策定した中期計画の中で、市民や企業の皆様と共にめざす都市像として、「明日をひらく都市 OPEN×PIONEER」を掲げました。この都市像には、横浜に関わる全ての人が前を向き、希望に満ちあふれた毎日が送れる、世界のどこにもない都市を共につくりたいという想いを込めています。今年は、まさにその目標に向けて、横浜の賑わいと魅力をさらに高めるチャンスの年です。

3月には、相鉄・東急直通線が開通し、横浜市の交通ネットワークはさらに充実します。4月には関内駅前に関東学院大学の新キャンパスが開設され、関内・関外エリアに新たな産学連携拠点も誕生します。

そして、都心臨海部には「KT Zepp Yokohama」や「Billboard Live YOKOHAMA」、「ぴあアリーナMM」など、多くの音楽施設が近年次々に誕生しており、秋には世界最大級2万席の音楽ホール「Kアリーナ横浜」も開業します。大小様々な音楽施設が一つのエリアに集積する都市は世界でも類を見ません。

── 2027年には、横浜で国際園芸博覧会が開催されます。国内外から横浜への注目がさらに高まって行くことが期待されますね。

2027年には国際園芸博覧会「GREEN×EXPO 2027」が開催される

そうですね。4年後に国際園芸博覧会「GREEN×EXPO 2027」が、横浜で開催されます。日本で7回目、一都三県では初めてとなる万博です。国際的な花き園芸の普及発展に加え、SDGs、地球温暖化対策、脱炭素社会など環境と共生する暮らしや、自然と最先端技術が融合したまちづくり等の姿を、市民・経済界・様々な企業の皆様と共有し、グリーントランスフォーメーションによる新しい社会の実現を目指していきます。万博を自然に根差した社会課題の解決、「Nature Based Solution」のショーケースとして、横浜から世界に力強くメッセージを発信していきます。

また、新たな産業の創出や既存産業の発展などによりビジネスチャンスが生まれ、新たな時代を踏まえた社会貢献にもつながる絶好の機会です。ホストシティとして万全の環境を整え、市民・企業、関係する全ての皆様とともに盛り上げ、多くの方々の記憶に残る万博としていきます。そして、万博の成功をその後の郊外部の新たな街づくりにもつなげられるよう、皆様としっかり連携し、準備を進めていきます。

今後も、横浜の魅力を高め、「選ばれる都市」となれるよう、力を尽くしていきます。(了)