戦略をめぐる経営陣の誤解を解きほぐす

世の中、とりわけビジネスセクターには数多の「戦略」があふれている。だがそうした戦略にはどれほどの根拠があるだろうか。組織のあるべき姿を反映しているだろうか。本書を読むと甚だ心もとなくなってくる。それほどまでに、戦略をめぐってはさまざまな誤解が溢れているのだ。

経営者が陥りやすい誤解として本書が挙げるのは、「企業たるもの『ミッション』を掲げなくてはならず、すべての意思決定はそれに基づいて行われるべきである」というものだ。多くの組織のリーダーは、目標を決めればそこから自ずと戦略が導き出されると信じ、戦略策定にあたってまず目標設定から始めてしまう。しかし戦略と目標管理を混同してはならないと著者は指摘する。

昨今、パーパス経営がもてはやされているが、それもまた無意味であると本書は断じる。ミッションやビジョンなど、種々の「ステートメント」なるものを作成するのは単に時間の無駄だというのだ。

そうであれば、真に意味のある戦略とは何なのだろうか。著者によればそれは、組織の命運を決するような重大かつ困難な課題を解決するために設計された方針と行動計画の組み合わせのことだ。目標を掲げることではなく、むしろ問題解決の一種と捉えるべきだという。

有効な戦略を立てるため、本書は3つのスキルを挙げる。第一は、本当に重要なのはどれで、後回しにしてよいのはどれかを見極める能力。第二は、その重要な問題の解決は手持ちのリソースで現実的に解決可能なのかを判断する能力。第三は、リソースを集中して投入する決断を下す能力。逆に言えば、貴重なリソースを小出しにしたり、一度にいろいろなことに手を出したりする愚を犯さない能力である。これらのスキルはどれが欠けてもならず、3つがそろって初めて課題の核心、つまり最重要ポイントに全力集中できるようになるのだと著者は説く。

ネットフリックス、セールスフォース・ドットコム、世界最大規模の格安航空会社ライアンエアーなど、名だたる企業の戦略分析や、著者が実際に戦略立案に助言を与えた事例、経営層との対話がつまびらかにされる本書には、一人称の「私」が多様されている。独自の研究を通じて見いだした見解を説明するには、自分自身が何にヒントを得て、どのような経験を踏まえたものかを語る必要があるとの考えからだ。

そのためか本書を読み進めるうちに、著者が駆け出しのコンサルタントから「戦略家の中の戦略家」「戦略の大家」と呼ばれるようになるまでの長い旅路を追体験している気持ちになってくる。その長大な物語のなかに、最重要ポイントの見極め方やその攻略法など、課題解決型の戦略の要諦が織り込まれている。500頁を超える大著ながら、飽かせず読ませる著者の筆力は圧巻だ。

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