チャームケア・コーポレーション創業者 下村隆彦の生涯青春、一生挑戦
『チャームケア・
コーポレーション創業者
下村隆彦の生涯青春、一生挑戦』
- 村田 博文 著
- 本体1,800円+税
- 財界研究所
- 2026年4月
「人生100年時代」といわれる昨今、「ミドル・シニア」の働き方、社会に対して果たす役割に焦点が当たっている。還暦を一線から退く区切りでなく、新たな挑戦のスタートと捉えた経営者がいる。
本書は、60歳で有料老人ホームを運営するチャーム・ケア・コーポレーションを創業した下村隆彦の半生と事業観を、財界研究所の村田博文が、下村本人への取材をもとにまとめた一冊だ。
下村は30歳で祖父の建設会社を引き継ぎ、社長に就いたが、建設業は受注に応じて収益に波が生じるという課題があった。下村は、リニューアル工事や不動産管理などで恒常的に収益を生む仕組みを整え、規模をむやみに広げるのではなく、売り上げ・社員・資本金に上限を設けて健全経営を保つという収益構造の大転換を図る。この堅実経営によって、バブル崩壊をも乗り越えた。
そして「社会貢献」への想いを胸に、60歳で踏み出した介護事業。建設会社が介護に参入するという構想を、金融機関を含め誰もが実現不可能と見ていたが、下村には成功への確信があった。介護は需要が積み上がっていくストックビジネスである。下村はその性質を見極め、規模の拡大とサービスの高品質化を同時に追求し、関西から東京へ進出、2018年に東証一部(プライム)上場も果たした。
「人との出会い」を大切に、貪欲に学び、協力者を集める姿勢、「必ずやり遂げる」熱意、業界特性と社会の「先の先」を読んでビジネスモデルを設計する柔軟さ、そうした下村の「生き様」や戦略の描き方が、本書の大きな読みどころである。
超高齢社会で介護事業の持続的成長を左右する課題は「人」だ。下村は業界平均より高い給与設定、選択的週休三日制、AIやDXの導入を進めつつ、「人が人のお世話をする」という介護の本質を守り、従業員と利用者双方の幸福を模索する。仕事の質に応じて熟練者を「マイスター」に認定し処遇を上げるなど、分業化・専門化にも取り組む。
さらに下村は82歳の今、「第三の人生」を見据える。同社は企業としてはいち早くヤングケアラー支援を行ってきたが、自らが人との出会いによって挑戦を成し遂げた経験を踏まえ、たとえ困難な環境にあったとしても、若者が高みを目指せるよう後押しする。2025年に「下村龍馬塾」を開き、2026年以降は財団を設立して、学習支援や子どもの居場所づくりを本格化させる予定だ。
年齢や過去の成功にとらわれず、挑戦を重ねる下村の姿勢に触れれば、誰しも前を向いて一歩踏み出したくなるはずだ。
今月の注目の3冊
レアル・マドリードの革命
世界最高峰クラブの飽くなき挑戦
- スティーヴン・G. マンディス 著、田邊雅之 監修
- 平凡社
- 本体3,500円+税
レアル・マドリードは、なぜ世界最高峰の地位を維持できるのか。本書は、その理由をピッチ上の強さだけでなく、経営、ブランド戦略、ファンとの関係、リーグ運営まで視野を広げて読み解く。
著者は長年クラブ経営を取材してきた研究者。チャンピオンズリーグでの成功やフロレンティーノ・ペレス会長のリーダーシップを軸に、欧州スーパーリーグ構想、放映権ビジネス、マルチクラブ化、選手のブランド価値など、現代サッカーを動かすテーマを多角的に論じる。勝利の背景には、歴史や伝統を尊重しながら、時代に応じて経営や組織を変革し続ける姿勢があることが浮かび上がる。
世界有数のスポーツクラブを通して描かれるのは、理念と革新を両立させながら組織の価値を高め続ける発想である。その視点は、企業経営や地域づくりなど、長く支持される組織の条件を考える手がかりにもなるだろう。
高齢化と介護
日独の経験とアプローチ
地域コミュニティの現状と課題
- フランツ・ヴァルデンベルガー、
ゲルト・ネーゲレ、工藤裕子、松田智生 編 - 新曜社
- 本体5,800円+税
日本では現在、介護保険制度の持続可能性や地域コミュニティの再構築が大きな課題となっている。本書は、世界有数の超高齢社会である日本とドイツを比較し、自治体、市民社会、介護人材、先端技術など多角的な視点から高齢者ケアのあり方を検証する共同研究の成果である。
比較の対象は制度だけではない。高齢者の社会参加や地域の支え合い、家族介護や外国人介護人材をめぐる課題、介護と仕事の両立、デジタル技術の活用、新型コロナウイルス感染症が高齢者ケアに与えた影響まで幅広く取り上げる。日本の地域包括ケアシステムや市民参加の経験、ドイツの自治体制度やボランティア文化など、両国が学び合える知見も豊富だ。
高齢化を地域社会全体の課題として捉え、日本とドイツが互いの経験から何を学び、これからの高齢者ケアの仕組みをどう築いていくかを考える手がかりとなる。
なぜ日本の建築家は
世界で高く評価されているのか。
Nine Visions : Japanese Architects
from Japan to the World
- 「ナイン・ヴィジョンズ展」実行委員会団 編
- Echelle-1 工学図書
- 本体4,400円+税
建築界のノーベル賞とも呼ばれるプリツカー建築賞の受賞者数で、日本はアメリカと並ぶ世界最多の実績を誇る。なぜ日本の建築家は世界で高く評価されるのか。
本書が取り上げるのは、丹下健三、槇文彦、安藤忠雄、SANAA、伊東豊雄、坂茂、磯崎新、山本理顕ら、世界の建築史を築いてきた9人(8組)。代表作や思想を紹介するだけでなく、日本建築が世界を魅了してきた背景をも読み解いていく。
総論では、日本からこれほど多くのプリツカー建築賞受賞者が生まれた背景を制度や文化の面から分析し、各論では海外研究者や建築史家らの視点を積極的に採り入れることで、日本建築の独創性と普遍性を浮かび上がらせる。建築作品の美しさを味わうだけでなく、世界が日本の建築に何を見いだしてきたのか、その理由まで視野を広げて考えるきっかけを与えてくれる。