世界に1冊だけの絵本をギフトに アバター絵本サービスを構想

絵本に登場するキャラクターを自分(子ども)に変えられるアバター絵本サービス『ÉHON INC.(えほんインク)』が人気を集めている。開発したえほんインク代表取締役CEOの國則圭太氏(事業構想修士)に事業構想の経緯や大学院での研究、事業戦略について聞いた。

絵本に登場するキャラクターを自分(子ども)に変えられるアバター絵本サービス『ÉHON INC.』。
アバターのパーツ組み合わせは約50万通り

世界に1冊だけの絵本をギフトに

2021年にリリースされたアバター絵本サービス『ÉHON INC.(えほんインク)』は、絵本に登場するキャラクターを自分(子ども)に変えられる画期的なサービスだ。顔のパーツや服装などを選んで自分だけのアバターを作成し、「桃太郎」「シンデレラ」などの名作やÉHON INC.オリジナルストーリー作品に反映、製本して届ける。ギフトサービスとして人気を集め、人気テレビ番組でも紹介された。

本サービスを開発したえほんインク代表取締役CEOの國則圭太氏は、大学卒業後、デザイン専⾨学校を経て2006年に広告制作プロダクションでグラフィックデザイナーとしてキャリアをスタート。その後、イベント制作会社で空間デザイナーとして活躍し、独立。2015年にブランディングやWebマーケティングを手掛けるアッタデザインを設立した。

國則 圭太 えほんインク代表取締役CEO、事業構想修士

絵本のカスタマイズサービスの発想は2018年頃に思いついたという。

「2児の子どもを持つ親になって、子どもを喜ばせる事業をしたいというのが理由の一つです。自分自身が登場する絵本があったら、喜ばない子どもは世界中どこにもいませんよね。もうひとつの理由は、クライアントワークが中心の会社でしたから、自社プロダクトを生み出したいという思いでした。最初はフルオーダーのオリジナル絵本ギフトサービスを開始から始めました。ただ単価が10万円以上と高く、ユーザーを増やすには限界がありました。事業をどうスケールさせるか悩んでいたときに、会社を一緒に経営してきた相棒から『仕事は僕に任せて学んできたら?』と背中を押してもらったのです」

アイデアを壁打ちできる環境

青山にオフィスを構えていたこともあり、事業構想大学院大学の存在は知っていた。「相棒はマーケティングやMBA的発想が得意だったので、僕は構想力を身につけるためにMPD(事業構想修士)が良いと考えました」

2020年度に事業構想大学院大学に入学。コロナ禍の影響で入学は6月にずれ込み、しばらくはオンライン授業が続いたが、「同期と会えない期間が長かったからか、リアルで会ったあとは一気に仲良くなりましたね」と國則氏は振り返る。

「僕はエリート街道ではなく、小さな会社を転々として小さな会社を興したタイプ。一方、同期の大半は大手企業の新規事業担当者や部長クラスで、そういう人たちとフラットに話せる環境を得られたことはすごく良かったです。入学から2年間、絵本のカスタマイズサービスという構想はブレなかったので、皆も積極的に応援してくれて、資金調達の出資者になってくれた人もいますし、同期の1人は今では社員として一緒に働いています」

講義では、アイデア発想やビジネスモデル策定などで刺激を受けたという。自身がデザイナーであるためアイデア発想には慣れてはいたが、「アカデミックに体系化された発想法を知れたことは大きかったし、何より、アイデア発想は1人では限界があります。壁打ちできる仲間や先生がいる環境は貴重でした」と國則氏は語る。

2年次は松永エリック・匡史特任教授、渡邊信彦教授のゼミに所属。特にPsychic VR Labを起業している渡邊教授からは、スタートアップの方法やVR、メタバースなど現在の事業に繋がるヒントを学んだ。

絵本のキャラクター制作にアバターを活用し、フルオーダー絵本よりもコストを下げようというアイデアは在学中に生まれた。

「当初は2Dアバターを考えていましたが、絵本中に登場するポーズやイラストパーツを2Dで描き起こすのには膨大な作業とコストが発生します。突破口になったのが3Dアバターの活用です。3Dアバターならば1度生成すればOKで、コストが下げられスケールしやすい。しかも動画化やメタバースへの展開など新たな可能性も生まれます」

アバターコミュニケーション
サービスを展開

2021年11月にアバター絵本サービス『ÉHON INC.』としてリリース、2022年2月には事業会社としてえほんインクを新設した。絵本はソフトカバー版で税込5,320円と安くはないが、ギフトサービスとして順調に成長している。

「巻末に子どもへのメッセージを載せることもできます。例えば『桃太郎のように勇気ある子になってね』とか、面と向かって恥ずかしくて言えないことも絵本ならば載せられます。パーソナライズされた絵本はなかなか捨てづらいものですから、10年後、20年後にメッセージを見た時は受け取り方が変わるかも知れません。贈られた人、贈った人の心を絵本でつなぎ、双方に感動体験を届けたいと思っています。最終的には、入学や結婚などのライフイベントごとに絵本を贈りあうような文化を創りたいですね」

1月末には新商品として、イラストの中から主人公やキャラクターを探す「絵探し絵本」を発売した。ピーターパンやアラジンなど、7つの童話の国にいる自分を探すという内容で、童話ごとに異なるイラストレーターを起用している。

2023年1月には「絵探し絵本」を発売した

事業は順風満帆に見えるが、國則氏は「僕達が目指しているのは絵本制作サービス会社ではなく、アバターコミュニケーションサービスを展開する企業です」と話す。

「アバターを活用することで、スマートフォン待ち受けやTシャツなどさまざまなグッズ展開ができます。メタバースへの活用や、色々なクリエイターとコラボしたNFTタイプのアバター制作も可能でしょう。個人はもちろん、企業も巻き込みながらアバター活用を進めていきます」

企業向けでは、マーケティングやコミュニケーションのツールに展開する方針だ。

「例えば、中古車販売大手とは、購入した車のアバターをつくり、それを絵本や顧客とのコミュニケーションツールとして導入しています。絵本は子どもが喜びますし、アバターが納車やメンテナンスの情報を教えてくれるのも楽しいですよね。他にも生命保険代理店とは、イベント時に来場家族の子どものアバターシールをその場で作れてお渡しするプロモーション方法を提供しています」

絵本という枠を超え、アバターコミュニケーションサービスでBtoCだけでなくBtoB市場も開拓するえほんインク。「最終的な目標は、『ÉHON INC.ランド』をつくること。リアルとメタバースをつなげたテーマパークで、アバターも活用しながら、世界中の子どもをつなげたいですね」と國則氏は笑顔で語った。