『イノベーション全史』 歴史を学び、「超」イノベーションを目指す

今日、特に産業界においては、イノベーション人材を求める声が高い。だが、そもそもイノベーションとは何か。本書の著者によれば、「新しいものを世の中に普及させ、コストを下げて実用化し、需要を呼び覚まし、大きな利潤を創出し、多くの人の生活を変え、社会の価値観を変え、大きな投資機会を創出する」ことだ。つまり、「エミュレーション(模倣)」と「ディフュージョン(普及)」のサイクルで起こるのがイノベーションであり、単に新しいアイデアを生み出すことではない。このサイクルが重層的に連続して起こることで初めて社会が大きく変わる。

本書は19世紀半ばまでのイノベーション「前史」から、「超」イノベーションの未来まで6つの時代に分け、主に米国発の事例をもとに、イノベーションがどのように進化し世界を変えていったのかを概観し、イノベーションの意味の変遷や、そのメカニズムを解説する。長いスパンで見た場合、特に変化の激しかったのは1870年から1970年、著者が「特別な世紀」と呼ぶところの約100年間だ。電信や鉄道、白熱灯や蓄音機、肥料や交流電源、医学などの全方面において、今日の私たちが「革新的な発明」と感じるような変化の大部分はこの間に起こった。

自動車製造における大量生産ラインを創設したヘンリー・フォード、元祖ベンチャーキャピタルのJ・P・モルガンなど、名だたる起業家たちに共通する資質を本書では「アニマルスピリッツ」と呼んでいる。全く新しい技術の実用化は予見不可能な上、巨額の投資が必要だ。そうした大きなリスクを取るには、「自分なら成功するはず」という根拠のない自信や野心動物的衝動、つまりアニマルスピリッツに突き動かされる必要がある。

米国のイノベーションは、1970年代以降、いわゆる大企業病により一時は低迷を余儀なくされる。だが1990年代になると、デジタル技術とインターネットによる新しい産業が生まれ、起業家社会を基盤とする経済への変革が始まり、完全に復活を遂げた。

日本にもドットコムバブルは到来したが、それを契機にシリコンバレーのようなデジタルゴールドラッシュは起こらなかった。アニマルスピリッツが欠けていたわけではない。日本社会の不幸は、その野心が不動産ビジネスに向かってしまい、いわば無駄に消費されたことにあると著者は見る。その後も「失われた30年」を経て、今日の日本経済の停滞がある。

日本ではもうイノベーションは起こせないのか。著者が期待を寄せるのは大学の改革だ。特に理系の博士課程を魅力的なキャリアが築ける場に改革すべきだと主張する。Ph. D.が専門的な資質の証明となっている米国では、大学院進学により、起業やスタートアップへの就職といったキャリアの選択肢が広がる。博士人材が少ないと言われる日本社会において、ここが1つの突破口になりそうだ。

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