「移動」からはじまる観光活性化 バスのDXで世界中が訪れるまちへ

全国の公共交通のDXに向けてさまざまな挑戦を続けるユニ・トランド。利用者目線で様々な情報を検索しやすくし、バスの利用者数を年々増加させることにも成功している。位置情報や利用者データを駆使する観光交通の最前線について、代表の高野氏が語る。

高野 元 ユニ・トランド 代表取締役社長

ユニ・トランドは2016年にユニリタの子会社として設立された、公共交通のDXで地方創生に貢献するIT企業だ。全国の移動体(主にバス)の約4000台にデータ収集センサーを設置し、バスの位置情報や利用者データの見える化など通して、北海道内の自治体をはじめとして全国の観光地の二次交通の課題解決を行っている。

「観光において、魅力発信のためのWebやSNSの情報発信はどの地域でも精力的に取り組まれていますが、観光地への交通アクセスが分かりにくい地域はまだまだ多くあります。旅前や旅中における観光地への『交通の不安解消』は、観光地エリアの価値向上という点で重要です」とユニ・トランド代表取締役社長の高野元氏は語る。

見えない交通は存在しない交通

同社では北海道の観光交通について、同社が代表幹事の「地方創生モビリティコンソーシアム」として3年間取り組み、観光地アクセスの二次交通活用、地域事業者との連携、データ収集やGoogle Mapへの反映、多言語対応など様々な改革を行った。初年度は時刻表やバス停情報などの基本情報のデータ化、Google Mapへの反映、英語対応を行い、2020年度は自走化をテーマに、地域事業者と連携して基本情報の更新の仕組みをつくり、2021年度はいよいよ収集した情報を活用して観光交通DXに着手した。

広大な北海道でストレスなく観光地間を移動できるよう、交通機関におけるデータ活用が進んでいる

北海道は面積が大きいことから、バス事業者と自治体コミュニティバスの団体が合わせて85団体と非常に数が多いが、どの団体も協力的で、2020年度の時点で9割以上の団体から協力を得て、オール北海道で取り組めているという。基本的な実施事項は、各団体が保有するデータをGTFSという標準フォーマットに変換し、Google Mapへの掲載を申請することだ。

オープンデータとして集まった情報は、「北海道オープンデータプラットフォーム」にデータを配置し、国内外のコンテンツプロバイダによる活用を促す。日本で最もインパクトが大きい交通ナビゲーションアプリは「Google Map」だが、ほかにも中国系の「百度」、世界規模で利用される「Moovit」などに情報をアップしている自治体もある。北海道を訪れる世界中の観光客に交通の不安を感じさせない公共交通になっている。

同社が特に力を入れて取り組むのは、データの可視化だ。総務省による2020年度の通信動向調査によると、2017年度の同調査と比べて、全世代でインターネットによる情報検索をする人の割合が増えており、特に80歳以上の高齢層での活用は約3倍の増加と、全世代の利用率は上がっていることがわかる。「裏を返すと、現代ではオンライン上のマップサービスや交通ナビゲーションアプリに掲載されていないのは、本当は公共交通があっても、検索サービスのデータ上では無いことになってしまう。『見えない交通は存在しない交通』であり、まずネットで表示されるようにして活用してもらうことが重要です」と髙野氏は語る。

バスの情報を簡単に取得できるようにするためのアプローチは様々だ。同社が2016年から北海道のある自治体のコミュニティバスで取り組んだ事例では、時刻表のデータ化とデータ整備、検索サービスの導入、バスの位置情報を可視化する同社の「バスロケ」の導入、主要バス停留所でのデジタルサイネージの導入などがなされた。データ整備については、最初は印刷したデータや時刻表などしか情報がなく、それらをGTFSの標準フォーマットに入力しなおす工程が必要だった。この取り組みで、同自治体のバスの総利用者数は2017年の24万人に対して2019年には32万人と、3割増加の実績が出ている。自治体のコミュニティバスで利用者がこのように伸びることは異例だ。

観光×交通のDX

現情報の可視化が進み、デジタル上でデータが使えるにようになると、次はいよいよ観光と交通のDXの段階になる。既存のビジネスモデルを変革し、新たな利益や価値を生み出すという視点を持つと、観光×交通のテーマで検討すべき内容は多岐にわたる。その1つが、観光地と公共交通の相性分析と最適化だ。ステップごとに簡単にいえば、観光客がストレスなく目的地にたどり着けるか、目的地での滞在時間と帰りの時間がマッチしているか、観光地から他の観光地への移動ができるか、そして季節やイベントなどにフィットしているかを分析・改善していく。

ステップ1はストレスなく観光地にたどり着けるか。これは空港や新幹線駅など主要なターミナルから観光地までの公共交通で、乗り継ぎがスムーズに行えるかという点だ。ステップ2は、観光地での滞在終了後の帰りの便の時間がマッチしているか。目的地での観光に適した時間が2時間程度であれば、帰りの便の時間が遅いとバスを待つ時間が増え、満足度が下がると予想される。ステップ3は、観光地から他の観光地への移動ができるか。最初の目的地の観光終了後、次の観光地に行く便の乗り換え時間を考慮することで、地域を周遊してエリアの消費額を高めることができる。

また、観光地では景観を楽しむための適正な時間帯や、イベントの時期により、滞在するタイミングが変わる。こうした状況に合わせて、公共交通の時刻だけでなく、エリアの定休日や駐車場、入場料金などに変化をつけることで、新たな利益や価値を生み出すことができる。

最後に高野氏から、MaaSと持続可能な観光の今後の展望について、先進地であるフィンランドのヘルシンキに訪れた経験が紹介された。「ヘルシンキの公共交通には、MaaSの意義と成功のポイントが詰まっています。地元の事業者と意義について対話すると、MaaSは人々が環境負荷を抑え公共交通を効率よく活用するための仕組みだという、環境配慮の意義がしっかりと地域に根付いていることがわかります。また、ヘルシンキの交通は『HSL(ヘルシンキ地域交通局)』がほぼ単独で運営しており、運営事業者間の合意形成やユーザーインターフェースなどで問題が起きにくく、データがきちんと整備されていることからエリアや運賃が決定しやすい環境にあります。日本でもMaaSや持続可能な観光は始まったばかりですが、交通から観光を活性化することに、弊社の技術が役立てられればと思います」。

 

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