農業と地域交通をテーマに設定 小諸市におけるプロジェクト研究

事業構想大学院大学とカクイチ、小諸市は、地域課題解決を目指した事業構想プロジェクト研究を実施した。農業振興とMaaSという研究テーマに、様々なバックグラウンドを持つ研究員が市内外から参加した。担当教員の視点から、小諸市での取組の内容と成果を振り返る。

小諸市の地形上、中山間地の小規模農家が多いため、後継者不足などの課題も多い

事業構想プロジェクト研究の概要

今回の研究では、構想の目的となるテーマとして、小諸市の地域課題であり、カクイチの事業とも関係の深い「農業振興事業」と「MaaS事業(地域交通事業)」の2つを、関係者の協議のもと設定した。

そして、市内外の官民様々な主体から参加した研究員を、「農業チーム」と「MaaSチーム」の2つに分け、チーム毎に1つずつ、研究員が協力し合いながら事業構想を進めた。

具体的なカリキュラムは、事業構想大学院大学の事業構想サイクルを基本とし、(1)各テーマに対する各研究員の気づき・問題意識の共有と情報収集(2)事業で目指すべき理想と実現したいビジョンの設定(3)解決すべき課題や顧客等の探索(4)事業アイデアの創造(5)フレームワークでのバリュープロポジションやビジネスモデルの検討(6)事業構想計画書の作成(7)小諸市長やカクイチ社長への最終発表、とした。

以上の構成で、基本知識習得・事例把握のための座学及び共同ワーク・討議で構成される講義部分と各研究員のホームワーク・フィールドリサーチ部分を組み合わせて進めた。

各チームの事業構想

(1)農業チーム

このチームのテーマは、様々な制約条件を抱える農業の事業構想という性質もあり、当初はなかなか進捗しない状況だった。しかし、フィールドリサーチと研究員間での討議、教員指導などを繰り返す中で、広く共感を持てる顧客課題への気づきが生まれた。その顧客を助けるために何ができるか、という視点から事業コンセプト等や内容の具体化が一気に進んだ。これらが、今回の研究の大きな収穫であったと考える。

結果として、マーケティングから生産、流通を一貫した農業の共創プラットフォーム構築による、特定の顧客ニーズに対応する高付加価値農産物づくりの構想が生まれた。そして、その成果を次世代の新規就農者の育成につなげ、小諸市の魅力を農で盛り上げることを目指す。

このような、ビジネスの基本に忠実かつ地域課題の解決に資する、公民共創型の事業構想計画を創り上げた。

(2)MaaSチーム

MaaSや地域交通に関する事業構想は、とかく交通そのモノのICT化による利便性向上などの狭い視点に陥りがちであり、同チームも当初はその傾向があった。

しかし、農業チーム同様に、地域交通に直接・間接に関係する顧客や関係者へのフィールドリサーチや研究員の討議を重ねたことで、単なる移動手段としての交通に留まらない、より人間中心な、ヒト・コトをつなぎ・運ぶモノとしての地域交通の役割に気づく。

それをきっかけに、小諸市に住む・訪れる人々や様々な地域資源をつなげる、一回り大きな視点の地域交通システム構築に関する事業構想計画を創り出すことができた。

両チームの現段階での構想計画は、実行に向けた課題がまだ山積し、これから多くの穴やハードルも見つかるであろう。しかし、新事業構想に最も大切なのは、高い理想を掲げ、ワクワクするような未来ビジョンを創り、その実現のために何ができるかを徹底的に考え抜くことである【図1】。

図1 プロジェクト研究で計画を検討


今回のプロジェクト研究で、各チームの研究員が発表した事業構想計画書

その点では、両チームともに、将来の期待につながる素晴らしい構想計画を創ることができたと考えている。

公民共創の視点から

地域内外の多様な産官学のメンバーが経験の共有を行い、新たな価値創出の可能性を生み出すことができた今回の研究は、まさに良好な公民共創が行われていたものと考えられる。

公民共創事業を創るには、共通の目的のもとに必要資源(ヒト・モノ・カネ・情報など)が集まり、それが適正な手続・過程のもとで、対話の場・機会を通じ、共感を持ってつながることが必要である【図2】。

図2  公民共創事業のP-PREPPモデル(ver2.0)

小諸市での研究は、農業振興、MaaSという、明確な地域課題を目的にできた。様々な情報・ノウハウ・資源を持つ産官学の多様なプレイヤーも集まった。必要資金を企業版ふるさと納税で確保できるというチャンスにも恵まれた。それらが産官学3者(小諸市・カクイチ・本学)の連携協定に基づく適正な関係性のもと、プロジェクト研究という具体的な対話と共感の場によって繋がれた事例であり、まさに公民共創の教科書的な取組であったと評価したい。

今後の展望

小諸市での研究については、2022年度以降も、より多く方々や企業の参画も見据えながら着実に進めていき、具体的な地域課題解決に繋げたいと考えている。

なお、今回の研究のような取組について、既に多くの自治体や企業から期待や要望が本学に寄せられている。今後も、本研究の経験を活かし、他地域での展開も図っていきたい。

より長期的な展望としては、本研究や他地域展開で得た知見やネットワークを活かし、事業構想大学院大学がつなぎ役・プラットフォームとなった、全国の自治体と様々な企業との産・官・学による共創の場を全国に展開していきたいと考えている。例えば、かつての「一村一品運動」の考え方を現代的に発展させ、様々な自治体と地域を応援する企業、地域創生の一翼を担うことを目指す本学がパートナーとなり、知の実践研究により、地域の独自性を踏まえた事業創出や人材育成に取り組む「一村一社一学運動」のようなイメージの取組を展開したいと考えている。

もし、このような取組に関心・意欲のある地方自治体は企業があれば、是非本学にご相談いただきたい。

 

河村 昌美(かわむら・まさみ)
事業構想大学院大学 事業構想研究所 教授