機械メーカーから「顧客の経営パートナー」へ 日工 中山新社長が描く事業変革の全貌
国内アスファルト合材供給の約8割を支える日工が、創業106年目にして大きな転換点を迎えている。2025年4月に社長に就任した中山知巳氏が掲げるのは、「メーカーから顧客の経営パートナーへ」という事業モデルの根本的な変革だ。建設業界が深刻な人手不足に直面する中、同社は協力会社も含めたエコシステム全体で競争優位の構築を目指す。2030年ビジョン実現への道筋と、その核となる人材戦略について、中山知巳氏に話を聞いた。

機械メーカーから経営パートナーへ
――新中期経営計画で掲げる2030年ビジョンについてお聞かせください。
「私たちが目指しているのは、機械を納入し、故障個所をメンテナンスするだけのメーカーから、お客様の資産であるプラントや建設機械の管理や運用まで含めて担う企業への転換です」と中山氏は語る。
1919年創業の日工は、アスファルトプラントで国内トップシェア、バッチャープラントでも高いシェアを誇る。この強固な基盤を活かし、さらなる価値創造を目指している。
「長年の事業活動を通じて蓄積してきたお客様の資産情報は、日工が保有する唯一無二の強みです。これらの情報を活用することで、予防保全など先回りした提案ができるようになります。お客様にとって最適なプラント運用を実現することこそが、私たちがお客様に提供できる真の価値であると考えています」。
2030年ビジョンでは売上高700億円、営業利益率10%の実現を目指す。これは規模拡大だけでなく、提供価値の質的向上を通じた成長戦略だ。

そして、2030年ビジョンの実現に向けて、2025-2027年度新中計を「力強いビジネス拡大フェーズ」と位置付けた。前期から続く過去最高決算の連続更新、投資回収と収益力の向上、さらには目指す事業ポートフォリオの構築を実現する三ヵ年とする計画だ。
変革への決意
――建設業界を取り巻く環境変化をどう捉えていますか。
「建設業界の人手不足は深刻な課題です。この現実に向き合い、私たちは事業モデルの転換で解決策を模索しています」と中山氏は語る。
国土交通省のデータによると、建設業就業者数は1997年のピーク時685万人から2024年には481万人へと約30%減少している。一方で、建設投資額は2022年に約67兆円と回復基調にあり、需要と供給のギャップが拡大している。
――「事業モデルの転換」について、社内の反応はどのようなものですか。
「年次の高い社員ほど、15年後、20年後の市場を見据えて、新しい付加価値創造の必要性を感じています。現場は日々の業務で多忙ですが、だからこそ今、一歩でも半歩でも前進することが重要。トライすることで初めて、新しい道が見えてきます」。
中山氏は、社内の理解を得ながら着実に前進する必要性を説いている。「総論賛成、各論では現状のリソースが厳しいという声もありますが、まずは小さな一歩からでも始めることが大切だと考えています」。
人材こそが競争力の源泉
――新中期経営計画で最も重視している点は何でしょうか。
「人材への投資と育成が、私たちの成長戦略の核心です」と中山氏は強調する。
働き方改革による労働時間の適正化を進めながら、事業モデルを転換させるには、人材の質的向上が不可欠だ。
「特に重視しているのは、チャレンジ精神の醸成です。特別な人だけでなく、『普通の人がチャレンジできる環境』を作りたい。成功事例を共有し、『自分にもできる』という自信を持ってもらう。そういう好循環を生み出していきます」。
部門間ローテーションも戦略的に推進する。「設計部門の社員が営業現場やお客様に接することで、真の顧客ニーズを理解できる。技術者が顧客視点を持つことで、より価値の高い製品開発が可能になります」。
協力会社と築く新たなエコシステム
――協力会社との関係構築についてお聞かせください。
「協力会社の皆様は、私たちの重要なパートナーです。共に成長していく新しい関係を構築していきます」と中山氏は力を込める。
全国に広がる協力会社と共に、持続可能な事業基盤を構築することが同社の戦略だ。
「例えば、10人規模の協力会社が20人規模に成長できるよう、技術継承や安全教育の体制を整備し、若い人材が安心して働ける環境を作りたいと考えています。事務作業の代行や資格取得支援など、協力会社が本業に集中できる仕組みも提供していきます」。
この戦略の先には、明確なビジョンがある。
「2030年に向けて、人材ネットワークこそが私たちの最大の競争優位になる。お客様にとって、日工グループが不可欠な存在になることを目指します」。
セグメント別成長戦略
――具体的な事業戦略について教えてください。
AP(アスファルトプラント)事業では、営業利益率を現在の5.0%から2027年度には10%へ向上させる意欲的な目標を掲げる。省エネ補助金を活用したプラント更新の促進、高付加価値製品の拡大により実現を目指す。
「海外展開も本格化させます。戦略的な人材投入により、現地ニーズに応じたローカライズと生産体制の構築を進めます。特にASEAN市場では、日工の強みであるリサイクル技術を軸に事業拡大を図ります」。
BP(バッチャープラント)事業は既に営業利益率12%超の高収益を維持。環境及び搬送関連事業も営業利益率26%という高い収益性を誇る。
さらに、破砕機関連事業では2027年度に売上高43億円(2024年度比約2倍)を目指す。M&Aで獲得した製造請負関連事業も売上高42億円を計画。防水板・水門、仮設機材などのその他事業は、2027年度に売上高97億円まで拡大する意欲的な目標を掲げている。
「それぞれの事業でシナジーを追求し、グループ全体での価値創造を加速させます」と中山氏は語る。
品質と信頼で築く未来
――経営者として大切にしている理念をお聞かせください。
「私たちはアスファルトプラント分野のリーディングカンパニーとして、常に業界をリードする責任があります」と中山氏は語る。
その責任とは、イノベーションと品質の両立だ。
「新しい技術や製品を提供しながら、同時に基本性能の高さを追求する。『やっぱり日工の製品は素晴らしい』と評価いただける、そんな製品づくりを目指しています」。
品質向上への取り組みは全社的な文化として根付かせたいという。
「品質を高めることで、お客様から適正な対価をいただける。この好循環が、持続的な成長の基盤になります」。
社員との対話も重視している。
「スモールミーティングというかたちで社員と直接対話できる機会を設けています。一人ひとりのアイディアや思いから生まれた点を線にして、ともに未来に繋げていければと思っています」。
日工が目指すのは、既存事業の延長線上にある成長ではない。プラント事業そのものを進化させ、メーカーから経営パートナーへと自らを再定義する挑戦である。中山氏が描く2030年への道筋は、100年企業の新たな挑戦の始まりだ。

- 中山 知巳(なかやま・ともみ)氏
- 日工株式会社 代表取締役社長