『にぎやかな過疎をつくる』  過疎でも活気ある地域を増やすには

書名にある「にぎやかな過疎」とは、「過疎地域にもかかわらず、にぎやか」という一見矛盾した印象のある農山漁村のことだ。

農政学・農村政策論、地域ガバナンス論を専門とする著者は、フィールドワークで各地を歩くと、人口減少が進んでいるにもかかわらず、地域の人々や移住者がワイワイガヤガヤと暮らしている状況にしばしば遭遇するという。

全国に点在するそうしたにぎやかな過疎地から学び、理論的な裏付けとともに、地域の内実やそれを支える政策を展望することを目指して書かれたのが本書である。

「にぎやかな過疎」の具体例を見てみよう。徳島県南部の海部郡に位置する美波町は、小規模な漁業と農業を主要産業とする農山漁村だ。人口は2000年の9662人から5760人(2024年8月31日現在)と減少が続き、高齢化率は45%を超える。

だが、アカウミガメ産卵地の大浜海岸や、四国八十八霊場の1つである薬王寺などの観光資源を活かした観光PR、移住相談に応じる民間コーディネーターの活躍、さらにIT企業によるサテライトオフィスの開設もあり、2010年代中頃以降、移住者が増加しており、それとともに町に活気が生まれている。

サテライトオフィスで働く人の子どもの多拠点就学を可能とするデュアルスクール制度を日本で初めて導入するなど、先駆的な取り組みを進め、町が目指す「内外から人が集い、開業や起業が相次ぐにぎやかな町」が実現されつつあるという。

ほかにも、移住者の絶え間ない流入から「ベビーブーム」さえ生まれている高知県土佐郡大川村、「半農半X」というライフスタイルが提唱された京都府綾部市、50年近くも前に設立された地域運営組織が重要な役割を果たしてきた山形県西置賜郡小国町など、興味深い地域が紹介されている。

こうした事例に見られるように、移住者や関係人口といった地域外に由来する人々だけではなく、地域住民を含む多様な主体のかかわり合いにより、つくり上げられているのが「にぎやかな過疎」だと、著者はその本質を分析する。

明るい希望が感じられる一方、「にぎやかな過疎」の成功事例はまだ少数だ。しかも、同じ市町村内でも集落や地区間での差異が顕在化している例も多く、「むら・むら格差」が生じているのだという。現行の過疎法や離島振興法などが対象とするのは、都市部と比較した農山漁村の不利性にとどまり、それだけでは不十分なのだと指摘する。

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