デジタルとアナログを融合し住民支援 上士幌町×NTT東日本

北海道の上士幌町は、WEBサイトやSNSの活用で多額のふるさと納税の寄附を集めたり、最近では自動運転バスや山岳救助にドローンを活用するなど、先進的なICT活用に取り組んでいる。NTT東日本を交えて行われた公開ディスカッションの模様をレポートする。

人と物の交流促進で
過疎から人口増の町へ

上士幌町は、日本最大の国立公園・大雪山国立公園の山麓に位置する林業と酪農が盛んな町だ。ぬかびら源泉郷や日本最大の公共育成牧場・ナイタイ高原牧場などの観光資源も豊富で、ふるさと納税との相乗効果により年々知名度を高めている。

前半の竹中貢上士幌町長への公開インタビューは、ICTを活用したまちづくりの質問から始まった。

全国で平成の大合併が進められた2004年、上士幌町は自立の道を選択し、さまざまな施策を実施。なかでも、大きな効果を上げたのが2007年から始めた移住定住だ。「都市との交流人口を増やし、移住定住につなげることで、15年後の人口目標4,170人を達成できると考えたのです。移住検討者へのお試し暮らしや子育て支援、教育の充実などにより、2020年9月には人口4,986人と目標を大きく上回りました」と竹中町長は語る。

竹中 貢 上士幌町 町長

また、ふるさと納税の返礼品情報をホームページやSNSでいち早く発信することで、人だけでなく物が交流する基盤も構築した。「地方の弱点は都市との距離にありますが、都市と地方をつなぐツールこそがICTです。我々が生き延びるには、町の資源である食料とエネルギーをベースに、ICTの活用で新たなイノベーションを起こす必要があります。そこで、2020年4月にICT推進室を設置し、ICTによるまちづくりを急ピッチで進めています」

たとえば、町にある乗り物を利用して、高齢者や旅行者が安心して移動できる交通体系(MaaS)の実証実験を行った。高齢者にタブレット端末を無料配付し、端末から福祉バスを予約するシステムの実証実験も行い、実装に向けて検討を進めている。この実証実験では、日常の足が確保できた上、事前に予約を把握して車両を有効活用できることが確認できた。さらに、要支援認定者の一部にタブレット端末を配付し、地域包括支援センタースタッフとつなげてビデオ通話で遠隔での状態確認を行ったり、山岳救助にドローンを活用するなどの先進的な取り組みも進めている。ICT推進室では、2020年度から内閣府のデジタル専門人材派遣制度を活用して、NTT東日本から派遣された職員が活躍している。

関係人口の創出に向けては、2020年7月に開設したシェアオフィス「かみしほろシェアOFFICE」を拠点に、企業の地方移転の入り口としてのサテライトオフィス、テレワークやワーケーションの利用促進、利用者の相互交流によるビジネス創出などに取り組む。すでにシェアオフィスは8社と年間契約済みだ。地元生産者と都会の事業者のマッチングイベントにはオンラインで51名が参加し、具体的な商談も始まっているという。

竹中町長は「まちづくりは与えられた条件のなかでやっていかなければなりません。花粉のない地域特性を生かして全国初の『スギ花粉疎開ツアー』を実施したり、家畜ふん尿を貴重なエネルギー資源として活用するなど、弱点を逆手に取った数々の施策が奏功し、移住・定住志向者を惹きつけることにつながったものと考えています。今後もあるものを生かし、ICTを活用して持続可能な町へと成長を続けていきます」と語った。

上士幌町の課題を解決する
3つのICTソリューション

続いて、田中利治NTT東日本北海道東支店長より、上士幌町の課題を解決するICTソリューションのプレゼンテーションがあった。

田中 利治 NTT東日本 北海道東支店長

「当社は固定電話に始まり、インターネット、ICTなど情報通信を中心に事業を展開してきましたが、近年は地域活性化や地域産業振興にも事業領域を拡大しています」と田中支店長は述べ、3つの提案がなされた。

1つ目は、サテライトオフィスの整備・運用だ。「スペース選定から運用まで、各専門のパートナーと連携しながらトータルでご支援できます。たとえば、レンタルスペースWeb掲載No1のスペースマーケット社と連携することで、効果的な利用促進活動が可能となります」

サテライトオフィスの整備・運用

出典:NTT東日本

 

2つ目は、双方向コミュニケーションだ。NTTグループは携帯電話やWi-FiなどのIP通信を利用した双方向・マルチデバイス対応の情報配信サービス「@InfoCanal」を提供している。防災情報の一斉配信はもちろん、高齢者だけに福祉施設等の情報を限定配信するなど、柔軟な利用が可能だ。「さらにAIチャットボットを活用すれば、住民からの問い合わせに24時間365日自動対応でき、住民の満足度向上と自治体の負担軽減の両方を達成できます」

3つ目は、自治体のDX推進だ。「"町の将来像"の実現に向けて、自治体職員の業務は増えています。真に職員がなすべき仕事に集中するために、DXによって業務効率化を実施しながら分担を見直すなどの取り組みが必要です」と田中支店長は述べ、ふるさと納税集計や保健福祉関連のデータ集計などの定型業務をRPAで効率化することを提案した。

デジタルとアナログの融合で
町民の暮らしを支援

ディスカッションでは、竹中町長と田中支店長の間で、ICT活用やDX推進について活発な議論が行われた。

住民との双方向コミュニケーションについては、上士幌町でも都会と同じく地域コミュニティが希薄化し、住民への広報では「自治体の情報をどう伝え、住民の情報をどう得るか」が課題になっているという。さらに、情報媒体が紙からネットにシフトし、主に高齢者の情報過疎も進んでいる。

竹中町長は「ITが苦手な高齢者などがタブレット端末を使いこなせるようになれば、全世代に適切な情報を発信できます。ただし、そこにたどり着くにはアナログ、つまり人の介在が必要で、IT操作などを丁寧に教えていかなければなりません。必要に応じてデジタルとアナログを使い分けながら広報活動に取り組みたいと思います」と語る。

田中支店長は「上士幌町の強みは、タブレット端末をただ配付するだけでなく、役場職員や社会福祉に携わる方々が、町民を丁寧にフォローしていること。ここに双方向のコミュニケーションシステムを導入すれば、よりきめ細やかな住民サービスが実現すると思いますし、ICTでそのお手伝いをしていきたい」と語った。

最後に田中支店長は「上士幌町の困りごとは、他の地域の困りごとでもあります。上士幌町のソリューションを横展開し、地域活性化と産業振興の貢献につなげていけたら」と展望を語り、会議を締め括った。

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