世界的企業を生み出す種まきの年 ニーズを考え制約をチャンスに
国内は少子高齢化・人口減が成長の制約となり、地球全体を見渡せば気候変動で災害が頻発している。経産省では、菅首相が指摘した成長の源泉、「グリーン」と「デジタル」で企業を活性化し、短期間では解決できないこれらの課題を前提に、時代にマッチした事業を育てていく考えだ。
2021年も、日本社会が抱える課題は深刻だ。新型コロナウイルス感染症の流行拡大前からの問題だった少子高齢化による人口減少は止まらず、地方では過疎化が進む。世界に目を向ければ、産業革命以降の化石燃料消費が引き金になった気候変動はいよいよ苛烈になり、各地で大災害を引き起こしている。
社会が必要とするモノを考える
経済産業事務次官を務める安藤久佳氏は、これらの問題を直視し、対応策を生み出すことに社会の未来とビジネスチャンスがあると考えている。
「例えば、人口減少、高齢化、過疎化は、日本の成長にとって制約条件です。この状況下で需要が増えるのは何か、また真のニーズはどこにあるのかを検討しなければいけません」。
課題の解決策をビジネスにつなげ、自社の成長を目指す企業だけでなく、経済産業省のような官公庁でも、このような視点が必要だと安藤氏は指摘する。「役所の仕事というのは、良質な政策を提供するサービス業と考えています。サービスの質を上げるために、社会課題をどう定義するかは大切です。解決策を考えるためには、課題設定がしっかりしなければいけないからです」という。
例の1つとして挙げるのが、「次世代モビリティ」だ。この言葉から多くの人が連想するのは、完全自動運転する、クリーンエネルギーを使った未来の車かもしれない。だが、過疎化に苦しむ地方で、住民の移動手段の確保という課題をより直截に解決するのは、完全自動運転車よりはローテクな「少し高度な巡回バス」である可能性が高い。また、高齢者が事故を起こさないような各種の機能を付けたサポカー開発も、高齢者のための移動手段という観点からは重要だ。
過去には、政府が描く未来の目標や、そのための実行戦略は、足元の社会課題とは距離があるケースがあった。だが政府の姿勢は、よりニーズにあった課題設定へとシフトしている。2020年7月に閣議決定された「成長戦略実行計画」では、高齢者の移動手段確保と交通安全の両立を目指したサポカー普及促進策が入っている。
「以前だったらサポカーが成長戦略に入ることはまずなかったと思います。しかし、高齢者の移動手段の確保は解決すべき社会課題であり、需要も大きい。このようなところに成長のきっかけがあると思います」。
少子高齢化が進む国は日本だけではないため、高齢者の社会参加の促進と、それに付随して生じる医療・介護コスト削減には国際的なニーズがある。高齢化に対応でき、高品質な製品やサービスは、韓国・台湾・中国などにも販売できる。高齢者向け靴下や成人用おむつなど、日本のマーケットで鍛えた製品・サービスが、東アジア諸国で成功する事例は出始めているという。「制約と思われているところに挑戦していく。かつ、人があまり口には出さないが、本当は求めているところが狙い目ではないでしょうか」。
脱炭素を前提に考える新ビジネス
また、気候変動を抑止するためのグローバルな脱炭素化の取組も、国内における少子高齢化と同様の性質がある課題だと安藤氏はいう。二酸化炭素の排出抑制には手間とコストがかかるため、普通は成長を制約するものと捉えられているが、よく考えればビジネスチャンスが潜んでいる。EU諸国はいち早くここに目を付け、気候変動対策を実装した商品やサービスを開発する企業を支援し、産業化に注力してきた。一方の日本は、世界一の省エネ国家であることを誇ってきたが、環境分野の新産業を創出する面では後れを取っている。
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