家業の「プランター」を再定義 誰もが楽しく野菜を育てる世界に
祖父が発明したプランターの価値は、単なる野菜栽培のツールではなく、誰もがアグリカルチャーに触れられる機会をつくったこと――。プランティオの芹澤孝悦CEOはAI・IoTで野菜づくりを変え、「食の民主化」を目指す。
シリアルアントレプレナーの孫泰蔵氏が共同創業者として名を連ねるスタートアップ、プランティオ。同社は「みんなでたのしく野菜を育てる世界へ」をビジョンに掲げ、シェア型のIoTコミュニティファームや、野菜を育てる人をつなぐアプリやウェブサイトを展開するほか、今夏には野菜の育成状況などをAIで管理できるIoTプランターやセンサー内臓デバイスをリリースする。
かつて1949年にプランターを発明したのは、もう一人の共同創業者である芹澤孝悦CEOの祖父だった。そして、芹澤CEOの実家が営むセロン工業は日本で初めて「プランター」という和製英語を発案し、製品を開発して世に広めた企業だ。
芹澤CEOにとって、「みんなでたのしく野菜を育てる世界」を目指すことは、プランターの価値を再定義し、未来へとアップデートすることを意味している。
祖父の手記に書かれていた言葉
芹澤CEOは大学卒業後、ITベンチャーに勤めていたが、2代目である父が倒れたのを機に2008年、家業であるセロン工業に入社した。セロン工業は園芸資材・花材用品を手掛けているが、右肩下がりの業界であり、華々しいIT業界から転身した芹澤CEOは行き詰まりも感じていた。そうした時、地下に眠っていた祖父の手記に出会った。祖父は、プランターのことを「いのちのゆりかご」と表現していた。
「プランターは10対1の割合で土と水が入りますが、これは実際の地層と水脈の割合とほぼ同じ。また、土に水と空気をきちんと循環させる仕組みを備えていて、祖父は、いわば自然環境を人為的に小さく再現したんです。戦後4年目の時代に、祖父は単にモノをつくるのではなく、『いのちのゆりかご』という視座を持ってプランターを開発していた。雷に打たれた気がして、自分もプランターにテクノロジーを掛け算して、何か新しいことができないかと考えました」
プランターの新ビジネスに挑戦するにあたり、既存業界の枠内いたら限界があると考えた芹澤CEOは2015年6月、自らの資金でプランティオを設立した。現在ではセロン工業の役職を辞し、プランティオの事業に集中している。
ツールではなく
カルチャーをつくる
起業した当初、芹澤CEOはプランター自体をいかに新しくするかで頭が一杯だった。そこから発想を転換したのは、孫泰蔵氏からの厳しい言葉がきっかけだった。泰蔵氏は「おじいさんの発明の本質は、凄いプランターを開発したことではなく、誰もがアグリカルチャーに触れられる機会をつくったこと」と指摘。その言葉に目を開かされた芹澤CEOは、それまでの事業計画を白紙にした。
そして、プランターというツールではなく、「みんなでたのしく野菜を育てる」というカルチャーをつくることへと事業をシフトした。2017年末頃には、現在につながる事業の方向性が固まっていった。
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