2020年2月号

非連続的な発想の思考力

イノベーション人材に求められる素養 創造的思考の起点に迫る

田浦 俊春(事業構想大学院大学 教授)

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イノベーションでは、現状の事業の延長線上にないアイデアを考え出すことが求められる。では、現状の事業の延長線上にないアイデアとは、どのようなもので、そのためにはどのような素養が求められるのだろうか。本稿では、この根本的な疑問について改めて問い直す。

イノベーション人材に求められる
仮説思考と非分析的思考

我々は、新事業の提案があると、ごく普通に次の質問をするだろう。「その新事業が妥当である(成功するであろう)ことを裏付ける客観的な根拠(エビデンス)を市場動向等のデータで示して下さい」

誰もこの質問自体が間違っているとは思わない。ところが、このような質問をする姿勢自体に、イノベーション思考を阻害する致命的な問題が隠されているのである。なぜならば、客観的な根拠を基に議論するということは、その思考が3段論法的な演繹的なものであることになるが、演繹的な思考からは、本質的に新しいことは生まれないことが分かっているからである。そもそも、市場動向等のデータは、過去ないし現在に関するものである。それをいくら分析しても、現状からの延長線上に未来を推測するだけで、延長線上にないものは出てこない。つまり、根拠とデータを重んじる演繹的で分析的な思考からは、従来の延長線上にない事業は生まれないのである。

では、従来の延長線上にない事業を導く思考とは何だろうか。それは、いわゆる「仮説思考」ということができよう。ここで、仮説とは、やってみなければ事前にその妥当性がわからないようなものごとをいう。つまり、現状の延長線上にない事業とは、やってみないと分からないのであるから、やる前から、その妥当性を議論することは、まさに、その芽を自ら潰すようなことをしているということである。では、その仮説は、どのようにして導かれるかというと、上述のようにデータ分析からは出てこない。非分析的な思考が求められるのである。では、非分析的な思考とは何だろうか。英語では、アナリシス(分析)の対義語として、「シンセシス(筆者らは、邦訳として「構成的」という用語を用いている)という用語がある。語源は、楽器のシンセサイザーと同じである。その代表的な方法は、複数のものごとを組み合わせることである。既存のものごとでも、それをいくつか組み合わせることで、従来の延長線上にない事業を考え出すことができる。例えば、◯というカタチと、□というカタチを組み合わせてみよう(図参照)。単なる平面的な合成図形に加え、見る角度により◯に見えたり□に見える円柱や、さらに△にも見える立体を考えつく。このように考えていくことは、◯ないし□の延長線上から徐々に遠ざかる方向に新たにカタチをつくり出す思考といえないだろうか。実際の事業においては、「あんパン」をあげることができる。あんパンは、明治の初期に日本でパンを普及させるために考え出されたが、その結果、欧米でのパンの食べ方の延長線上にはない、おやつにパンを食べるという菓子パンの文化を新たに創り出したのである。

図 非分析的(シンセシス的)な思考の基本プロセス

 

生産性の向上だけでは
イノベーションは起こらない

なぜ、日本企業、特に大企業からイノベーションが生まれにくいといわれるのだろうか。それは、効率性の追求による生産性の向上や、顕在化している社会課題の解決を目的とした事業に偏りすぎているからである。そのため、企業活動自体が、明示的な課題を解決するための分析的な思考に陥っており、自らの目的(仮説)をその内部からつくれなくなっているといえよう。昭和の時代は、欧米に追いつき追い越し、国民の生活をより便利にするという明確な目標があり、それに向けて日本は急成長した。しかし、バブルが弾け、平成の時代になっても、その成功体験から抜け出せず、いまだに、生産性の向上が経済活性化の重要な課題になっているのである。なお、生産性の向上が悪いといっているのではない。そこからは本質的なイノベーションは起こりにくいということである。

誰もがもっている「個性」が
イノベーション思考の起点

では、どうしたら良いのだろうか。まず、埋もれているイノベーターに目覚めてもらうことである。そのためには、イノベーション思考を身につける必要がある。しかし、「仮説思考」や「シンセシス的思考」を実践するには、それらの方法を表面的になぞるだけではダメであり、それらに意味や価値を与える感性が求められる。とはいえ、芸術家のような特別に高度な才能は必要ない。誰もが持っているはずの「個性」、いい換えると「その人らしさ」が重要な役割を果たすと考えている。周りを見渡してみても、創業者には個性的な人が多いことが分かる。そして、その個性が会社の特徴を醸し出し差別化に繋がっているといえよう。しかし、現在は、あまりに多くの情報が飛び交っており、また、多忙な業務の中で、自分らしさを見失っている人がほとんどなのである。

かたや、会社の中に、イノベーション思考を育む風土を醸成する必要がある。互いに刺激し合う環境が重要である。そして、事業構想案を判断する側にも、センスの良い感性が求められる。また、納得するのではなく「共感」する姿勢が必要である。創造的思考は、報酬だけでは活性化しないといわれている。「共感し応援する姿勢」こそが、イノベーションを連鎖的に生む雰囲気をつくるといえよう。

上述の考え方のもとに筆者がファシリテートしたプロジェクト研究(期間1年間)の結果を整理してみると、約3分の2の構想は、開始後半年以降に発案されたものであった。このことは、仮説思考やシンセシス的思考に慣れ、自分らしさを取り戻しイノベーターの素養を修得するのに、半年はかかるということを示している。逆にいうと、1年かければ、誰でもイノベーション人材になれる可能性があるといえよう。

 

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