けいはんな学研都市 住民も参加するオープンイノベーション

いま産業社会で求められるオープンイノベーションとは何か。産業構造と技術開発の激変で、シーズを適切に事業化するハブの重要性が高まっている。関西3県にまたがって産学官をつなげてきた学術研究都市、30年の蓄積と将来の展望とは。

丸野 進(関西文化学術研究都市推進機構 RDMM支援センター長)

経済構造が激変と
R&Dの急激な加速

なぜ現在、産業社会でイノベーションが求められるのか。その背景には、世界経済の大きな構造変化がある、と丸野氏は説く。

「総じて1990年代を境に研究開発費(R&D)の投入増加がGDPの増加に結び付かなくなり、日本の産業競争力は低下しました。また日本の研究者(技術者)総数でも世界の趨勢に負けている。さらには国際競争の構図が米欧主軸への対抗から全世界グローバル競争へとシフトしました。また経済の構図も、大量につくってコストを低減し販売する『規模の経済』から、短時間で新産業の他社の先を行き、新しい製品・サービスを生み出す『時間の経済』へと変化しました」

とりわけデジタル化の進展がもたらす影響は大きい。「『モノ』の価格が急激に低下するとともに、商品寿命が短くなり、時間軸のグローバル競争がさらに激化する結果となりました。このような経済構造の下では、商品に付加価値を生む源泉が、製造からマーケティングとR&Dにシフトしつつあります」

関西の研究開発をリード
ユニークな学術研究都市

このような経済構造の下でユニークな研究開発をリードするのが、丸野氏が拠点を置くけいはんな学術研究都市(学研都市)だ。京都・大阪・奈良にまたがる自然豊かな京阪奈丘陵、3府県境、8市町に跨るエリアに位置する。

1987年の「関西文化学術研究都市建設促進法」制定以来、整備が進み、KRI・NICT・国会図書館・産総研などの研究機関が集積する。現在は人口25万人で、2040年まで人口が伸び続けると想定される、日本では数少ない地域の1つだ。

「けいはんな学研都市は、国から3つの特区に指定されています。小泉純一郎内閣時代からの『構造改革特区』、民主党政権時代に制定された『国際戦略総合特区』、そして安倍政権になってから制定された『国家戦略特区』です。先に触れたとおり、民間企業を中心とした立地施設の増加のみならず住民も増えていますので、国立系の研究所(国研)を中心に関連企業が隣接する筑波と異なり、産官学住並立の都市化が進んでいます。こうした実社会との接点もあり、基礎研究から商品化・事業化まで一貫して行うことを掲げています」

けいはんな学研都市には、京都大学・奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)・同志社大学(工学部・京田辺)など、日本をリードする学術研究機関・企業の研究所が多数集積している。「都市構想以来30年が経過し、これまでに情報通信・環境・ロボットをはじめ多様な分野で研究成果を挙げつつあります。また車の公道走行実証実験やドローン飛行実証実験など、科学技術を生かした新たなライフスタイル創出の取組が進んできました。海外サイエンスパークとの交流も進展しています」

RDMM(Research and Development for Monozukuri through Marketing)支援センターは、こうした「けいはんな」の立地特性を活かし、研究開発から事業化までワンストップで実現すべく設置され、けいはんなR&Dイノベーションコンソーシアムを形成している。「コンソーシアムでは『多産多死』で、まず数多くの構想を生み、最終的に残ったアイデアを事業化する方針で運営しています」。また、生活者の困りごとやクリエイティブな住民の意見を新事業創出に反映するための住民サポータ組織「Clubけいはんな」を設立。「広く全国から2500名を超える皆様が会員として参画されています。コンソーシアムの各種事業創造ワーキンググループでは、デザイン思考を活用し、『Clubけいはんな』の皆様に参画を仰いだ住民コラボワークショップを開催、真の課題の明確化とその解決に向けた事業創造に取り組んでいます」

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