こだわりの郷土料理を後世に残す レトルト食品の新事業

昔、晴れの日にみんなで食べた郷土料理。その存在が危ぶまれようとしている。「後世に残さなければ!」と、現代に合わせてレトルト食品の商品化に踏み切った会社がある。いち食品加工会社にとどまらず、地域と伝統を繋いでいる成美の軌跡を追った。

おばあちゃんの味「豊後緒方の鶏汁」

レトルト食品の加工会社・成美が本社を構える大分県豊後大野市は、大分県の南西部に位置し、5町2村が合併して生まれた。大野川の水脈と、県内屈指の畑作地帯のある自然豊かな場所で、昔は各家庭で鶏が飼われ、晴れの日になると卵を産まなくなった鶏を締めて、しょうゆベースの鶏(とり)汁を作って食べていた。

「鶏汁はよく祖母が作ってくれていたんです。鶏汁を通して"命をいただく食"を教わりました。時代は移り変わり、自分が子どもや孫たちへ祖母から教わったように命の大切さ伝えられるかといえば、なかなか難しい。そのうえ、鶏汁そのものを知らない人も増えてきました。もしかしたら、自分が鶏汁を知っている最後の世代になるのかもしれないと危機感を覚えたんです」と話すのは、代表取締役の岩切知美氏。

そこで、どうやったら後世に繋げられるのか。当時、仕事を持つ忙しい3人の母だった岩切氏は、常温で保存でき、家庭でも手軽に食べられるようにとレトルト食品にしたらどうかと考えた。

素人から手探りで試行錯誤の日々

アイデアを出すだけなら誰でもできるが、それを具現化させるのは至難の業。ましてや岩切氏は自身の離婚を機に、ずぶの素人からレトルト事業をスタートさせた。おばあちゃんの味「鶏汁」は比較的スムーズに商品化するまでに辿りついたものの、最初の2年半は綱渡りの状態で試行錯誤の日々だったという。

「最初は専用の高価な機械が買えないので、鶏汁を作って知り合いの会社に持ち込み、パウチしてもらっていました。販路も思うように拡がらず、百貨店やスーパーの試食販売に立っても、なかなか売れない。当時は冷蔵や冷凍のお取り寄せ商品が主流で、レトルト食品は少々ネガティブに捉える人もいました。だけど、商品には絶対的な自信があったので、なぜ売れないのか不思議でしょうがなかったのです」と当時を振り返る。

ある時、岩切氏は他社の商品を購入している人の行動を観察してみた。商品を裏返し、何かをチェックしている。思い切ってそのお客さまに聞いてみた。「何を見ていらっしゃるのですか?」。すると、原材料だという。化学調味料や添加物が入っていないかどうか、また食材の産地はどこなのかをチェックしていた。

当初から地元の食材にこだわり、食品添加物を一切使わず、素材の味を生かした商品作りをしていた岩切氏はすかさず、「買わなくてもいいので、この鶏汁を食べてみてください」と試食をお願いすると、おいしいといって購入してくださった。

「なぜうちの商品は手にもとってもらえず、素通りされるのでしょうか?その理由を教えてください」と懇願すると、パッケージのダメ出しなど消費者目線のありがたい意見をくれたそう。岩切氏はここでどんなに自信のあるいい商品を作っても、それだけではダメ。それ相応の売り方や伝え方などの戦略を練らなければならないと悟った。

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