事業構想で業界イメージ刷新 地盤改良事業を継承発展

かねてより「3K(キツい、危険、汚い)」の代表と称される建設業界。どのように若手世代を取り込み、技能を伝承し、グローバルな市場を獲得していくのか。人材育成と社内教育制度の充実で、建設業界に新風をもたらす若山氏にインタビューを行った。

若山 圭介(SOEIホールディングス 代表取締役社長)

土木業界は、ラグビーワールドカップや東京オリンピック・パラリンピックの開催を控え、高度成長期の老朽化に伴う再構築など、国内需要が再び高まっている。またアジア諸国でメガシティ化が進み、年間所得が購買力平価で3,000ドル以下の低所得(BoP)層に向けた外国ビジネスの需要も幅広い。

薬液注入工法による地盤改良工事を事業とするSOEIホールディングス(創業時は双栄基礎工業)。若山圭介氏はみずほ銀行出身で2007年に義父から事業を継ぎ、経営トップに就任した。

祖業のイメージ刷新で新風

――建設業界をめぐる課題をどう認識されていますか。

総務省統計によれば、就業者約492万人中、3割が55歳以上、11%が29歳以下、また現場で働いている女性の就業比率は5,000人、つまり約1,000人に1人と言われております。社会的ニーズが高まる一方で担い手の高齢化が著しいなか、若手の獲得と共に、中堅層に技能承継を担ってもらうことが課題と捉えています。

そもそも、新卒採用が拡大できない要因とは何でしょうか。私は、スキルのミスマッチ、求められる専門的技能の高さ、3Kをはじめとする厳しい就労環境にあると考えます。コンビニエンスストアのアルバイトなどと日給が競合するなかで、スキルのミスマッチを解消し、外見をスタイリッシュに革新できないかと考えました。既存事業に新風を吹き込む意味で、事業構想大学院大学は類を見ない学修環境でした。

また、第一の課題を解決するために「先輩方はどのように技能を習得したのか」と考えると、社内教育(職業訓練)の仕組みが整っていたからだと気づいたのです。ごく基礎的な部分だけでも講習を受けて現場に出られ、その後も先輩に就いてOJTによる指導を受ければ、土木業界を志す新卒者が集まるのではないか。

このような新卒採用と世代交代を毎年地道に進めた結果、弊社の年齢分布は、2018年現在で、55歳以上が22%、29歳以下が30%と業界比率を逆転し、平均年齢は42歳、正社員に限って言えば37歳です。創業40年を控えた企業では、世代の適正化が進んだと言えると思います。

第二の課題は幸い、大学院在学中の同期クリエイターや、御縁で知り合った服飾デザイナーらの協力を得、新しい作業服を制作しました。意外な創発も、社会人が多く通う専門職大学院のメリットだと思います。

――組織はどう変わりましたか。

まさに「新卒採用が会社を育てる」変化が起きました。ベテラン技術者は「キチンと仕事を教えないといけない」と意識が変わり、技能や知識を承継する仕組みができていきました。また世代間の年齢差が開きすぎていない年齢構成となり、お互い風通しが良く、働きやすい職場環境になってきたと思います。

こうしたなか、世代間で「スキルの交換」が行なわれ、若手にベテランが専門的スキルを教えることで、施工管理から書類管理、対顧客交渉までを一人でこなすマルチタスクな管理者人材が育ちつつあります。ベテラン技術者のように突出して職人的スキルが高いとは言えませんが、技術畑から管理者を養成するのとは異なる人材育成が確立しつつあります。また、継続的に女性を採用してきた結果、女性にとっても働きやすい建設現場を考えられるようになりました。

職業訓練校の風景。新しいデザインの作業服を着て実習に臨む

女性職員は「1,000分の1の希少人材」で、事務職と異なり技能資格を持つことになります。現場管理の経験を併せれば、AIやIoTの導入される将来でも、労働市場で重宝されます。弊社から発信し取り組めば、出産・育児を経て復職の際に、同業他社でも活躍の機会が広がります。

また、彼女たちが必ずしも現場に入り直す必要もないと考えます。例えば現場知識のある人材が経理・財務などのバックオフィス業務に入れば、仕事の流れ全体を捉えて円滑に業務を進められます。多様なキャリアパスの可能性を拓くことが重要だと思います。

建設業は汗水垂らして働く現場が尊重されます。ともに汗を流し、現場を切り抜けた仲間意識は、世代や多様性を超えた結束を高めるうえで大きいと思います。

時空を超えて 経験を伝承
SDGsにも貢献

――グローバルに事業展開されるなか、外国人技術者の採用はいかがですか。

私は外国人技術者を「日本の新卒と同等に採用し社内の人材として育成したい」という思いがあります。近年、日本語検定を受けて日本の大学に進み、技術者を志望するアジア諸国の学生が増えています。技能実習生制度は3年を年限に本国へ帰さねばならず、社内人材・本国人材の両面で定着しにくい面があります。これと「職業訓練校」を組合せ、語学や学科と共に、学生ビザの就労規定の範囲で技能を覚えてもらうことを目指しています。

もっともBoPビジネスは「戦略的CSR」と捉え技術指導を主に据えます。昨月、国際協力機構(JICA)の委託事業でバングラデシュ視察に赴きましたが、既に薬剤の現地調達・物流・人材活用が確立していました。弊社内で見れば収益率は減衰するわけですが、事業全体で見れば、技術移転が完了し現地社会に定着した証なのです。現時点のパートナーシップにこだわらず、同様のモデルを他の地域へ普及し、いずれ現地との合弁会社を設立する際には、社内の外国人材に活躍してもらいたいと考えます。

バングラデシュでの海外事業を視察

――近年は社内教育の仕組み作りに着手されています。

東京都から工法学科の短期コース認定を受け、2017年4月から職業訓練校制度を開始しました。OJT用の技能者育成短期課程では他の中小企業で類を見ません。国連で2015年に採択された「持続可能な開発目標」が目指すのは、前身のミレニアム開発目標(MDGs)以来、貧困削減や飢餓撲滅、教育水準の向上でした。これは「手に職を持てば、女性・外国人・高齢者など誰もが自ら稼得を生み、生活水準を高められる」という意味で、弊社の経営理念に相通ずる側面があると考えています。