2018年11月号

地域特集 茨城県

大井川和彦・茨城県知事が語る 埋もれた「魅力」を磨き上げる

大井川 和彦(茨城県知事)

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首都圏との近接性、全国有数の農業生産、つくば市や東海村に集積する最先端の科学技術などの強みを持つ茨城県。保守的な印象を持たれる茨城県を、わくわく感を与えるような茨城県へと変えようとしている「4つのチャレンジ」について大井川知事に話を聞いた。

大井川 和彦(茨城県知事)

――知事就任から1年が経ちますが、知事が感じる茨城県の魅力は?

茨城県の魅力は、大消費地である首都圏から30~150kmと近い、絶好のロケーションです。交通インフラも整っており、陸・海・空路を目的に合わせて使い分けることができます。また、筑波研究学園都市を中心とした最先端の研究施設や、日立のものづくり技術、鹿島の工業地帯もあり、製造業から素材メーカーまで様々な産業が集積しています。これらの強みは、企業立地における優位性にもつながりますので、過去10年間の工業立地面積や県外企業立地件数では全国トップを誇っています。

また、温暖な気候に恵まれていることから、メロン、栗、レンコン、ピーマンの生産量では国内トップであり、農業産出額では北海道についで全国第2位と、"農業大県"と呼んでいただけるほどです。

このように高いポテンシャルを持った県ではありますが、少し視点を変えてみれば課題もみつかります。たとえば、人口は2,892千人(2017年10月1日現在)と北関東では第一位の規模を持っていますが、全国の地方都市の多くが直面している人口減少問題と無縁ではありません。「住みやすい」と評される半面、都道府県別の魅力度ランキングでは下位の常連で、「水戸黄門」「納豆」くらいしか浮かばないというお声をいただくこともあります。若年層の流出は続いており、とくに農家の人手不足や後継者不足から耕作放棄地問題などは年々深刻さを増しています。

そこで、昨年12月に、いち早く県政の方向性を示すため「新しい茨城づくり」政策ビジョンを掲げ、現在それをベースにした「新たな県総合計画」の策定をしているところです。引き続き①新しい豊かさ②新しい安心安全③新しい人財育成④新しい夢・希望という4つのチャレンジに試行錯誤しながら取り組んでいき、「活力があり、県民が日本一幸せな県」と言えるようにしたいと思っています。

長期的な取り組みですので性急な成果はのぞみにくいですが、「はじめの一歩」は踏み出せたと感じています。

――「新しい茨城づくり」政策について教えてください。

4つのチャレンジについてひとつずつお話します。まず「新しい豊かさ」へのチャレンジの軸として、産業創出についてご紹介します。これまでも茨城県は工場等を中心とした企業誘致に取り組んできましたが、工場誘致に留まらず、新たな成長分野(AI・IoT・ロボット・次世代自動車など)の研究所・本社機能等の県内移転を促進するため、1社あたり最大50億円という国内屈指の補助制度を設けました。ほかに、サテライトオフィスの整備やIT関連企業の県内移転に際するオフィス賃料の補助なども行っています。

図 新しい4つのチャレンジ

出典:茨城県

 

また、創業支援として、学際的研究機関の集積を生かし、「研究室から創業して定着するまで」を一貫サポートしています。筑波大学や産業技術総合研究所等が連携して行う「つくば産学連携強化プロジェクト」にも参加し、共同研究を支援することで技術シーズの創出を後押しするとともに、中小企業と技術シーズとのマッチングを進めていきたいと思っています。県内の中小企業は、高い技術力があっても、研究所等とのつながりがなく、技術シーズと結びついていないことが多いと感じています。有機的なつながりを生むための交流会や研究施設の見学ツアーの企画などを、県が主導することで、新規創業だけでなく、もともと技術を持っている既存企業の成長を促進し、新しい強みをつくってまいります。

次の「新しい安心安全」へのチャレンジでは、抜本的な医師不足(人口10万人あたりの医師数が全国ワースト2位)の解消に取り組んでいます。そこでまず、都道府県では初となる「在学中実質金利ゼロ」の医学部進学者向け教育ローンを創設しました。さらに、県立高校に医学部進学コースを新設したり、県外の医科大学との連携や海外の医科大学を卒業した日本人医師の受け入れによって医師の人数を増やすほか、子育て医師を応援する病児保育支援体制なども整えていきます。

三つめの「新しい人財育成」へのチャレンジでは、自ら課題をみつけ、いろいろな人を巻き込みながら解決策をみつけていけるアントレプレナー的な人材を育てることを目指しています。特に重視したい能力は、ITと英語の2つです。私自身がIT業界の出身ということもあり、「IT人材=IT業界で働く人」と解釈されがちですが、茨城県として育成したいのは、さまざまな業界でIT化による省力化や高付加価値化を推し進める人材です。

本年度からの新規事業として、英語の学習意欲・能力の高い中高生を対象に、インターネットを活用したトップレベルの学習や英語漬け体験研修等への参加プログラムを提供する「次世代グローバルリーダー育成事業」と、インターネットを活用して、全国トップレベルのプログラミング能力を持つ中高生を育成するとともに、多くの学生がプログラミングに興味を持つような学習サービスを提供する「プログラミング・エキスパート育成事業」の2つをスタートさせました。

従来の文部科学省主導の教育は横並びで底上げを意識したものが多かったですが、茨城県の中では、意欲のある人がどんどん力を伸ばせる、上を引っ張り上げる教育にチャレンジしたい。そこで本事業では、やる気と能力の高い人を約40名ずつ選抜します。「一人の天才が世の中を変えていく時代」に求められる若者たちを輩出することで、海外でも活躍できる、あるいは海外人材を迎え入れた茨城県で頑張ってくれるリーダー層の"人財"を厚くしていく狙いです。

そして、最後の「新しい夢・希望」へのチャレンジでは、茨城県の多様な魅力を国内外に戦略的・効果的に発信するとともに、豊富な地域資源を活用し、多くの人に来てみたいと思われる県を目指します。首都圏に近い茨城県にとって、東京オリンピック・パラリンピックは、県の魅力を世界に発信し、スポーツ文化、観光、産業など振興を図り、地域活性化を推進する絶好のチャンス。今年度からは、企業誘致や観光、県産品の販路拡大などの営業活動を強化するため、県庁に新しく「営業戦略部」を設置し、知事である私自身が先頭に立って、トップセールスを推し進めています。

いま、東京・銀座のアンテナショップでは、10月25日(木)のリニューアルオープンに向けて準備を進めているところです。これまでは、茨城の物産を気軽に購入できる店舗としておりましたが、茨城の良いものをきちんとした価格で評価していただくことが必要であると考えております。新たに名称を「IBARAKI sense( イバラキセンス)」と改め、今まで以上にブランド力の向上を目指す取組を行ってまいります。

茨城県の多様な魅力を大井川知事が先頭に立ってPRしている

――農業分野においても、ブランド力や付加価値アップによる「儲かる農業」を目指しておられますね。

"農業大県"と呼ばれると、茨城の農家はさぞかし裕福なのだろうと想像されるかもしれませんが、農業産出額が大きくても、農家1戸当たりの所得では全国9位(推計値)に留まっており、隣県である千葉とは年間100万円近い格差があるのが現状です。「いいものを作っても売れない」あるいは「付加価値の高い形で求められない」というのが茨城県の最大の悩みであり、農業を魅力的な産業に出来ないことが、後継者難や農業従事者の減少につながっているのです。さきほどお話した、製造業や研究機関の支援も大事ですが、国内第2位の生産力を生かし切れていない農業分野は伸びしろが大きいので、IoTなどを生かした産業の高度化を進めて、"儲かる農業"の実現に向けて新たな市場を開拓していけば、茨城県全体の活性化につながる大きな推進力になるでしょう。少々ステレオタイプが過ぎるかもしれませんが、「茨城の農家は、休日は外車に乗って出かける」とイメージしてもらえるくらいまで、農業を強くしたいのです。

方法は、コストを下げる、市場を拡大して大量に売る、単価を上げるという3つ。まず今年度予算の中では、農地の集約に着手することにしました。これまでエリア内で当事者同志が農地の貸し借りをすることがありましたが、虫食い的な土地の使い方になって作業の効率化が進みにくいという欠点がありました。そこで、100ヘクタール規模の水稲経営体を育成することで担い手不足への対応や低コスト化を図りやすくする「茨城モデル水稲メガファーム育成事業」を立ち上げました。県内2地区を大規模水稲経営体の育成対象エリアに選定し、担い手への農地集積・集約化と荒廃農地対策を進めているところです。さらに、一定の条件を満たせば、ドローンや水管理に使う水田センサーといったICTを導入する費用を補助する施策も併せて打ち出し、農作業の省力化も進めています。

――新たな発想による思い切った施策が打ち出されていますが、今後注力する取り組みを教えてください。

今年の8月27日に発表したのですが、「いばらき宇宙ビジネス創造拠点事業」に乗り出しました。ご承知のとおり、茨城県つくば市周辺には、宇宙航空研究開発機構(JAXA)など約30の研究機関が集積しています。すでにつくば市では、筑波大学発ベンチャーで小型衛星開発のワープスペース、衛星データ解析のビジョンテックといった"宇宙ベンチャー"も誕生しており、今後の展開に期待がふくらみます。都心からのアクセスの良さに加え、最大50億円の補助制度などの各種支援制度や、国・宇宙航空研究開発機構(JAXA)との連携といった、宇宙ビジネス創造についての県の本気度を世界にアピールし、宇宙ベンチャーの創出や県内企業の新規参入を後押ししていきたいと考えています。

宇宙ビジネスの創造が、茨城県への期待感をより一層高めていくことが期待される

宇宙ビジネスはリスクが大きいですが、その分だけロマンも大きく、わくわくしてきますよね。株式市場で、売上や利益に実績のない企業が"期待値"の大きさから高く評価されるように、地域も現状の力とは別に、「何かが起こりそうな町」「わくわくした気持ちで暮らせる県」といったイメージが、高い評価につながることがあると思います。このような取り組みを積み重ねることで、のんびりと保守的だった茨城県を"期待値"の高い県へと変えるきっかけをつくりたいですね。ベクトルの向きを変えることで、人口減少や産業衰退を引き起こす負のスパイラルは、プラス方向へと反転させてまいります。

 

大井川 和彦(おおいがわ・かずひこ)
茨城県知事
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