奈良県生駒市 「自治体3.0のまちづくり」とプロモーション戦略

自治体の情報発信の理想形を、3つの自治体と3企業が議論するシティプロモーション研究会。今回のフィールドワークの現場は、大阪圏の緑豊かな住宅都市である奈良県生駒市。暮らす価値のあるまちをいかに発信し、ブランド化するか方策を探った。

生駒市の女性起業家とのディスカッション風景

地域を活性化し、自治体と住民、訪問者との絆を深めるシティプロモーションのあり方を探る。これを目標に、事業構想大学院が主催し、3自治体・3企業が参加しているシティプロモーション研究会は、2018年7月に奈良県生駒市を訪問した。2日間にわたるフィールドワークでは、起業家や市民活動の実践者から地域のイメージやまちに対する想いを聞くことで「生駒らしさ」を言語化し、共有。その後、生駒市に最適なプロモーション戦略と戦術についてディスカッションを深めた。

生駒市は、奈良県の北西の端にある人口12万人の自治体。大阪都心部まで電車で約20分というアクセスの良さを活かし、1960~80年代にかけて大規模な新興住宅地が開発され、大阪のベッドタウンとして発展を遂げた。現在は、行政と市民がともに汗をかき、協創する「自治体3.0のまちづくり」を進め、単に行政サービスを享受する人ではなく、地域を愛し、主体的・能動的にかかわる人を増やすことで市民満足度と地域力をともに高めることを目指す。シティプロモーションもこの方針に基づき、「まちのファン(地域に参画し、地域を推奨する人)」を増やすことに注力し、市民PRチーム「いこまち宣伝部」やアウトドアイベント「IKOMA SUN FESTA」の実施など各種事業を展開している。

生駒市は丘陵と山に囲まれた地形で、坂が多いのが特徴だ。生駒山の中腹からは市内が一望できる

主体的な活動を引き出す空気

初日は、女性市民活動家の話を聞くことから始まった。ITを活用して地域課題解決を目指す「CODE for IKOMA」やIT・デジタル系の女性が集まる「生駒IT女子会」のメンバーとして活動する中垣由梨氏、市内育児サークルの運営を支援する「いこま育児ネット」代表の清水綾氏、生駒駅前のオープンスペースで月に1回開催される「いこママまるしぇ」実行委員の橋本知子氏が参加した。

生駒駅前で開催される「いこママまるしぇ」

3名とも活動当初から「まちを良くしたい」という強い気持ちがあったわけではない。自分の得意なことやスキルを活かして、地域とかかわる中で、徐々に「生駒で生まれ育ったのに愛はなかった。多くのいい出会いによって、生駒が大好きになった(中垣氏)」「ネットワークと役割が生まれたことで、日々バージョンアップしている自分を感じる。それが、このまちで生きていけるという実感につながった(清水氏)」などと気持ちの変化と活動する場の重要性が語られた。

例えば、橋本氏が実行委員としてかかわる「いこママまるしぇ」はママ達の手作り品やリラクゼーションのブースなど毎回10店舗ほどが出店し、母親同士が交流する機会になっている。50回の開催を経て、百貨店の催事に出展するような人気作家になったり、セラピストの女性達が合同で法人を設立したりするなどの事例も生まれた。

「手作り市がなぜまちづくり活動なのか」と言われたこともあったが、女性の居場所づくりや、キャリア面での成長の手掛かりとして機能しており、地域にプラスの影響を与えている。そんな活動に関わることが個人の幸福や満足につながっていることも伺え、「仲良くしたい」「話したい」「役に立ちたい」という人間の本質をうまく表現できる場づくりの重要性が確認された。

次に、女性起業家を迎えた。生駒は女性が生き生きと活躍している一方で、子育てに専念する高学歴の専業主婦が多いという特徴があるまちだ。市は新しい働き方や生き方を応援する拠点施設としてテレワーク&インキュベーションセンター「イコマド」の整備や、起業などキャリア支援のための講座を多数実施し、就業をサポートしている。

全文をご覧いただくには有料プランへのご登録が必要です。

  • 記事本文残り44%

月刊「事業構想」購読会員登録で
全てご覧いただくことができます。
今すぐ無料トライアルに登録しよう!

初月無料トライアル!

  • 雑誌「月刊事業構想」を送料無料でお届け
  • バックナンバー含む、オリジナル記事9,000本以上が読み放題
  • フォーラム・セミナーなどイベントに優先的にご招待

※無料体験後は自動的に有料購読に移行します。無料期間内に解約しても解約金は発生しません。