自治体の広報紙を多言語で電子化 若者や世界に魅力を伝える

自治体広報紙の電子化や多言語での情報発信を低コストで実現する情報発信ツール「MCCatalog+(エムシーカタログプラス)」の導入が、全国の自治体で進んでいる。高齢者や子どもも読みやすい文字を使った紙面で、若者や海外にも街の魅力を広く発信できる。

三芳町秘書広報室の佐久間智之氏、上野原市役所総務部企画課政策推進担当の大神田道成氏が、誰にとってもわかりやすい自治体広報について議論

広報紙の多言語化や
電子化を低コストで実現

多言語対応の情報発信ツール「MCCatalog+」は、国内の印刷・出版市場で約8割のシェアを持つフォントメーカーのモリサワが2015年にリリースした。

「MCCatalog+」は、広報紙や観光ガイド、フリーペーパー等の地域情報誌、レストランのメニュー、施設案内など紙の情報を日本語から、英語、中国語簡体字、中国語繁体字、韓国語、タイ語、ポルトガル語、スペイン語、インドネシア語の8言語に自動翻訳し、デジタルブックとしてスマートフォンなどに配信できるツールだ。

日本語を含めた9言語対応の自動音声読み上げや動画の埋め込み、Webリンクといった機能も備えている。電子化された情報は、無料のデジタルブックビューア「Catalog Pocket(カタポケ)」上に配信され、世界に向けて発信できる。

低コストでのデジタル化や多言語化を実現し、幅広い年齢層や地域に向けて情報発信できることから、全国の自治体で導入が進んでいる。

読みやすいUDフォントで
「優しい広報紙」に

2015年の全国広報コンクールで最高賞の内閣総理大臣賞に輝いた埼玉県三芳町では、広報紙「広報みよし」を通じて町のFAN=FUNと関与人口の獲得に向けて、「MCCatalog+」を活用した電子配信に取り組んでいる。

三芳町は人口約3万8000人で、東京の池袋から電車で約25分の距離に位置する。「東京から一番近い町」、そして「都会でもない田舎でもないトカイナカ」として町のプロモーションを展開してきた。

また、若い世代や町外の人たちにも町の魅力を知ってもらうため、様々な取り組みを進めている。町の広報大使は地元出身で「モーニング娘。OG」の吉澤ひとみさんと埼玉県出身のJuice=Juiceの金澤朋子さんが無償で町に協力している。さらに、従来はあまり若い人たちに読まれていなかった広報紙を幅広い年齢層に読まれるものにしようと、近年、大きく刷新した。

「マンションのチラシを捨てるゴミ箱に、広報紙が読まれずに捨てられているのを見て、広報紙を変えたいと考えるようになりました」。三芳町秘書広報室の佐久間智之氏は、2011年に庁内の公募で立候補して広報担当に着任。「日本一の広報」を目指し、広報紙の刷新に取り組んできた。

まずは手に取って読んでもらえる広報紙になるよう、「表紙はインパクトのあるものにしなければ」と考えた。若い人たちを意識し、広報紙のタイトルは従来の「みよし」という平仮名表記からローマ字表記の「Miyoshi」に変えた。

広報紙の作成で必要となる写真撮影や編集、デザインは独学で習得した。印刷以外の作業は自ら行うことで、制作にかかる費用を従来の半分程度に抑え、広報紙をフルカラー化した。

さらに、若い読者に向けてQRコードやAR(拡張現実)も活用し、クロスメディア化を進めた。2015年以降は、外国人の居住者や訪問者にも読んでもらえるよう、自治体初となる広報紙の5言語化(当時)に取り組み、その際、「MCCatalog+」を導入した。

他方で、「優しい広報紙」をそのコンセプトとし、高齢者や視力が低い人にも読みやすい紙面づくりも目指してきた。「1人でも多くの人に町の情報を伝えるには、文字への配慮、そして見てすぐわかるデザインが重要です」(佐久間氏)。

広報紙に用いる文字には、「文字のかたちがわかりやすい」、「読みまちがえにくい」、「文章が読みやすい」というコンセプトで開発された、モリサワの「UD(ユニバーサルデザイン)フォント」を採用した。

以前は「広報紙の文字が小さい」という苦情も寄せられていたが、UDフォントに変更してからは、書体の大きさは変えていないにもかかわらず、そのような苦情が届くことはなくなった。

佐久間氏が作成したフォントの比較の例。同じ大きさの字(級数)だが、UD書体の方が、高齢者や子どもでも読みやすい

広報紙作成に活用できる
閲覧データ

今年の全国広報コンクールで総務大臣賞を受賞した山梨県上野原市も、広報のデジタル化に注力し、多言語対応の「MCCatalog+」を導入している。

「現在は大部分の方がスマートフォンなどを持っており、特に若い子育て世代は忙しく、効率的に情報を得ようとしています。また、若者の活字離れも指摘されています」

総務部企画課で広報紙作成を担当してきた大神田道成氏は、このような中、スマートフォン向けの情報発信は必須と考えてきた。上野原市は東京都八王子市の高尾から電車で約17分の距離にあり、豊かな自然に恵まれ、訪れる観光客も多い。現在約2万3000人の人口は減少傾向にあるが、市民主体の様々な活動が始動している。

広報紙の作成では「頑張る市民を応援する 人と人とをつなぐ広報」を目指し、市民の写真を大きく配置。また、余白には市内の店舗で割引やサービスを受けられるクーポンも掲載し、子育て世代の主婦らを中心に利用されているという。

広報紙のデジタル化では、以前は無料のアプリを使用していたが、多言語に対応していなかったほか、高齢者が読みにくい、広報紙しか配信できないといった問題があった。市内には外国人居住者が増加していることもあり、これらの問題に対応できるMCCatalog+を導入した。

デジタルブックビューアのCatalog Pocketは、広報紙だけでなく、イベント情報や防災関係のコンテンツなど様々な情報の配信にも利用できる。

「防災関係のコンテンツを配信していれば、いざという時に紙のマップを持っていない人に、スマートフォンで見てもらうことも可能です」と、モリサワ公共ビジネス推進課の盛田辰彦氏は言う。

さらに、MCCatalog+は閲覧者の位置情報や閲覧時間、リンクタップ数などの分析ツールも提供しており、全国各地や海外でも広報紙が見られていることをログ解析で確認できる。これらのデータは、広報紙を幅広い読者のニーズに合ったものにしていくため、活用することも可能だ。

お問い合わせ


株式会社モリサワ
公共ビジネス推進課
Tel:03-3267-1378
http://www.mccatalog.jp/koho/

 

この記事に関するお問い合わせは以下のフォームより送信してください。