2018年8月号

地域特集 秋田県

日本に「100万人の村」が誕生? 年貢を払えば誰でも村民に

武田 昌大(kedama 代表)

1
​ ​ ​

村があるから村民がいるのではなく、村民がいるから村ができる――。秋田県の辺境で、「村」の概念をひっくり返すプロジェクトが始まっている。それは、都市部の若者を巻き込み、過疎化が進む田舎町に多くの人を呼び込んでいる。

秋田県五城目町にある築130超の古民家で、シェアビレッジ・プロジェクトは始まった

全国的に見ても急激なペースで人口減少が進む秋田県。2017年、県の人口は100万人を切り、99.5万人となった。その秋田県の小さな町で、全国の古民家を「村」に変えて、「100万人の村」をつくるプロジェクトが始まっている。

2014年、秋田駅から車で約40分、日本の原風景が残る五城目(ごじょうめ)町で「シェアビレッジ・プロジェクト」が始まった。シェアビレッジは、古民家を「村」に見立て、その村の維持・管理費を全国の多くの人たちでシェアする仕組みだ。

「年貢」と呼ばれる年会費3000円を払えば、誰でも「村民」になれる。村民になると自分が好きなときに「村」へ行き、田舎体験をしたり、宿泊したりすることができる。また、現地に行くのが難しければ、都市部で開催される村民だけの飲み会「寄合」に参加できる。

2018年6月時点で村民は2100人。シェアビレッジは、仕組みとしては年会費制の古民家ゲストハウスだが、それを「村」という世界観に落とし込むことで、多くの若者を呼び込むことに成功した。そのユニークなプロジェクトを「村長」として牽引しているのが、武田昌大氏だ。

武田 昌大(kedama 代表)

失われていく日本の原風景

武田氏は秋田県鷹巣町(現・北秋田市)出身。大学で地元を出て、東京のゲーム会社に就職したが、秋田から離れたことで郷土愛を意識するようになった。

2010年、秋田のお米をネット販売するサービス「トラ男」をスタート。農家一人一人が丹精込めて育てた単一農家の"純米"を届ける「トラ男」の事業は、着実に成長していた。

しかし武田氏は、新たな課題を感じていた。

「秋田の人口減少は深刻です。お米のネット販売で外貨を稼ぐだけでなく、人に来てもらえる事業が必要だと考えました」

例えば、農業体験を楽しめる宿泊施設をつくれないか。いろいろな人に事業アイデアを相談して出会ったのが、五城目町にある築130年超の古民家だった。屋根は茅葺で、広い土間にはかまどがあり、畳の部屋には囲炉裏がある。見た瞬間、その古民家に惹かれた武田氏だったが、物件のオーナーと話をして衝撃の事実を知った。

「古民家を見つけたのは2014年5月でしたが、3ヵ月後の8月に取り壊される予定でした。オーナーの方は秋田市に住み、通いながら古民家を管理していて、普段は人がいないので傷むスピードが速い。また、茅葺屋根のメンテには年間数百万円のお金がかかる。人とお金の2つの問題があったんです。ショックを受けると同時に、日本には同じような課題を抱えた古民家がたくさんあるのではないか。それが知らない間にどんどん失われて、50年後、100年後には1軒もなくなるのではと危機感を覚えたんです」

畳の部屋には囲炉裏があり、「懐かしさ」を感じさせる風景が広がる。武田氏は「『村』の世界観をつくり出すうえで、ハードの力は大きい」と語る

地域を救うにはエンタメが必要

日本の原風景を次の100年に受け継ぐために、古民家を残せる仕組みをつくれないか。そこから着想したのが、古民家を「村」に見立てて、全国から支援者を集めるシェアビレッジだった。

「各地に古民家カフェや古民家民宿がありますが、それらは人の多い観光地や大都市の近くでないと成り立たず、五城目町では難しい。また、補助金による古民家活用では、永続性がありません。僕がやりたいのは、外からの人もいれば地元の人もいて、子供も大人もいる場。そこから『村』というコンセプトが出てきて、そこに集う人はみんな『村民』。年会費は、村民が年に1度納めるものなので『年貢』。仲良くなった村民同士で古民家に行くのは『里帰』で、年に1度のフェスは『一揆』。どんどん世界観が広がっていきました」

村民同士で古民家を訪ねる『里帰』、年に1度のフェス『一揆』、体を動かして地域に貢献する『助太刀』など、いろいろな仕組みを準備し、参加のきっかけをつくり出している

武田氏は自らを「妄想が得意」と語る。ぐるぐると思考をめぐらせている中で、キーワードとなる言葉が降りてくるという。

「トラ男のときは、農業系のワードと男系のワードをたくさん考えて、ひたすら掛け算しました。その結果が、トラクターに乗る男前農家集団で『トラ男』です。トラ男もシェアビレッジも根は真面目ですが、一見、バカバカしく見える。でもそれが大事で、地方の衰退というマイナスのイメージが強い課題を、そのまま真面目に解決しようとすると、多くの人を巻き込むのが難しくなります。人を楽しませるエンターテイメントが、地域活性においても重要です」

あえて地名を前面に出さない

武田氏はシェアビレッジ・プロジェクトを実現させるため、クラウドファンディングを実施。「自分の村を持てる」というユニークなプロジェクトはSNSでも拡散し、約1.7万もの「いいね!」を集めた。

結果、開始時点で850人以上の村民を集めた。

「単に『年会費を払って会員になりましょう』では、それだけの数は集まりません。『年貢』だから、都会の若者にも面白がってもらえます。また、『秋田』という地名を前面に出さなかったこともポイントです。『秋田の古民家を救おう』では、多くの人が自分とは無関係だと思ってしまう。地域の人たちは地名をアピールしたがりますが、広く届けたいなら、地名を出すことにこだわってはダメです」

武田氏は見せ方を工夫し、古民家や田舎暮らしに興味がない人にも刺さるメッセージ、コンセプトをつくり上げた。五城目町のシェアビレッジは2015年5月にオープンし、その後も順調に村民は増え続けた。それは町に変化をもたらした。

「30年ぶりに地元のお祭りが復活し、そこに東京の若者が参加して、おみこしを担いだり。地域の課題の1つは、人手不足です。シェアビレッジには『助太刀』という仕組みもあって、村民が汗を流して地域に貢献する。シェアビレッジでの宿泊は、単なる観光ではなく村づくりの体験なんです」

全国に広がる仮想の「村」

シェアビレッジの収益源は、年貢や宿泊費、イベントや体験プログラムの参加料などだ。前述のように2100人の村民がおり、すでに古民家の維持には十分な収益を得ている。

2016年5月には、香川県三豊市の仁尾(にお)地区で第2の村「シェアビレッジ仁尾」がスタートした。2018年中には、第3、第4の村もオープンする予定だ。

2016年5月、香川県三豊市・仁尾地区に「第2の村」が誕生。「シェアビレッジ仁尾」は、築100年を超える瓦葺の古民家だ

「仁尾は、築100年を超える瓦葺の古民家です。『村』の世界観をつくり出すうえで、ハードの力は大きい。各地の古民家については、僕が自分で見て、良いかどうかを決めています」

シェアビレッジを増やすにあたって、一番大きいのは「人」の問題だという。

「地元の人との関係づくりが大事です。いきなり僕が行っても、信頼関係を築くのは時間がかかる。仁尾の場合、香川に移住した友人がコーディネーターになってくれて、現地で運営を担う人との間を取り持ってくれました。よそ者だけでプロジェクトを成功させるのは難しいと思います」

シェアビレッジ仁尾の運営組織は、武田氏の会社ではなく、現地の地域活性団体だ。各地のシェアビレッジは、仲間でありつつ競争相手でもあると武田氏は語る。

「それぞれが、自分たちで稼ぐ力を高めることが大事です。リスクをとらずに、まちづくりの夢ばかり語っていても前には進みません。地域には稼ぐ力が不足しています。補助金に頼らず、自分たちで事業をまわしていくことが、結果的には地域のためになる。シェアビレッジの仕事はハードで、地域にそれを担えるだけのポテンシャルのある人材が必要です。でも、シェアビレッジに関心があっても、自分で運営するのは自信がないという若者も多い。それが一番の課題だと考えています」

シェアビレッジには自治体からの視察も多いという。

「シェアビレッジは、表面的に真似しても意味がありません。年会費ビジネスは他でも行われていて、シェアビレッジの仕組み自体にはイノベーションはない。それよりも、運用面や細部を含めた世界観、それを体現する人の存在がやはり重要なんです」

地方創生の限界を超えて

シェアビレッジは今後、独立した人たちのネットワークとして全国に広がっていく。武田氏は、その後の展開も見据えている。

「人の移動は、地方から東京への一方通行で続いてきましたが、近年は移住施策など、都市から地方への移動にも力が注がれています。でも、地方から地方へ、世界から地方への流れもあり得る。シェアビレッジでは、秋田のお米が香川に行ったり、香川の柑橘類が秋田に行ったりしています。ローカル同士がつながることで、お互いに無いものを補い、ローカルは豊かになれる。地方の人同士で交流することは、新たな発見にもつながります」

武田氏は、東京・日本橋でおむすびスタンド『ANDON』を運営。都市部の村民が交流する拠点にもなっている

全国にシェアビレッジが増えれば、村民にとっては、日本のディープな田舎をめぐる旅も可能になる。

「地方創生の限界として、全国の1718市町村は『うちに来てほしい』としか言えません。でも、ほとんどの人にとって、田舎はどれも同じように見えて、どうやって選べばいいのかわからない。一方で僕たちは、各地で連携して、田舎との縁をつくり出し、そこに行くきっかけを提供します。今、各地で人の誘致競争が繰り広げられ、パイの奪い合いが起きています。僕にとっては『日本は1つの村』という感覚で、国民はみんな『村民』になり得る。そうした視点で、プロジェクトを進めています」

事業モデルの観点から言えば、シェアビレッジは固定客づくりの施策でもある。武田氏自身、「お米のネット販売を始めて、サービスを知ってもらうこと、お客をつくることの大変さを痛感した」と語るが、「村民」というロイヤリティの高い顧客を多数抱えることは、それを起点に様々なサービスを打ち出せることを意味する。すでに大きな話題を集めているシェアビレッジだが、その真価はこれから発揮されることになる。

 

武田 昌大 (たけだ・まさひろ)
kedama 代表
1
​ ​ ​

バックナンバー

メルマガで記事を受け取る

メルマガ会員限定で、
ピックアップしたオンライン記事を
毎日お届けします。

以下でメルマガの登録ができます。

社風が変わる、イノベーターが育つ

地方創生・イノベーションにつながるアイデアと思考に注目!

志高い、ビジネスパーソン・行政・NPO職員・起業家が理想の事業を構想し、それを実現していくのに役立つ情報を提供する、実践的メディア。

最新情報をチェック。

バックナンバー検索

注目のバックナンバーはこちら

会員になると 最新「事業構想」が読み放題。さらに

会員の特典をもっとみる