自治体からの提案で社会を変える 「提案募集方式」5年目の課題

自治体の提案で、法律や通達を地域の実情に合ったものに変える「提案募集方式」。既に多くの提案がなされ、2017年には約9割が実現につながるという、驚異的な成果を出している。地方分権改革シンポジウムでは、制度のすそ野を拡大する方策が議論され、先進事例を表彰した。

パネルディスカッションでは、田中里沙・事業構想大学院大学学長をはじめとする大学・行政からの登壇者に加え、NPO法人わははねっと理事長の中橋恵美子氏、十勝バスの野村文吾社長が議論に参加した

気候や地理的条件が異なる国土の中、1億3000万人が生活する日本。国が定める一律の公共サービスを提供したのでは、地域のニーズを満たすことはできない。そこで、地域の実情に応じて、各自治体が自らの判断で、独自のルールや基準を定められるようにしようと、2014年に地方分権改革に関する「提案募集方式」が始動した。

このシステムが間もなく5年目を迎えることから、内閣府は、2018年3月19日、地方分権改革シンポジウムを開催。これまでの取組を振り返り、提案募集方式の成果を評価した。

地方の提案で制度を変える

「提案募集方式」とは、地方の発意に基づく取組を推進するために、個々の自治体などから、地方分権改革に関する提案を広く募集し、提案の実現に向けて検討を行う制度だ。改善の対象は、法律、政令、省令・規則から通知・要綱、運用の改善までさまざま。フォーラムで開会のあいさつをした内閣府事務次官の河内隆氏は「制度開始から1900件以上の提案があり、7割以上が実現されている。地方の現場の支障に基づく切実な提案が上がり、国の制度を変えている。ただ、この制度に提案を上げた自治体の数は223に留まり、参加自治体の拡大が必要だと考えている」と、制度の現状を説明した。

東京大学公共政策大学院の客員教授で、1995年~2007年までは宮城県知事として地方分権改革を推し進めた増田寛也氏も登壇。1999年に地方分権一括法を成立させた第一次分権改革と、提案募集方式の導入に結実した第二次分権改革を振り返り、制度が始まった背景を説明した。

また、学習院大学法科大学院教授の大橋洋一氏は、「提案の応募を見ると、地方行政の現場が抱える課題が見えてくる」と、単なる制度変更にとどまらない提案募集方式の意義を説明。2017年の提案数とその実現率などを紹介した。提案募集制度の実現・対応の割合は89.9%と、実現の可能性が非常に高い制度と言える。国の制度の、他の是正手続、例えば「行政不服審査における行政不服審査会答申に見る取消率」は17.5%、「行政訴訟における原告の勝訴率」は8.9%に過ぎない。地方行政の現場を取り巻く様々な不具合を修正する際には、非常に有効な手段と言える。

大橋氏は、子ども・子育て関連の施策と、地域公共交通を例に、提案方式の有効性を紹介した。これらの施策は市民生活には欠かせないため、過疎化や人口減の中でも、自治体では限られた資源をやりくりしてサービスを提供しようとしている。ここで、国の基準が高すぎれば、サービスを受けられない市民が大量に発生することになる。 

例えば、「放課後児童支援員」の資格や人員配置の一部緩和や、居室の面積基準の緩和の特例の対象地域拡大、ファミリー・サポート・センター事業の会員数の下限(50人)を下げるなど、人手不足や過疎化に悩む地域の実情に合わせた基準作りで、従来は不可能なサービスの提供が可能になる地域もある。地域交通では、タクシーでの貨客混載や、自治体の自家用有償旅客運送の条件緩和などで、地域に不可欠な交通インフラを確保できる可能性が増す。

なお、フォーラムに登壇した十勝バス代表取締役の野村文吾氏も、地域特性に合わせた交通インフラの規制が必要なことを指摘している。広大な北海道では道庁のみで全ての地域に当てはまるルールを作ることが難しい。「今回のフォーラムで提案募集方式について学び、様々な手がかりが得られた」と野村氏は語った。

全文をご覧いただくには有料プランへのご登録が必要です。

  • 記事本文残り42%

月刊「事業構想」購読会員登録で
全てご覧いただくことができます。
今すぐ無料トライアルに登録しよう!

初月無料トライアル!

  • 雑誌「月刊事業構想」を送料無料でお届け
  • バックナンバー含む、オリジナル記事9,000本以上が読み放題
  • フォーラム・セミナーなどイベントに優先的にご招待

※無料体験後は自動的に有料購読に移行します。無料期間内に解約しても解約金は発生しません。