オフィス内で紙をつくる新技術、小さな循環で大きな効果

エプソンが開発した、使用済みの紙から新たな紙を生み出す製品『ペーパーラボ』。それは、持続可能な社会を実現する技術であり、SDGsの観点でも注目を集める。SDGsと経営の関係、『ペーパーラボ』の可能性について、伊藤園・笹谷常務執行役員とエプソン販売・小川取締役が語る。

笹谷 秀光(伊藤園 常務執行役員・CSR推進部長)

小川 浩司(エプソン販売 取締役・販売推進本部長)

――伊藤園は2017年度「ジャパンSDGsアワード」において、特別賞を受賞しています。早くからSDGs(持続可能な開発目標)への対応に取り組まれてきた伊藤園・笹谷常務執行役員は、SDGsのポイントについて、どう見ていますか。

笹谷:SDGsには、チャンスとリスクの両面があります。

SDGsが掲げる17の目標は、企業が自社の強み・技術を活かして取り組むべき社会課題であり、その解決に挑むことは市場開拓につながるなど、経済価値をもたらします。一方でSDGsには、守るべき社会・環境のリスクを軽視すると、事業継続ができなくなるというリスクの側面もあります。

経営学者のマイケル・ポーター教授が提唱した「CSV(共有価値の創造)」は、事業活動の成果と社会課題解決の同時実現を目指しています。つまりSDGsは、CSVをバージョンアップさせるものでもあるのです。

それでは、自社の経営戦略とSDGsをどう結び付けたらよいのか。それを考えるうえで有用なツールが、SDGコンパスです。SDGコンパスは、国連グローバル・コンパクト等が作成した企業の行動指針であり、持続可能性を経営戦略の中心に据えるためのツールと知識がまとめられています。

企業にとって、ESG(環境・社会・ガバナンス)の3要素を統合する、しかもそれに本業として取り組むことの重要性は高まっています。SDGコンパス等を参照し、経済価値や競争優位の実現、社会・環境リスク回避や課題解決の両立を目指すことが、企業に求められているのです。

数々の「価値」を同時に実現

――持続可能な社会につながる製品として、使用済みの紙から新たな紙を生み出すエプソンの『PaperLab(ペーパーラボ)A-8000』が注目を集めています。

小川:従来、紙のリサイクルでは、大量の水が使われていました。『ペーパーラボ』の大きな特徴は、製紙工程で水をほとんど使わないことです。そのため、導入するのに給排水工事は不要で、オフィスフロアにも設置しやすくなっています。

『ペーパーラボ』は、エプソン独自の新技術「ドライファイバーテクノロジー」によって実現しました。それは、紙を繊維に戻し(繊維化)、結合素材によって強度・白色度の向上や色付けを行い(結合)、新たな紙をつくり出す(成形)技術です。

『ペーパーラボ』が提供する価値は、主に3つあります。1つは、機密文書などの紙を細長い繊維に分解し情報を完全に抹消するため、機密情報の漏えいを防げるというセキュリティ向上。2つ目が、名刺用の厚紙や色紙など、用途に合わせた多様な紙を生産できることによるアップサイクルの実現。そして3つ目が、小さなサイクルで循環型社会を実現し、環境負荷を低減する効果です。

『ペーパーラボ』により、企業・自治体の建物内で紙のリサイクルができ、資源の再利用が活性化されます。

『ペーパーラボ』は2016年11月に発売し、すでに多くの企業に導入いただいています。自治体や地域での活用も進んでおり、給紙する紙の仕分けを福祉団体に業務委託して、障がい者の雇用創出につながっている事例も出ています。

『ぺーパーラボ』は、1時間当たり約720枚の紙を生産。紙の色や厚さ、サイズの指定が可能で、用途に合わせた、さまざまな紙をつくり出すことができる

事業拡大へ、SDGsを活かす

笹谷:『ペーパーラボ』は、SDGsが掲げる数々の目標に合致する画期的な製品だと思います。

まず、リサイクルへの貢献は「目標12:つくる責任、つかう責任」に該当します。次にイノベーションを成し遂げたという意味で「目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう」。

また、水をほとんど使わず、輸送に関わるCO2が削減されるなどの環境負荷低減に注目すれば、「目標6:安全な水とトイレを世界中に」、「目標7:エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」、「目標13:気候変動に具体的な対策を」、「目標15:陸の豊かさも守ろう」が当てはまります。

さらに、情報セキュリティ向上の点で「目標16:平和と公正をすべての人に」。小さなサイクルで建物内において紙をリサイクルすることは、社員・職員の環境教育にもつながりますから、「目標4:質の高い教育をみんなに」。そして、障がい者の雇用創出は「目標8:働きがいも経済成長も」という課題を解決します。

また、『ペーパーラボ』には、文化を変えていくポテンシャルもあります。紙には、「見やすい」「理解しやすい」「記憶に残りやすい」といった価値があります。しかし現在、企業活動において環境対応が厳しくなり、ペーパーレスが進んだことで、本来は紙で出力して確認すべき文書まで、印刷を遠慮するような雰囲気も生まれています。

『ペーパーラボ』は紙を印刷しやすい環境を整えるものであり、それはプリンタの価値も変えていきます。コアコンピタンス(中核的な事業)とのシナジーも期待され、今後、海外への展開も考えられるかもしれません。

一般に、SDGsは「持続可能な開発目標」と訳されていますが、それでは固い印象があり、私は「持続可能性に関する世界の共通言語」と呼んでいます。『ペーパーラボ』を「世界の共通言語」であるSDGsに位置づけることは、海外市場を見据えるうえでも意味を持ちます。

小川:『ペーパーラボ』は水資源が乏しい国や地域では特に有用な製品であり、世界に広げられる可能性があると思います。

今後、製品のさらなる小型化・低価格化を進め、将来的には1社に1台、オフィス内でプリンタの脇に『ペーパーラボ』が設置されているような未来を実現していきたいと考えています。

エプソンは今後も、『ペーパーラボ』により紙に新たな価値を与え、紙ならではの豊かなコミュニケーションを活性化させることで、紙の未来を変えることに力を入れていきます。

 

お問い合わせ


エプソン販売株式会社
PaperLabインフォメーションセンター
TEL:050-3155-8990
URL:http://www.epson.jp/paperlab

 

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