空き店舗を活用し、人生100年時代のコミュニティを創る
空き資源をコミュニティ形成の場として活かそうとする取り組みが、全国各地で行われている。そのような中、千葉県酒々井町にて、外部人材が空き店舗を活用して立ち上げたコミュニティ施設「KOKO」は、オープンから1年も経たずに地域住民のたまり場として定着し、注目を集めている。
千葉県の北部中央に位置する酒々井町は、人口約2万人。数十万人が訪れるアウトレットがあることでも知られている。しかし、町中の賑わいが寂しく、地域住民の高齢化が深刻化していることが問題となっている。全国生涯学習まちづくり協会理事の鮫島真弓氏は地域のポテンシャルをいかすことで、この問題を解決できると考え、約1年前に空き店舗だった場所を活用したコミュニティ施設「KOKO」をオープンした。
「高齢者や障がい者、社会的弱者にも目を向け、偏見のない、みんなが支えていける場所を酒々井町に創りたいという想いで『KOKO』を運営しています。整骨院や歯医者の帰りがけや散歩の途中などに地域の人々に気軽に立ち寄っていだけており、1日20名~30名の方にお越しいただいています」
「KOKO」では1杯100円でコーヒーを提供し、また地域住民による手作りの革製品やアクセサリーなどの商品、家庭菜園で作りすぎてしまった野菜を販売している。コーヒーはテレビ番組で見つけた静岡県のコーヒー専門店から取り寄せし、手作り商品も鮫島氏自ら販売基準を満たしているか審査を行うなど、クオリティーに拘っている。
「ここはみんなの居場所だったので、まず、飲み物を飲みながらお話をできるようにしました。コーヒーも近所のお店やスーパーで購入すれば済みます。しかし、たった100円でも美味しいと言っていただけるよう、拘ったものを提供しています。手作り商品も非常に丁寧に作られていて、安いとおっしゃっていただけています」と鮫島氏は話す。
誠意が伝わり、地域との信頼関係を構築
フォーラムの交流会で小坂泰久町長に相談し、元々は町のクリーニング屋であった空き店舗を紹介してもらい、オープンに漕ぎつけたという鮫島氏。しかし、オープン当初は中々人が集まらず、苦戦したという。
「『KOKO』のことを知っていただくには紙媒体しかありませんが、よそ者であったため、信用がなく、人を集めることに苦労しました。続けている中で『何をしているの?』と尋ねてくださる方がおり、説明をする中で信頼を得ることができました。そして、『あそこ中々いいよ』と口コミで話してくださることが一番の宣伝になりました。誠心誠意でやるという姿勢と、私のキャラクターが受け入れられたのが一番大事だったと思います」
現在では、机や棚、食器、絵など内装はすべて、地域住民から提供を受けており、地域住民による地域住民のためのたまり場として定着している。次の展開としては、アウトレットに来ている人が時間調整の場所として活用できるようにして、アウトレットでは購入することのできない手作り商品を買いに来るようにすることで、結果として「酒々井町っていい町だね」と言ってもらえるようにしたいと意気込みを語る。
また、今後の構想として、町の人と協力して未来永劫続く食堂を作りたい、と鮫島氏。「酒々井町は竹がいっぱいで、邪魔になっており、この竹を使って何かできないかと考えています。例えば、竹の容器に、竹のスプーンで、真黒いタケノコ入りのカレーをお出しする。ここに来ると真黒いカレーが食べられるように、町のみんなで取り組みたいです。町の人が作り出したものはみんなが大事にします」
近年、空き家、廃校、空き店舗、空き公共施設といった「空き」が全国各地で見受けられるようになっており、社会問題化している。これらの「空き」は、放置しておけば、何も使われない無価値なものになってしまうばかりか、景観を乱す、再開発を止めてしまう、治安の悪化を招く、などのマイナスの影響も出てきてしまう。しかし、KOKOの事例のように、地域の人々には地域の人同士でつながる場が欲しいといったニーズがあり、見方を変え、有用な「資源」として活用し、新たな事業創出や地域の活性化に役立てることも可能なはずだ。