海士町、邑南町、雲南市 なぜ島根は地域活性で先行できるのか

地域活性学会の第9回研究大会が島根県浜田市の島根県立大学で開催された。大会はこれまでで最も多い463名が参加し、そのうち173名が登壇して研究発表が行われ、活発な議論が繰り広げられた。

過去最大規模の熱気あふれるフロアの模様 Photo by M. Imase

地域活性学会(事務局:事業構想大学院大学)は、2008年の設立以降、研究者だけでなく、自治体、企業、NPOなど地域活性化に関わる実務家が多く会員となっていることが特徴で、地域活性化分野では最大規模の900名が会員として活動している。毎年1回開催されている研究大会(全国大会)は、今年は9月1日(金)~3日(日)の3日間、島根県浜田市の島根県立大学・浜田キャンパスで開催された。

島根は「課題先進地」

開催地となった島根県は、人口減少や超高齢化が全国でも最も進んでいる。大会実行委員長の久保田章市浜田市長は、課題の多い島根県にこそ、全国から地域活性の最先端で活躍する実務家や専門家、研究者に集まってもらい、活発に議論することで、智慧も集まり地域も盛り上がるのではないかと考えていた。4年前に東京の大学教員から故郷の浜田に戻り市長選挙に立候補した際にも、地域活性学会の誘致開催を公約の一つに挙げたほどである。

「今回の学会のテーマとして、『課題先進地における地方創生への挑戦』を提案させていただきました。ご存知のように、島根県は人口減少や超高齢化が全国でも最も進んでいる地域のひとつです。それは、ひるがえって『課題先進地』であるともいえます。島根県内でも、海士町(あまちょう)、邑南町(おおなんちょう)、雲南市(うんなんし)をはじめ、様々な地域の先進的な取り組みが全国的にも注目されております」と久保田市長。

歓迎の挨拶を行う溝口善兵衛島根県知事 Photo by M.Imase

過疎地では刑務所も
産業活性に寄与

今回の大会では、島根県を生きたケースとして取り上げるプログラムが数多く準備された。

まず研究大会に先立って、初日にエクスカーションが行われ、バスに分乗して現場の視察を行った。初めに向かった島根あさひ社会復帰促進センター(浜田市旭町)は、2008年に官民協働のPFI方式で開所した刑務所である。誘致から過疎地域における地域産業への波及など、詳しく説明があった。神楽工房のワークくわの木、国際貿易港の浜田港、市の基幹産業である漁業の関連施設や、高度衛生管理型荷捌施設の建設計画方策などの解説を市の職員から説明を受けながら視察した。

第一日目のパネリスト。島根県内で特色ある施策を展開する自治体の首長など登壇した

意欲を持った若者が大きな力に

基調講演は、「ないものはない~離島からの挑戦」と題して、海士町の事例を山内道雄町長の代理として海士町地産地商課の大江和彦課長が行った。大江課長は、山内町長の右腕として、海士町での改革を進めてきた。

「官から民へということがよくいわれますが、海士町では、官から官へということで、町が率先して、まず職員給与を削減し、意識を変えて様々な地域活性化のプロジェクトに本気で取り組んできました。島を丸ごとブランド化する取り組み、島前高校魅力化プロジェクトをはじめとする取り組みなどがきっかけとなり、600人近い定住者が生まれました。総人口は変わらないものの、若者がたくさん住む島になっています」

「かつては後鳥羽上皇も流罪され住まわれた島で、時代の変遷を経ても様々な異文化が流入してそれを受け入れてきました。よそ者に対して寛容な風土があります」

引き続いてのシンポジウムでは、島根県内で特徴的な取り組みで注目される自治体の首長らがそろった。

邑南町の石橋良治町長は、A級グルメ、耕すシェフ、日本一子育て村構想などで注目を集める。雲南市の速水雄一市長は、2004年に合併して誕生した雲南市の初代市長。幸雲南塾を中心に、地域自主組織づくりを担う人財育成に力を注いでいる。

浜田市の久保田章市市長は、広島市場開拓室を設置して地産品のPRを推進、ふるさと納税やシングルペアレントの受け入れでも注目されている。

パネリストやコメンテーターからは、島根県内の離島や中山間地域において、地域活性化のモデルケースといえるような事例が数多く生まれ、注目を集めるようになってきている状況が次々と報告された。また、地域資源を活かした取り組みが広がることで地域での持続的な生活基盤が形成されている状況や、都市から流入して定着した若者の活躍ぶりが話題となった。

意欲ある人材の活躍で
地域の未来を拓く

翌日のシンポジウムでは、「課題先進地域の挑戦~いかにして若者、よそ者に活躍の場をつくるか~」と題して、現場の第一線で活躍する多彩な若手のパネリストが登壇した。

岩本悠さんは、島根県教育魅力化特命官として、全国から次々世代の地域リーダーの卵を募集する「島留学」の創設など、地域をつくる学校づくりに取り組んでいる。

寺本英仁さんは、邑南町農林振興課職員でありながら、「A級グルメのまち」仕掛人として、道の駅、町営イタリアンレストラン、食の学校、耕すシェフの研修制度等を手掛ける。NHKテレビで「スーパー公務員」としても紹介されている。

森田朱音さんは、福岡出身で海士町に移住し、現在はおおち山くじら生産者組合でイノシシ(おおち山くじら)を軸とした事業づくりに奮闘している。

矢田明子さんは、NPO法人おっちラボ代表理事。出雲市出身の3児の母で幸雲南塾1期で地域に飛び出す医療人材によるコミュニティ作りを提案し、町で働くナースの育成を手がけるCommunity Nurse Companyを2017年に設立、代表取締役も務める。

これらのパネリストとコーディネーターによって熱いディスカッションが繰り広げられた。そのなかで、「多くのIターン、Uターンの若者、そして移住者たちが、決して都会暮らしが嫌になって移住しているのではなく、意欲をもって地方を目指している、それが地域の活性化につながっている」とパネリストたちは指摘する。課題先進地から新しい動きが生まれ始めて、それが定着し始めていることが実感できた大会であった。