札幌市×Visa インバウンド消費喚起のベストプラクティス

外国人宿泊者数が急増し、2026年冬季オリンピック・パラリンピックの招致も目指す北海道札幌市。外国人旅行者による消費拡大に向けたキャッシュレス環境整備の取り組みを加速している。

森 有史(札幌市 経済観光局観光・MICE推進部長)

旅行者数だけでなく
経済的側面にも着目する

札幌市では近年、外国人宿泊者数が急増している。2012年度は約68万人だったが、2013年度には105万人に増加、2015年度には191万人を超え、過去最多となった。2026年冬季オリンピック・パラリンピック招致も目指す中、市を挙げて観光客を歓迎する「おもてなしのうねり」を生み出そうとしている。

「外国人宿泊者数は急増していますが、その一方で、黙っていても観光客に来ていただけるような時代は終わりました。今の時代は旅行客に繰り返し来ていただけるような魅力づくりや利便性向上への努力が重要だと感じます」

「おもてなし」に関する様々な施策を進めている札幌市経済観光局観光・MICE推進部長の森有史氏は、こう指摘する。市では昨年4月、観光分野における経済的な取り組みを強化するため、従来の「観光文化局」を「経済観光局」という名称に変更した。

また2013年から、訪日観光振興に力を入れるビザ・ワールドワイド・ジャパン(Visa)との連携も開始した。Visaの協力を得て、世界的に有名な「さっぽろ雪まつり」を中心に外国人旅行者歓迎姿勢を明確に示し、買い物を楽しんでもらうための環境整備を進めてきた。

具体的には、雪まつりの時期に「Enjoy Shopping in Sapporo」を多言語で表記した約100本のストリートフラッグを札幌駅の駅前通りに掲げた。あわせて市内の商業者を対象に、外国人旅行者受け入れに必要なことが学べるセミナーを開催してきた。Visaとの連携に際しては、訪日外国人誘致でVisaと協力してきたJTBが橋渡し役となった。

「外国人旅行者のショッピングは、経済的に重要です。市では『札幌市観光まちづくりプラン』を策定し、様々な観光施策に取り組んできましたが、行政機関だけではできないことも多く、民間のVisaやJTBとの連携を始めました」

世界規模のペイメント・テクノロジーを提供しているVisaと連携すれば、外国人旅行者が買い物をしやすいキャッシュレス環境の整備に向けた様々な活動が展開できる。さらにVisaの世界的なネットワークを通じて、雪まつりの魅力を世界に発信できると考えた。

「今の時代は観光について、ノウハウが蓄積されていない役所だけで考えるのではなく、民間の方々の知恵を拝借することも重要です。役所の施策で『足りない』と指摘されたことには、真摯に向き合う素直な気持ちも必要だと感じます。連携に際しては、行政と民間の両者にメリットがある、Win-Winの政策構築、推進が前提となります」

外国人旅行者の利便性を高めるためには、自分が海外旅行に行った際、不便に感じたことは何かと考えることも役立つ。他方で、日本と海外の国や地域には文化の違いがあり、また日本国内においても、関東や関西の都市と北海道や札幌のような地域では事情が異なる。

札幌市内の商業者を対象に、外国人旅行者受け入れに必要なことが学べるセミナーを開催

インバウンド増加に必要な
行政と事業者の意識改革

「北海道、札幌は『島国』で、おもてなしの精神はあるものの、引っ込み思案なところもあります。言葉が通じない外国人には来てほしくないという店もありますが、買い物をしたい人がいるのに『来てもらわなくて良い』というのはよくありません。冬季オリンピック・パラリンピック誘致に向けても、行政が意識改革に取り組む必要があると思います」

市内の飲食店では、市の「おもてなし」を担当するチームが外国語で表記したメニュー作成を支援する取り組みも進めている。現在は試験的に、市内の寿司店を対象として始めようとしており、将来的には様々な業種に広げようとしている。また、クレジットカード利用が可能であることを明示する取り組みも促進している。

Enjoy Shopping in Sapporoを多言語で表現したストリートフラッグを駅前通りに掲示

旅行形態の変化がもたらす
キャッシュレスの重要性

外国人旅行者が急増する一方で、近年は団体旅行から個人旅行への旅行形態の変化もみられる。「旅行形態が変わる中、キャッシュレス環境を整備し、個人の旅行客も不便を感じることなく、安心して安全に歩ける街づくりが求められていると思います」。

民間との連携や外国人旅行者の利便性向上、街の魅力づくりでは、各自治体には自治体ごとに存在する様々なルールに縛られない、柔軟な対応も求められる。ルールを基本としつつ、市民や地域経済のため、どうすれば新しい取り組みができるかと考えることが必要になる。

札幌市の海外に向けたPR事業は、これまでアジア中心だったが、今後は欧米にもシフトさせていく。その一環として現在、京都市など関西圏の自治体と共に、海外富裕層の観光客誘致を目指す「日本ラグジュアリートラベルアライアンス」にも参加している。さらに、雪が多い北海道では2月の雪まつりの時期を除き、11月~4月は観光閑散期だ。このため、この時期の観光客誘客が課題となっており、現在、日本新三大夜景に選ばれた札幌の夜景を、より魅力あるものにする取り組みも行っている。「5年を1スパンと思っているので、既存の取り組みに加えて、キャッシュレス環境の整備についても新たな展開を考えていきたいと思います」と森氏は力強く語る。

 

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