アンケートや展示会だけではない 失敗しないフィールド・リサーチ

地域の特産品や伝統工芸品、固有資源を活かした観光サービスを、海外を含めた域外に売り出していく際に必須のスキルとなる「フィールド・リサーチ」について、ふるさとグローバルプロデューサー育成支援事業の講義内容をもとに紹介する。

グローバル展開という新たな挑戦から地域を活性化させるためには、成功確率を高める取り組みが必要だ。

地域においては、関係者が見える構造になっており、失敗体験は全体的に否定的な空気を醸成する恐れがある。また、地域の中小規模の事業主にとって、新規事業での失敗は大きなダメージとなる。地域の資源を活性化する使命を負うプロデューサーとしては、リサーチ能力をうまく活用し、成功を後押しする必要がある。

成功確率を高めるために必要なこととして、まず徹底した顧客の理解があげられる。プロデュースする地域資源の顧客、あるいは顧客になる可能性のある人はだれか。明確な仮説を持っていないと検証することはできない。顧客を理解するためにも仮説の立案が最も重要なステップの一つである。仮説を持ったうえで、顧客のリサーチを行うが、これは言い換えれば最初の顧客の獲得活動とも言える。リサーチで情報収集するだけでなく、どういったモノやコトであれば購入意向があるのか、調べる過程で購入意思を獲得することもできる。このリサーチを兼ねた営業活動の中で、小さな失敗を繰り返しておけば、後々の大きな失敗を避けることができる。

次に必要な条件は、質の高い情報を基礎とすることである。誰もが知っているマクロな統計やインターネットで単純に調べた情報だけでは、例え数多く情報が集まったとしても、価値がない。質の高い情報、特に現地で質問・観察・実験することで得られた情報を基盤にすることで、独自なプロデュースが可能になる。とは言え、情報の偏りを補正するためには、ある程度の網羅性も必要であり、網羅しつつ質的に高いデータを収集する必要がある。

フィールド・リサーチの手法

フィールドリサーチは大まかに分類すると、(1)プレリサーチ、(2)定量的調査、(3)定性的調査、(4)プロトタイピングの4つに区分可能である。ここでは、概要のみ紹介する。

(1)プレリサーチ

あらかじめ2次データを用いて、顧客となりうるセグメントや当該分野の市場の状況、競合およびそのビジネスモデルなどに関する情報を収集・分析することで、想定すべき背景・文脈を理解し、よりよい仮説につなげるものである。

(2)定量的調査

事業の推進にあたって、定量的な調査結果は多くの場面において説得力を持つ武器となる。定量的調査は、アンケートなどを用いた自身の「事業構想」に対する顧客の購買意志や感覚を直接的に聞く方法と、既に存在するデータ、たとえばPOSデータなどの解析によってその内容を確かめる方法が想定できる。

(3)定性的調査

インタビュー調査と観察調査がおもな調査手法となる。インタビュー調査においても、専門家へのインタビューや顧客へのインタビューなど対象も様々であり、また方法もあらかじめ質問項目を定めておく構造的インタビューや自由形式でのインタビュー、個別インタビューとグループインタビューなど様々である。観察に関しても、行動観察や参与観察など様々な手法が確立され、企業での応用も進んでいる。

(4)プロトタイピング

プロトタイピングとは、試作品(プロトタイプ)を作成し、それを実際に顧客に利用してもらうことによって、実質的な反応や感想などを収集する実験的な方法である。

フィールド・リサーチの事例

フィールドリサーチの全体像

フィールド・リサーチを具体的にイメージするために、長野県飯田市の市田柿をドライフルーツの一種としてヨーロッパへのプロデュースを計画している研修生である中島氏のリサーチ計画を検討する。

STEP1

ヨーロッパにおけるドライフルーツ市場のリサーチ

手法:オープンデータによる調査(プレリサーチ,定量)

飯田市の名産品である市田柿

 

ヨーロッパにおけるドライフルーツ市場について書かれた文献より現在の市場規模、品目等を把握し、市場参入の可能性を調査する。

 

STEP2

ヨーロッパでの顧客嗜好調査

手法:アンケート(定量的調査)

ドライフルーツ、スイーツ、健康に関する意識調査をすべく,SNS等を使い,現地協力者周辺の人々に対してアンケートを実施する。特に市田柿は原体では受け入れられにくいと思われるので、どのような加工をすれば受け入れられやすいのかを明確にする。

 

STEP3

ヨーロッパに適した市田柿スタイルの検証

手法:プロトタイプ商品によるアンケート&デプスインタビュー(定量,定性,プロトタイピング)

得られたアンケート結果をもとにプロトタイプを作成する。ヨーロッパでのプロトタイピング評価はコスト,実施可能性などのハードルも高いため、長野県内への外国からの観光客(白馬のスキーエリアを想定)に対してプロトタイプを提供(試食)し,評価する。2か月程度の間に2~3回転し、プロトタイプも市場に合わせて改善していく。

 

この計画では、仮説確認のためのプレリサーチ、現地でのアンケート調査、日本でのプロトタイプと構成されている。実際に産品があるので、プロトタイプで調査できるのは大きな強みである。本来は現地での調査が望ましいが、コストの関係から県内の観光地を選択するというのは次善策として十分な対応である。ただ、日本への共感度が高い層であることを留意し、デプスインタビューなどを交え、現地の雰囲気を感じ取ることが重要になってくるだろう。

今後必要になってくるのはここでのリサーチ結果を集約・統合・分析し、自らのプロデュース内容の改善に努めることである。さらに、約150名のふるさとグローバルプロデューサー全体のリサーチ知見を統合することができれば、今後海外展開する企業にとって重要な資産とすることができる。

ふるさとグローバルプロデューサーは、ふるさとプロデューサー等育成支援事業において、育成しています。当事業は、中小企業庁の補助事業として株式会社ジェイアール東日本企画が実施しています。同社は、カリキュラムの作成等を学校法人日本教育研究団事業構想大学院大学に委託しています。

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