地域で信頼関係を築く力が必須
地域に埋もれた資源をブランド化して、地域を活性化しようとする時、域内外の人々と連携体制をつくり、立ちはだかる課題をクリアしながら進んでいかねばならない。地域プロデュースで多くの実績を持つマイティー千葉重の千葉大貴代表に、現場経験から築き上げた「地域プロジェクトの作り方」のスキームや注意点について語っていただいた。
仙台市に本拠地を置くマイティー千葉重は、「地域・食・IT」を3本柱に、地域ブランド開発や地域プロジェクトの企画・運営などを行っている。
千葉氏の地域プロデュースの原点は、牛肉のBSE問題で風評被害に苦しんでいた仙台の牛タン業界の支援活動だ。署名活動やキャンペーンを行ううち、ボランティアでは継続性に限界があると実感。「牛タン振興会」を立ち上げ、日本酒や牛タンマップなどのコンテンツを開発して自走する活動モデルを作った。地域との連携で活動の輪は広がり、風評被害は払拭。楽天の牛タンランキングで1位を獲得するまでになった。
「地域プロジェクトでは、地域の人々が主役であることを忘れないことです」と千葉氏。
「地域の理想の姿を描くのはあくまでも地域の人々。プロデューサーはそこに寄り添うだけです。地域の人々が、このプロジェクトは自分たちが決めたことだと責任を持てば、プロジェクトの途中で問題が起きても一丸となって立ち向うことができます」。
マイティー千葉重では地域経営を実現するための「プロジェクト展開チャート」を構築している。
第1のプロセスは「地域プロジェクト会議」を立ち上げて地域側の要望を聞くこと。地域が求める支援テーマは、販路開拓、資金調達、商品開発、6次産業化、地域誘客が多いという。
要望を聞いたら、そこから本質的な課題を洗い出す。その時に「課題整理マップ」が役に立つ。地域の人々が考える課題をヒアリングして付箋紙に書き、どんどん貼っていく。それに優先順位を決めて並べ替え、因果関係を探ると本質が見えてくるという。
ヒアリングする相手は多様性を持たせる。質問は「What」「Why」「How」を繰り返して掘り下げる。聞き取ったことは「事実」と「課題」に分けて整理。その一方で、出てきた課題を統計や情報データ等と照らし合わせて検証する。「例えば、地域の人たちが自分たちの町は元気だと思っていても、データをみると過疎化が進んでいたなど、思っていることと現実にギャップがあることは少なくありません。データによる客観的な検証は大切です」。
では、実際にどのように検証したことをプロジェクトに落とし込むのか。千葉氏はメカジキで地域再生に挑む気仙沼の事例を挙げて説明する。
気仙沼はフカヒレで有名だが、実はメカジキの水揚げ量日本一で、全体の70%を占める。このメカジキで地域復興したいという相談が来た。メカジキをどうやって売っていくか。その方法を探るため、メカジキをよく食べるスペインを視察。現地ではメカジキは肉の代用品として食べられており、その食感は高級ステーキ肉のようだった。帰国後、メカジキのすき焼きやしゃぶしゃぶを開発。調理フォーラムでそれを紹介すると、美味しいと話題になりよく売れた。ところが、地元から苦情が殺到したのである。
そこでもう一度「課題整理マップ」で原因を調べると、国の補助金が消え、漁に出る大型船が減り、漁獲高が落ちていた。そこに調理フォーラムを実施したためメカジキの価格が高騰。地元への供給が回らなくなっていたのだ。
「そこで、東京に売り込むのではなく、誘客して地元で食べてもらうことにしました。その実現には、このプロジェクトは飲食店が儲かるためのものではなく、地域全体を潤すためのものであることを広く知ってもらう必要がありました」。啓蒙活動の結果、水産関係者を含む地域の人々や商工会議所、自治体などの参加を得て「メカジキブランド化推進委員会」が立ち上がった。
ここからが展開チャートの第2プロセス「地域のプロジェクト組織の立ち上げ」だ。組織の活動は理念に基づき、効果的かつ持続可能な内容でなければならない。そのポジショニングを測る指標は3点。(1)「地域のあるべき姿や理想の未来(理念の設定)」。(2)「地域の魅力探しとブラッシュアップ(地域資源の棚卸)」。(3)「マーケットニーズ」。
気仙沼で言えば次のようになる。(1)地域に誘客したい。(2)メカジキを柱にしたい。(3)美味しいメカジキ料理を提供するため飲食店と提携。メカジキブランド化推進委員会はこの3つが重なるプロジェクトしかしないという行動ルールを決めて活動をスタートした。
活動内容を考える上で、上空から地域を見た「地域資源のロケーションマップ」が参考になる。地上ではわからなかった人や物の動き、人同士や物と人との相互作用などが見えてくる。
地域の組織・人間関係の俯瞰図
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