2016年8月号

五輪を契機に自社の構想を考える

「2020年のビジネスになにが起こるのか?」オリンピックイヤー~ビジネスショーケースの中身

岸波 宗洋(事業構想大学院大学教授、事業構想研究所所長)

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1945年、第二次世界大戦の終焉を迎え、退廃に満ちた日本は朝鮮戦争特需によって息を吹き返すことになった。そして、1964年の東京五輪は、その大規模な公共事業への投資が起点となり、第二次高度経済成長期の礎を築いた。

一方で、2020年は全く異なった経済局面であり、安倍政権のキーワードでもある「財政出動」だけで景気のV字化を促すことは難しい。前の北京五輪のようにアフターオリンピックの景気反動を危惧する向きもある。そして2016年のリオ五輪は、あたかも商業五輪の陰りを象徴するように、警察官のストライキやジカ熱等最低限の公共インフラが担保されない事態にもなっている。必ずしも順風満帆ではないこのオリンピック・パラリンピックの機会において、我々はどのような羅針盤を持つべきなのか?

2020年の契機において、筆者個人が考えるクリティカルポイントは「物質価値から精神価値へのサービスシフト」である。特に、日本の景気に大きく影響を与える「サービス産業」において、大変革のチャンスと捉える必要がある。そもそも、日本のGDPにおけるサービス産業の雇用割合は70%を超える。つまり、資源を持たない日本においてサービス産業は要であるにもかかわらず、その労働生産性の成長率は先進国の中でも低い部類だ。また、国内の他分野(製造、金融など)と比較しても、生産性が低い状態が続いている。これらを解決するためには、以下の図のような事業構想のあり方が必要だと考える。

図:サービス産業視点での事業構想プロセス

最も重要なことは、6つのサービス産業視点である。経済産業省商務情報政策局のレポートにおいて、この6つの視点はサービス産業の復興に欠かせないポイントと位置づけられている。

 

(1)科学的アプローチ

サービス産業の科学的アプローチで最も想起されるのはIoTやAIではないだろうか。さらに、FinTech(ファイナンシャルテクノロジー)分野においてはブロックチェーンという大手金融機関に依存しない技術革新を生んでいる。これらはサービス産業の精神価値をより高めるために必要な科学である。

 

(2)サービスプロセスの改善

サービス産業、とりわけ人間の叡智が介在する職能において、個々の人間にノウハウが蓄積されて汎用化がなされないケースは多い。それは、人間の行いや思考を制御するオートメーションが科学的に実現できなかった背景によるものだが、前述のように既に制御可能なIT技術を獲得し得る段階において、検討を進めなければならない。そうしなければ、サービス産業に関わる人間の格差や相対的な労働単価を向上させることができないからだ。

 

(3)サービスの高付加価値化

自民党のIT戦略特命委員会が発行する提言書「デジタルニッポン」において、「3O(トリプルオー:おもいやり、おもてなし、おせっかい)」が標榜されている。デフレ景況において、より高い付加価値を提示しなければ、市場は拡大しない。サービス産業における精神価値とは、まさに3Oのような日本独自のサービス感性であり、それ自体が付加価値として昇華されるべきであろう。

 

(4)イノベーション人材の育成

特にサービス産業におけるイノベーション人材の育成は急務、と言える。2020年ではインバウンド需要が最大化し、コミュニケーション齟齬の問題や動線確保、キャッシュフローの円滑化、その他ライフサポートの拡充など市場を最大化するための取り組みは枚挙に暇がない。これらを構想し現実解を得られる力が決定的に不足している。

 

(5)グローバル展開アプローチ

インバウンド需要が増える、ということは、逆に彼らの国において市場を獲得するチャンスでもある。そういう意味で、2020年はビジネスショーケースであり、ここを起点に海外進出を画策することが重要だ。特に日本のサービス産業における品質、性能は海外に比して常に高水準であり、認知・理解変容が高まれば、確実に海外の市場性を網羅することができる。旅館しかり、サービスマーケティングしかり、である。

 

(6)地域展開アプローチ

日本国内のムーブメントとして、日本らしさをどうビジネス化するか?に注力する向きが多い。一方で、「クロスカルチャー」という逆の考え方も志向すべきである。つまり、海外から訪れる外国人のために、彼らの個々の文化性に馴染んだサービスを提供することで彼らとの距離を縮める、という考え方である。流入する外国人を詳細にセグメントし、彼らのアンダーグラウンド(宗教、法制度、生活習慣、趣味志向、キャッシュフローなど)を理解し、それに応じたサービスを提供するのだ。決して、「NIPPON」を押し売りしてはならない。押し売りしていいのは、彼らの期待をはるかに凌駕するサービスにおいてのみ、である。

最後に、2020ビジネスイノベーションを広く包含し得るテーマとして、個人的に注目するものを列挙したい。

まずは、前述したFinTechに代表されるFSI分野(金融、証券、保険)である。生活キャッシュフローのあり方から引いては家計、貯蓄、財テクに至るまで、インバウンドの刺激によって日本人の経済・金銭価値がドラスティックに変化する可能性に期待したい。また、パラリンピックを契機とした「ユニバーサルデザイン」に対するベクトルが明確になるはずだ。国、自治体、企業のユニバーサルデザインの取り組み方が確立され、ビジネスとして成功を収める企業が多く排出されるだろう。そして、それらを総括する機能を持ったマーケティングイノベーションである。インバウンド・アウトバウンド志向が強化され、まさにマーケティングのボーダーレス化を加速させる。

もちろん、上記以外にもヘルスケア分野やエコシステム分野など、充分に期待可能性の高い各テーマにおいて、イノベーションを志向する各人がサービス産業視点を持って、アフターオリンピックの持続的成長を担保したモデルを構想することを期待するものである。

 

セミナーのお知らせ

2020年に向けたビジネスを考える CMO会議

(主催:事業構想大学院大学附属 事業構想研究所)

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