JAL×兵庫県豊岡市 航空会社の「メディア化」で地域発信
都市と地域の交流人口を増やすために、JALは2011年から地域振興プロジェクト「JAPAN PROJECT」を手掛ける。成功を収めた兵庫県豊岡市とのプロジェクトについて、企画を牽引した市担当者の谷口雄彦氏(環境経済部大交流課)とJALの二木真氏(宣伝部企画媒体グループ長)が語り合った。
二木 「JAPAN PROJECT(以下JP)」は毎月、日本のひとつの地域を取り上げ、観光資源となる文化、伝統、風景、食、人などに焦点を当てて、1ヵ月にわたりJALの機内誌、機内ビデオ、機内食、ウェブサイト、空港ラウンジなどで多角的、集中的に紹介する地域振興プロジェクトです。
少子高齢化を迎え、都市と地域の交流人口を増やしていくことが今後ますます重要になっていくなかで、JPはそのきっかけ作りを担っています。豊岡市には弊社が大阪(伊丹空港)から単独路線を運航するコウノトリ但馬空港があり、弊社の責任として需要を生み出す仕掛けが必要でした。同時に城崎温泉、但馬牛やカニという魅力的なコンテンツが豊富で、観光地としての大きなポテンシャルを感じ、2012年11月にJPで豊岡市を特集させて頂きました。
谷口 豊岡市では昨年10月に地方創生総合戦略を策定しましたが、それ以前から市長のもとで「大交流」という言葉を掲げ、人口減少時代への対策を進めてきました。「大交流」には3本の柱があります。歴史、風土など豊岡にしかないものを大切にしたまちづくりをすること、その取り組みを知ってもらうこと、実際に豊岡に足を運んでもらうために交流基盤を整えることの3つです。「大交流」を実現するために、観光は不可欠であり、JALには以前から機内誌などの媒体を活用させてもらっていましたが、JPでは、大々的に取り上げてもらいました。
機内食で豊岡の魅力を商品化
二木 当時、豊岡とくに城崎温泉は関西ではメジャー級の観光地でしたが、首都圏では認知度が低かった。そこで、特に首都圏の方に魅力を知ってもらおうと、「温泉」と「食」というわかりやすい切り口で紹介しましたね。
谷口 大交流の戦略のひとつ「固有のものを大事にする」ということが最もよく現れているのが、城崎の温泉街ですからね。温泉地では宿泊客をひとつのホテルで囲い込むことが多いのですが、城崎は、伝統的に「町全体が一つの旅館」というコンセプトで、お客さまには積極的に、宿から出てもらいます。浴衣を着ての外湯めぐりも、共存共栄の表れのひとつなのです。「食」でいうと、JALの機内食で豊岡のカニをお出ししました。
二木 城崎温泉で創業150年の旅館・西村屋の料理長に監修して頂いて、豊岡のカニを半身使った豪華な料理を国内線のファーストクラスの機内食でお出ししました。これは、いままでのJPの中でも極めて好評を得た機内食でした。JP以降、但馬空港の利用者数も伸び続けていて、豊岡市は大きな成功例のひとつと考えています。
コウノトリ但馬空港の利用者数と東京乗継者数の推移
エリアプロデューサーの存在が鍵
谷口 情報発信だけでなく、「体験の場」にもなるのがありがたいです。
二木 私は地域振興で大切なのは、継続性だと思っています。豊岡の場合、JPをきっかけとして、キラーコンテンツである城崎温泉について、さまざまな媒体でアピールし続けるだけでなく、さらに最近ではミラノ万博の日本館のフードコートで採用された豊岡の米の話題など、新しい魅力も発信されている。そこが素晴らしいと思います。
これまでJPを続けてきて、持続的な地域活性化のためには、食や文化など地域の魅力を横断的につなげることができる、地元に根差したエリアプロデューサー的人材が必要だと感じています。谷口さんはまさにそんな人材だと思います。
谷口 市役所の職員が何かをやったということではなく、民間の方がしていることをサポートすることを意識しています。仕事を進めていくうえで自然と横に手が伸びてくだけで、やり過ぎて怒られていますよ(笑)
二木 もうひとつ、豊岡を訪ねて驚くのは、市の職員の方々が地元に溶け込んで、住民の皆さんと一緒になって汗をかいていること。競争より協業の時代と言われていますが、みんなで盛り上がっていこうという一体感が町全体にあって、応援したくなる地域です。
ミシュラン・グリーンガイド・ジャポンで二つ星を獲得
谷口 豊岡の人は、とにかく豊岡の町が好き。その溢れる気持ちは市外の方にも伝わっていると思います。JP以降も続いているJALとのご縁もあって、「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」では城崎温泉が二つ星で掲載することができました。
二木 発信するにも、本物の魅力がなければ、表層的なものになってしまう。豊岡は「住んで良し、訪れて良し」という魅力があり、海外の方にも浸透するだろうと思っていました。インバウンドでも、一過性を追わず、愚直に情報を発信し、滞在の質を高める取り組みに集中していましたので、海外からも評価されたのではないでしょうか。
谷口 日本のお客さまあってのインバウンドということを忘れないで、我々の価値をわかって頂けるお客さまに伝えていこうと考えています。外国人宿泊者数はもともと数千人程度でしたが、今年は2万3000人の目標に対して、1月から9月で2万人に達しました。野心的な目標ですが、東京五輪の年には10万人を目指していきます。
二木 我々の役割は、地域の魅力を発信し知ってもらい、飛行機に乗って実際に現地を訪れてもらうこと。人の流れを生んで、定着させ、良い循環を生み出すことが我々の使命だと思っています。これからも一緒に仕掛けていきましょう。
- (編集協力)
- 日本航空株式会社
- http://www.jal.co.jp
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